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「それならやりようはあるかもしれない。今ライラの両親は地下牢にいます。解放して帰宅させましょう」

「影を使うか?」

 王が言葉を発した。

「よろしくお願いします。私も近くに待機します」

 イースが慌てる。

「サムは怪我人だ。君は動くべきじゃない」

 サムは首を横に振った。

「シューン殿下をお守りするのが私の望みであり、使命だと思っています。私を前線から外すのだけは勘弁してください」

「しかし……」

 サムの決意は固かった。
 トーマスが思いついたように言う。

「奴らの通信は、我らと同じで脳内に直接聞こえる感じだろうか」

 ウサキチが答える。

「状況から判断してそうだろうな。信者たちが言う『お告げ』とやらがそうなのかもしれない」

「だとしたら例のお守り袋が使えるかもしれない」

 全員がトーマスを見た。

「あれをライラの親に持たせて偽の『お告げ』を与えるのです。どう動くか……」

 サムが頷く。

「なるほどな。例えば『新しい信者を連れて神殿に来い』とか言ってやれば、動きが掴めるかもしれません」

「しかし、あの布切れを常時持たせる方法が難しいな」

 イースの言葉にサリーが言った。

「それこそ『お告げ』を使えば良いのです。気付かれないように持たせておいて、声を聞かせるのですよ。後で黄色い袋を授けるから、何があっても肌身から離すなとか言えば、従うのではないですか?」

「なるほど」

「しかしそうなると、我々の通信もあちらに筒抜けとなるのではないか?」

「そうですね……アジトが判明するまでは使用を控えるしか無いですね」

 サリーが難しい顔をした。
 あの通信手段は危機的状況の今だからこそ、有効に活用したい。
 しかし他に方法がない。
 ウサキチに向かってサリーが言った。

「ねえ、他の方法は無いの?」

 ウサキチがしょぼくれた声を出す。

「あるにはあるが……」

「出し惜しみしないでよ」

「……同じ方法だよ。私に魂を半分渡す。でもこれは止めた方が良いと思うぞ? 私が消えたらお前たちの魂も半分消えるんだ」

 全員が黙り込んだ。

「私は良いわよ?」

 サリーがあっけらかんと言った。
 ウサキチが慌てる。

「いや、お前が一番ダメだろ。というか、この方法は却下だ」

「じゃあどうするのよ! 時間が無いのよ!」

 サリーが半泣きで叫んだ。
 シューンが口を開いた。
 まだ幼い声で大人でも口にするには覚悟がいる言葉を発する。

「短期決戦に持ち込もう。相手は予定が狂って焦っている。ということは予定より大きくなれていないということだ。まだ小さいうちなら全てを取り込むことは可能だから、早い方がいい。今までならあちらの方からやってきたので、迎え撃つという形だった。しかし今回は奴が育ち切る前に叩きたい。こちらから攻めよう」

 サリーはドキッとした。

「シューン……シューン殿下……そんなことしたら……」

「ああ、泣かないでサリー。これは僕にとっても良い事なんだ。奴らもバカじゃない。きっと過去の経験を踏まえて何かしらの対策は立てているだろう。奴らのペースに乗ってやる必要はない。一気に片を付ける」

 サリーはテーブルに伏せて泣き出した。
 その背中をシューンがゆっくりと撫でる。
 まだ紅葉のような小さな手で、一生懸命慰めている。
 ウサキチが言葉を発した。

「あのお守り袋が無くても私と通信ができるのはサリーだけだ。そうなるとサリーも最前線に出る必要があるぞ?」

 サリーはイースが差し出したハンカチで盛大に鼻をかんでから答えた。

「望むところよ、シューンを一人で行かせたりしない」

 サリーの悲痛な覚悟に、もう誰も反論しなかった。
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