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「詳細を話すことはできないが、必ず君のもとに戻ってくる。信じて待っていてくれ。ライラ、僕は君を心から愛している」
「ロバート、難しいお役目なのね? わかった。信じてまっているわ。愛してる」
強く抱きしめあったロバートとライラは、名残惜しそうに体を離した。
「行ってくるよ」
「ええ、どうかご無事で」
ロバートは会議室に足を向けた。
一方、今から羽虫になって他人の耳の中に入ろうとしている筈のマーカスは、いたって通常運転だ。
「何をしてるんだ? そんなことより、やらなくてはいけないことがあるんじゃないのか? 婚約者に会いに行くとか」
「イース殿下、私に婚約者がいないことはご存じでしょう? それに両親は領地に戻っていますから、会おうと思ったらひと月は休みをいただかないといけません。それよりこの王立病院に関する書類ですが……」
「今せねばならないことか?」
「もちろんです。疫病や邪神と命を懸けて戦い、勝利をもぎ取ったとしても、そこで終わりではないのです。そんなことをしてしまったら百年前の者たちと同じ轍を踏んでしまいますよ? 勝利からがスタートです。さあ殿下、サインをお願いします」
「……っう、わかった。ああ、この案件か。確かにこれは最重要課題だな」
「ええ、国として予防医学に取り組む機関の設立と附属病院の建設です」
イースは大きく頷いてサインをした。
「これは私の方で父に渡しておこう。予算は必ず確保する。だからマーカス……」
「ええ、承知しておりますよ。必ずサリーは無事に帰します。例えわが身に代えても必ず」
「よろしく頼む。しかしお前にも無事に戻ってもらわないと、この国の将来が危ういぞ?」
「ははは! それは重大な責任を負ってしまいましたねえ。ええ、勿論無駄死になどするつもりもありません。でも殿下、もしもの時はあの書棚に資料が入っていますから、一人でも頑張ってくださいね?」
「その約束はできないな。必ず戻ってくれ」
二人は固く握手をして執務室を後にした。
そしてシューンとサリー。
「さあ、シューン殿下。行きましょうか」
「ああ行こう」
サリーがギュッとシューンの手を握った。
「とても良くお似合いですよ」
「そう? ウサキチも素敵?」
「ええ、ウサキチもとっても素敵です」
真っ白な騎士の正装を纏った二人のシューンが並んで立っている。
ウサキチは遂に最終形に進化したのだ。
それは即ち、シューンの最後の日ということになる。
「シューン。いいえ、瞬君。ママは絶対に一緒にいるからね」
「ママ……気づいてたの? 噓ついてごめんね」
「わかってるよ。瞬君のママだよ? 私の心が壊れないように守ってくれたんだよね」
「ママ大好き!」
シューンがサリーに抱きついた。
何度もその腕にシューンを閉じ込めたが、ものすごく久しぶりに我が子を抱きしめた実感が湧いたサリーは、涙を堪えるのに必死だ。
「瞬君はママの命だよ」
「うん、ママの命だから大切にするね」
「そうだよ? 絶対に一緒にここに戻ってこようね」
「頑張ろうね、ママ」
お互いにそんな未来は無いと知っている。
でも絶対に口に出したくない。
ウサキチが口を開いた。
「誇り高き勇者よ、時間だ」
「ああ、今回もよろしく頼む」
一瞬で気持ちを切り替えたのか、とても6歳児には見えない顔つきに代わった。
「瞬……いいえ、勇者シューン。お供いたします」
サリーは渾身のカーテシーで勇者の花道を飾った。
「サリー、供を頼む。そして兄上のことも、よろしく頼む」
サリーは何も言わず、ただ頷いた。
ゆっくりと部屋を出るシューン。
一度振り向いて、壁際に控えていたメイド達に声を掛けた。
「いままでいろいろありがとう。いっぱい悪戯してごめんなさい。どうかみんな元気でね」
メイド達に詳細は知らされていない。
しかし、ただ事ではないことが起きようとしていることは肌で感じていた。
「シューン殿下……武運長久を心よりお祈りいたしております」
メイド達は口々にシューンに祝福を送った。
ウサキチが何か精神干渉でもしているのか、二人が並んでいても違和感を感じていないようだった。
「「ありがとう」」
ウサキチとシューンが並んで歩く。
その威圧感に、廊下ですれ違う者たちは端に避けて頭を下げた。
その後ろに続くサリーは、零れそうになる涙をグッと堪えた。
「揃ったか」
最上位の正装に身を包んだ国王と王妃、そして第一王子が並んだ。
否が応でも高まる緊張感の中、王がシューンを呼んだ。
「シューン、こっちにおいで。父に顔をよく見せておくれ」
「はい、父上」
王は膝をついてまだ幼い第二王子と目線を合わせた。
「不甲斐ない父を怨んでくれ」
「怨むなど有り得ません、父上。私に使命を全うする許可をいただき感謝しております」
「シューン……」
王妃が跪き、シューンの手を取った。
「勇者シューンに、心からの感謝と尊敬を。私を義母と呼んでくれたことを誇りに思います」
「義母上、悪戯三昧の私を見捨てずにいて下さったこと、心から感謝します。義母上が私をいつも見守っていてくださったこと、忘れません」
そう言ってシューンはイースに手を伸ばした。
「シューン……」
イースは堪らずシューンを抱き上げた。
「シューン、愛している。お前を心から誇りに思うぞ」
シューンはにっこりと笑ってイースの耳元に口を寄せた。
「兄上、その言葉はサリーに掛けてやってください。どうか僕のママを幸せにしてやってくださいね」
イースが驚いた顔でシューンを見た。
シューンは悪戯っぽくウィンクをしてから、イースの首にギュッと抱きついた。
「行ってきます」
「ああ、必ず戻ってこい」
「はい、兄上」
シューンは静かに振り返った。
「ロバート、難しいお役目なのね? わかった。信じてまっているわ。愛してる」
強く抱きしめあったロバートとライラは、名残惜しそうに体を離した。
「行ってくるよ」
「ええ、どうかご無事で」
ロバートは会議室に足を向けた。
一方、今から羽虫になって他人の耳の中に入ろうとしている筈のマーカスは、いたって通常運転だ。
「何をしてるんだ? そんなことより、やらなくてはいけないことがあるんじゃないのか? 婚約者に会いに行くとか」
「イース殿下、私に婚約者がいないことはご存じでしょう? それに両親は領地に戻っていますから、会おうと思ったらひと月は休みをいただかないといけません。それよりこの王立病院に関する書類ですが……」
「今せねばならないことか?」
「もちろんです。疫病や邪神と命を懸けて戦い、勝利をもぎ取ったとしても、そこで終わりではないのです。そんなことをしてしまったら百年前の者たちと同じ轍を踏んでしまいますよ? 勝利からがスタートです。さあ殿下、サインをお願いします」
「……っう、わかった。ああ、この案件か。確かにこれは最重要課題だな」
「ええ、国として予防医学に取り組む機関の設立と附属病院の建設です」
イースは大きく頷いてサインをした。
「これは私の方で父に渡しておこう。予算は必ず確保する。だからマーカス……」
「ええ、承知しておりますよ。必ずサリーは無事に帰します。例えわが身に代えても必ず」
「よろしく頼む。しかしお前にも無事に戻ってもらわないと、この国の将来が危ういぞ?」
「ははは! それは重大な責任を負ってしまいましたねえ。ええ、勿論無駄死になどするつもりもありません。でも殿下、もしもの時はあの書棚に資料が入っていますから、一人でも頑張ってくださいね?」
「その約束はできないな。必ず戻ってくれ」
二人は固く握手をして執務室を後にした。
そしてシューンとサリー。
「さあ、シューン殿下。行きましょうか」
「ああ行こう」
サリーがギュッとシューンの手を握った。
「とても良くお似合いですよ」
「そう? ウサキチも素敵?」
「ええ、ウサキチもとっても素敵です」
真っ白な騎士の正装を纏った二人のシューンが並んで立っている。
ウサキチは遂に最終形に進化したのだ。
それは即ち、シューンの最後の日ということになる。
「シューン。いいえ、瞬君。ママは絶対に一緒にいるからね」
「ママ……気づいてたの? 噓ついてごめんね」
「わかってるよ。瞬君のママだよ? 私の心が壊れないように守ってくれたんだよね」
「ママ大好き!」
シューンがサリーに抱きついた。
何度もその腕にシューンを閉じ込めたが、ものすごく久しぶりに我が子を抱きしめた実感が湧いたサリーは、涙を堪えるのに必死だ。
「瞬君はママの命だよ」
「うん、ママの命だから大切にするね」
「そうだよ? 絶対に一緒にここに戻ってこようね」
「頑張ろうね、ママ」
お互いにそんな未来は無いと知っている。
でも絶対に口に出したくない。
ウサキチが口を開いた。
「誇り高き勇者よ、時間だ」
「ああ、今回もよろしく頼む」
一瞬で気持ちを切り替えたのか、とても6歳児には見えない顔つきに代わった。
「瞬……いいえ、勇者シューン。お供いたします」
サリーは渾身のカーテシーで勇者の花道を飾った。
「サリー、供を頼む。そして兄上のことも、よろしく頼む」
サリーは何も言わず、ただ頷いた。
ゆっくりと部屋を出るシューン。
一度振り向いて、壁際に控えていたメイド達に声を掛けた。
「いままでいろいろありがとう。いっぱい悪戯してごめんなさい。どうかみんな元気でね」
メイド達に詳細は知らされていない。
しかし、ただ事ではないことが起きようとしていることは肌で感じていた。
「シューン殿下……武運長久を心よりお祈りいたしております」
メイド達は口々にシューンに祝福を送った。
ウサキチが何か精神干渉でもしているのか、二人が並んでいても違和感を感じていないようだった。
「「ありがとう」」
ウサキチとシューンが並んで歩く。
その威圧感に、廊下ですれ違う者たちは端に避けて頭を下げた。
その後ろに続くサリーは、零れそうになる涙をグッと堪えた。
「揃ったか」
最上位の正装に身を包んだ国王と王妃、そして第一王子が並んだ。
否が応でも高まる緊張感の中、王がシューンを呼んだ。
「シューン、こっちにおいで。父に顔をよく見せておくれ」
「はい、父上」
王は膝をついてまだ幼い第二王子と目線を合わせた。
「不甲斐ない父を怨んでくれ」
「怨むなど有り得ません、父上。私に使命を全うする許可をいただき感謝しております」
「シューン……」
王妃が跪き、シューンの手を取った。
「勇者シューンに、心からの感謝と尊敬を。私を義母と呼んでくれたことを誇りに思います」
「義母上、悪戯三昧の私を見捨てずにいて下さったこと、心から感謝します。義母上が私をいつも見守っていてくださったこと、忘れません」
そう言ってシューンはイースに手を伸ばした。
「シューン……」
イースは堪らずシューンを抱き上げた。
「シューン、愛している。お前を心から誇りに思うぞ」
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「兄上、その言葉はサリーに掛けてやってください。どうか僕のママを幸せにしてやってくださいね」
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シューンは悪戯っぽくウィンクをしてから、イースの首にギュッと抱きついた。
「行ってきます」
「ああ、必ず戻ってこい」
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