転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連

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 代われるものなら代わってやりたい。
 ここにいる大人たちは同じ思いを抱いていた。
 しかし現実は甘くない。
 誰もシューンの代わりはできないのだ。
 それならばとサムが声を出した。

「シューン殿下、いや勇者シューン殿。露払いは私が致します。サリーは他の兵達と一緒に後方に待機。ウサキチ殿から送られてくる状況を伝令に伝え、逐一状況把握ができる体制を整えてほしい。王族の方々は王宮で報告をお待ちください」

 イースが立ち上がった。

「私も前線に出る!」

「ダメです。イース殿下はご自身の安全を守ることが一番大切な使命だと思ってください」

「こんなに幼い弟を……弟を最前線に送り出して自分はのうのうと安全な場所になど……できるわけなかろう!」

 イースがまだ包帯の取れないサムの胸倉をつかんだ。
 ロバートとマーカスが止めに入る。
 イースは真っ赤な顔をして泣きながら叫んだ。

「なぜシューンなんだ……」

 その答えはシューン本人が口にした。

「兄上、兄上には兄上の、そして僕には僕の役目があるということです。僕がこの国を守る。兄上はこの国をさらに繫栄させる。どちらが辛いかと言うと、兄上の方がずっとしんどいです」

「シューン……」

 イースは力なく座った。
 黙ってみていた王が口を開く。

「サム、お前の忠義は絶対に忘れない。必要なものは全て揃える。思う存分その力を発揮して欲しい」

「ありがたきお言葉です。私の今まではこのためにこそあったのだとヒシヒシと感じております」

 王妃が立ち上がって深々と頭を下げた。
 トーマスがまだ呆然としているサリーに声を掛ける。

「なあサリー、君の魔法は何が出来るんだ?」

「さあ……そもそも魔法なんてものは物語の中だけだと思っていましたので、把握しきれていないというか、皆さんがご存じの魔法以外は使ったこともありません」

「なるほど、言い換えると限りない可能性を秘めているということだ。ところでシューン殿下、短期決戦とはいつ頃を想定しておられるのでしょうか?」

 シューンがニコッと笑ってトーマスを見た。

「いつという具体的な時期はないよ? ライラの両親を使った作戦によって決行日が決まるって感じだよね」

「なるほど、承知しました。それでは持たせてもらっている例のお守り袋を回収しましょう。時にウサキチ殿、通信をするためにはある程度の大きさが必要なのかね?」

「いや、大きさは関係ない。要は私の分身を身に着けることが条件になるんだ。今回はこのまま使うというプランになっているが、例えば糸クズのような小さいものを蟻に変身させた誰かに持たせて耳毛に括りつけるなんてことでも可能だぞ?」

「耳毛……」

 サリーがボソッと口にした。
 ロバートがハッとしたように声を出した。

「それならもっと良い方法がありますよ。誰か二人が羽虫になって、その糸くずをもって奴らの耳の奥に潜むのです。そして変身したとしても喋ることができるのですから、直接『お告げ』を囁くことができます。通信媒体を持っているのはあくまでも羽虫ですから、奴らには聞こえないはずでしょう?」

 トーマスが続けた。

「なるほどな……それならこのお守り袋を持ったままでいられるな。情報共有できるということだ」

 イースが手を上げようとするのをマーカスが力技で押さえこんだ。

「私が行きます」

 そしてロバートも手を上げた。

「もう一人は私で」

 サリーが驚いたように口を開いた。

「ライラはどうするの!」

「大丈夫だよ。羽虫なら死なないさ。たとえ戦闘に巻き込まれたとしても、耳の奥なら安全だ」

 ロバートは努めて明るい声を出した。
 立候補した二人は目を合わせて頷きあっている。
 イースがギュッと眼を瞑った。

「イース殿下、一つだけお願いがございます」

「なんだろうか? できることなら何でもする」

「ライラのことです。彼女は今、気丈に振る舞っていますが親のことでとても心を痛めています。しかも安定期に入ったとはいえ妊娠しています。できればもう一度王宮で雇用してやっていただけませんか? 私がいない間も王宮にいるなら安全だ」

「君たちさえよければすぐにでもそうしよう」

「あまり重たいものを持たなくてすむ部署でお願いできれば幸いです」

 王妃が口を開いた。

「私の侍女に加えましょう。仕事内容はお茶の準備と簡単な掃除でどうですか? メイン業務は私の話し相手です」

 ロバートが胸に手を当てて最上級のお辞儀をした。

「この上ない喜びでございます」

 サリーが言った。

「ねえ、羽虫って何を食べるの?」

 トーマスが答えた。


「羽虫は肉食と草食がいるぞ。肉食と言っても自分より小さい虫を食べるだけだ。人の中で数日間生息するとなると、少し厳しいな……ダニはどうだ?あれなら主食は血だから食べ放題だぞ?」

「いや……それは……」

 二人が同時に嫌な顔をした。
 シューンが楽しそうに言う。

「だったら頭の部分だけ人間のままにしてもらえば? それでものすごく栄養価の高い食料を、ものすごく小さくして持ち込めば食べられるだろ?」

 全員がロバートとマーカスの顔をした小さな虫を想像して吹き出した。

「そんなこともできるのか?」

 王が興味本位で聞く。

「さあ……やったことがないので」

 シューンがサリーの袖を引いた。

「やってみてよ。失敗しても戻せるんだからさ」

「そうね、やってみようか」

 マーカスが慌てて言う。

「テストは結構ですが、間違っても叩き潰さないでくださいよ?」

「大丈夫! じゃあいくよ?」

 サリーは二人を並ばせて呪文を唱えた。
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