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サリーが頭の中で言葉を発した。
『サム隊長、どこですか?』
『ワルサー邸の玄関前だ。雑魚は片づけた。正面から入ってくれ』
王宮で戦況を見守っているメンバー達の感嘆の声が聞こえる。
『了解。マーカスとロバートは?』
ロバートが答えた。
『今しがた寝室に入った。耳から出て状況を伝え……っう!』
『どうしたの!』
マーカスの声がする。
『奥方の頭が転がっている……誰も動いてないのに……』
ウサキチの声だ。
『黒い粒子は凶器だ。マーカスは大丈夫なのか?』
『私は上手く抜け出せました。今は天井照明にとまっています。あっ、ロバートも来ました。彼も無事です』
『良かった……』
サリーが心からの言葉を発した。
正門をくぐり、走ってくるサリー猫の姿を確認したサムが、手を上げて合図を送る。
『行くぞ!』
『はい!』
イースの声が聞こえた。
『邪神は? どのような姿なんだ?』
ロバートが答える。
『黒いローブを羽織ってベッドに腰かけています。思ったより小さいな……大きさ的にはサリー位か?』
シューンが声を出した。
『よし! 我々も出るぞ!』
全員の耳に馬車の扉が開いた音が聞こえた。
王妃はその場で膝まづき、手を強く握って祈っている。
イースがギュッと眼を瞑って、唇を嚙みしめた。
王はドカッと椅子に座り、静かに目を瞑る。
戦いの火蓋は切って落とされたのだ。
サム隊長の足元まで走り寄ったサリー猫は、二階を見上げた。
『上ね? 二階なの?』
『二階の一番北側の部屋だ。階段を上がったら、そのまま左に進んでくれ』
『了解だ。サリー離れるなよ』
『わかったわ』
屋敷内の会話を聞いていたシューンとウサキチが顔を見合わせた。
『まず俺は出る。いつも通りで行くぞ』
『わかった』
もう何度も同じ経験をしてきた二人に、余計な会話は不要だ。
ウサキチが走りながら腰に下げた剣をするっと撫でた。
『もうすぐ到着する。サム隊長、持ちこたえてくれ』
シューンの声にサム隊長が返事をした。
『信者たちはあらかた片づけましたが、残党がいます。気を付けてください』
『全員でシューンを守れ!』
イースの声が響いた。
その瞬間、どこからともなく平民の服をまとった近衛騎士が湧きだした。
先頭を走る者が全員に指示を飛ばし、シューン達を囲んで走り始めた。
『殿下、失礼します』
体格の良い一人がシューンを抱きあげる。
もう一人が走り寄り、ウサキチの体もふわっと浮いた。
『君たちも参戦してくれるのか?』
『はい、私は通信手段を託されております』
イースがシューンに語りかけた。
『余計なお世話と思ってくれるな。彼らは志願してくれたんだ』
『兄上……ありがとう。みんなもありがとうね。でも絶対に死なないようにして欲しい』
ウサキチを抱き上げて走っている兵士が、シューンの顔を見てニコッと笑った。
シューンとウサキチを囲むようにして門をくぐると、どこからかわらわらと黒いローブを着た信者たちが現れた。
「包囲を解くな。構わんから切り捨てろ!」
リーダーだろう男の声が屋敷の中にも聞こえる。
「来たな。我々も急ぐぞ、サリー」
サリーは頷いて階段を駆け上がった。
情報通り二階に上がりきったところで左に曲がろうとしたとき、サムの声が響き、サリーの体が宙に舞った。
「危ない!」
曲がり角に身を潜めていたのか、信者がサムの剣を腹に受けて跪いた。
「すまん、蹴った」
「いいの。ごめんなさい、気が焦ってしまって」
「いや、お前が無事ならそれでいい」
二人は廊下を駆け抜ける。
開け放たれたドアから数人の男や女が飛び出した。
サムを信じて、サリーは信者の足元を駆け抜ける。
「二人とも! 無事なの!」
部屋に駆け込んだサリーの耳元にプーンという羽音がした。
「サム隊長は?」
マーカスの声が微かに聞こえた。
声の大きさと体の大きさは比例するのね……サリーはそんなことを考えた。
「もう来るはずよ。シューン達の進路を確保してる」
「そろそろだな」
「うん、戻すよ!」
言うなりサリーは呪文を唱えた。
真っ白な霞の中から二人の男が姿を現す。
『サム隊長、どこですか?』
『ワルサー邸の玄関前だ。雑魚は片づけた。正面から入ってくれ』
王宮で戦況を見守っているメンバー達の感嘆の声が聞こえる。
『了解。マーカスとロバートは?』
ロバートが答えた。
『今しがた寝室に入った。耳から出て状況を伝え……っう!』
『どうしたの!』
マーカスの声がする。
『奥方の頭が転がっている……誰も動いてないのに……』
ウサキチの声だ。
『黒い粒子は凶器だ。マーカスは大丈夫なのか?』
『私は上手く抜け出せました。今は天井照明にとまっています。あっ、ロバートも来ました。彼も無事です』
『良かった……』
サリーが心からの言葉を発した。
正門をくぐり、走ってくるサリー猫の姿を確認したサムが、手を上げて合図を送る。
『行くぞ!』
『はい!』
イースの声が聞こえた。
『邪神は? どのような姿なんだ?』
ロバートが答える。
『黒いローブを羽織ってベッドに腰かけています。思ったより小さいな……大きさ的にはサリー位か?』
シューンが声を出した。
『よし! 我々も出るぞ!』
全員の耳に馬車の扉が開いた音が聞こえた。
王妃はその場で膝まづき、手を強く握って祈っている。
イースがギュッと眼を瞑って、唇を嚙みしめた。
王はドカッと椅子に座り、静かに目を瞑る。
戦いの火蓋は切って落とされたのだ。
サム隊長の足元まで走り寄ったサリー猫は、二階を見上げた。
『上ね? 二階なの?』
『二階の一番北側の部屋だ。階段を上がったら、そのまま左に進んでくれ』
『了解だ。サリー離れるなよ』
『わかったわ』
屋敷内の会話を聞いていたシューンとウサキチが顔を見合わせた。
『まず俺は出る。いつも通りで行くぞ』
『わかった』
もう何度も同じ経験をしてきた二人に、余計な会話は不要だ。
ウサキチが走りながら腰に下げた剣をするっと撫でた。
『もうすぐ到着する。サム隊長、持ちこたえてくれ』
シューンの声にサム隊長が返事をした。
『信者たちはあらかた片づけましたが、残党がいます。気を付けてください』
『全員でシューンを守れ!』
イースの声が響いた。
その瞬間、どこからともなく平民の服をまとった近衛騎士が湧きだした。
先頭を走る者が全員に指示を飛ばし、シューン達を囲んで走り始めた。
『殿下、失礼します』
体格の良い一人がシューンを抱きあげる。
もう一人が走り寄り、ウサキチの体もふわっと浮いた。
『君たちも参戦してくれるのか?』
『はい、私は通信手段を託されております』
イースがシューンに語りかけた。
『余計なお世話と思ってくれるな。彼らは志願してくれたんだ』
『兄上……ありがとう。みんなもありがとうね。でも絶対に死なないようにして欲しい』
ウサキチを抱き上げて走っている兵士が、シューンの顔を見てニコッと笑った。
シューンとウサキチを囲むようにして門をくぐると、どこからかわらわらと黒いローブを着た信者たちが現れた。
「包囲を解くな。構わんから切り捨てろ!」
リーダーだろう男の声が屋敷の中にも聞こえる。
「来たな。我々も急ぐぞ、サリー」
サリーは頷いて階段を駆け上がった。
情報通り二階に上がりきったところで左に曲がろうとしたとき、サムの声が響き、サリーの体が宙に舞った。
「危ない!」
曲がり角に身を潜めていたのか、信者がサムの剣を腹に受けて跪いた。
「すまん、蹴った」
「いいの。ごめんなさい、気が焦ってしまって」
「いや、お前が無事ならそれでいい」
二人は廊下を駆け抜ける。
開け放たれたドアから数人の男や女が飛び出した。
サムを信じて、サリーは信者の足元を駆け抜ける。
「二人とも! 無事なの!」
部屋に駆け込んだサリーの耳元にプーンという羽音がした。
「サム隊長は?」
マーカスの声が微かに聞こえた。
声の大きさと体の大きさは比例するのね……サリーはそんなことを考えた。
「もう来るはずよ。シューン達の進路を確保してる」
「そろそろだな」
「うん、戻すよ!」
言うなりサリーは呪文を唱えた。
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