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 それから数日、サリーの箱作りは進展しないままイースからプロジェクトメンバーに招集がかかった。
 会議室に集まった顔は、なにかが起きることを察しているのだろう。
 緊張感に包まれていた。
 王が口を開いた。

「サム達の働きにより、近いうちに大がかりな集会があることを突き止めた。この機会を逸すると、奴らが準備を完了して襲撃を掛けてくるのを待つだけになるだろう」

 近衛隊長のサムが後を引き取った。

「ライラの両親を拘束していることは公になっていないことを利用しました。騎士団から囮となる者を二名常駐させ、使用人も全てこちらの手の者を配備していたところ、数名の貴族や平民が訪問してきました」

 全員の目がサムを見ている。

「風邪を引いているという言い訳で面会には応じず、訪問者全員に尾行をつけて長期にわたり監視をしていました。訪問者の総数は12名で、そのうち怪しい動きをした者が4名おりました。その4名はバラバラに行動していましたが、必ず立ち寄る共通の場所があったのです」

「どこだ」

 イースが叫ぶように言う。

「中央歌劇公会堂です。通称オペラ館、今は閉鎖されています」

「あそこは確か楽屋でボヤ騒ぎがあって閉鎖されたままだったのではないか? 持ち主は誰だ?」

「都長であるワルサー侯爵家です」

「ワルサー侯爵だと? 奴は代々王都の長を務めてきた家門ではないか」

「ええ、家長であるワルサー侯爵は病床にあり、今は長男のランスが代理を務めております」

「ランスが邪神なのか?」

「いえ、ワルサー邸に侵入させた者からの報告によりますと、ワルサー侯爵は動くこともできず、食事もほとんど摂っていないそうです。しかし、侯爵の寝室からは話し声が漏れてくることがあり、寝室に入ることを許されているのはほんの数名で、その他の者は近寄る事さえ難しいとのことでした」

「そうか……」

 王がシューンの顔を見た。
 シューンがニコッと笑って頷いた。

「きっとワルサー侯爵は邪神に体を乗っ取られているんだろう。言い換えると宿木を使わないと存在できない程度にしか成長できていないということだ。チャンスだね」

 イースがギュッと拳を握った。
 誰も口を開かない。
 再びシューンが声を出した。

「いよいよだ。ロバート、そしてマーカス。覚悟を決めてくれ」

 二人はゆっくりと頷いた。

「必ずやお役に立ててご覧に入れましょう」

 ウサキチが言う。

「まずは囮の耳に入って洗脳を開始して欲しい。何度か繰り返して奴らに焦りが出始めたら、信者を装って逃がす算段だ。その前に二人はこのお守り袋を飲んでくれ。腹に入れてしまえば虫になろうと体内に取り込んだままだそうだ。そうだろう?サリー」

「ええ、何度か実験してみたから大丈夫よ。人間に戻ったらトーマス先生が強力な下剤を用意してくれるから、排出にも問題は無いわ」

 二人は頷きながらも青い顔をした。

「まさかこの大きさを飲めとは言わないから安心してね。飲み込みやすいように特製のゼリーを用意したから、なるべく嚙まないように丸飲みしてちょうだい」

「可愛らしい顔で明るく言うような話じゃないぞ」

 ロバートがサリーを睨んだ。
 マーカスは苦笑いをしている。
 サムが続けた。

「家に戻るか、それとも直接ワルサー邸に向かうか……十中八九ワルサー邸に向かうと踏んではいるが、これは賭けだ」

 シューンが幼い声で言う。

「そこは大丈夫だと思うよ? そのための洗脳なんだし」

 サムが続けた。

「少しでも疑われたら逃げられる可能性も考えると、奴らを動かすことが確実だ。奴らの服には私が潜り込む。難なく敵前まで運んでくれるという作戦だ」

「でもそれだとサム隊長は全裸で武器もないってことになりますよ?」

「関係ないさ。こんな皺腹くらいいくらでも見せてやる。ついでに自慢の剣もお披露目してやるさ」

 王妃がスッと目を逸らした。
 黙って聞いていたイースが慌てて言う。

「ちょっと待て! サムが邪神の前で人に戻るということは、その場にサリーもいるということか? それはダメだ! 危険すぎる。それにサムは武器も持たないでどうするんだ」

「私の役目は邪神をその場に留まらせることだけです。後はウサキチ殿の役目だ」

「どうやって?」

 サリーが口を開いた。

「私が箱を出して、それをサム隊長に被せてもらいます。それで時間を稼いでいる間に、シューン殿下とウサキチが到着するという感じですね」

「サリー。やっぱりだめだ。危なすぎる。それに君もその場で人に戻るということは……」

 そこまで言ったイースが手で口を押えて真っ赤な顔で横を向いた。

「私は猫になって行きますし、猫のままでも解呪できますから。まあ、必要とあらば人に戻って参戦しますけど」

 イースが叫ぶ。

「全裸でか!」

「あらまあ! そうなりますよね。でもなるべく戻りませんから大丈夫だと思います」

「絶対に戻るな」

 サリーは肩を竦めて見せた。

「頼む……頼むから……」

 そんなイースをまるっと無視してサリーが続けた。

「ロバート様とマーカス様の服と武器は、シューン殿下と一緒に突入する兵達に持って行って貰います。まあ、それまでは我慢してください」

「何の問題もないですよ」

 マーカスが即答した。

「では私たちはワルサー邸に行くまで、奴らの耳の中ということだな?」

「ええ、直前まで奴らの動きを縛り付けて下さい。寝室に入ったらすぐに抜け出して、安全を確保してください」

「それならサリーの毛の中に潜り込めばいいな」

 ロバートが言うと、イースがギロッと睨みつける。
 しれっと殺気をスルーしたマーカスが口を開いた。
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