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あれから三か月、シューン6歳の誕生日が近づいた。
本来なら大々的に貴族たちを招いた夜会をするべきだが、勇者の命を狙うものが紛れることを懸念し、ごく近しい者たちだけでホームパーティーの形で行うことになった。
会場は王家のダイニングルームだ。
シューンは王妃から真っ白な近衛隊士の正装を贈られご満悦だ。
「あれ? 今日のウサキチは白いのね」
ウサキチが笑いながら返す。
「さすがの私でもトータルコーディネイトという言葉は知っている」
きりっとした騎士服に、真っ白なうさ耳帽子。
絶対にミスマッチのはずなのに、シューンが身に着けると愛らしさしかない。
「良く似合っているわ、とても素敵」
「そう? でも今日のサリーはいつにも増してきれいだよ」
「どういうのどこで覚えてくるの?」
「ロバートがライラに言っているのを聞いたんだ」
「……なるほど」
「さあ、サリー。お手をどうぞ?」
シューンがサリーに手を差し出す。
「光栄ですわ、シューン殿下」
サリーが小さな手に自分の手をのせた。
横でイースが口を出す。
「今回はシューンに譲るが、次回は私にエスコートさせてほしい」
「兄上……勝負ですね? 受けて立ちますよ」
「なぜだろう。勝てる気がしない……
結局シューンはイーストサリーに挟まれるような形でダイニングに入った。
誕生日は嬉しいものだ。
二人の手に飛び跳ねながらぶら下がるシューン。
他の参加者は既に会場入りしており、全員が立ち上がり拍手で迎えた。
父王から短剣を贈られ、きちんとお礼を言うシューン。
他のみんなも、それぞれ趣向を凝らしたプレゼントを準備していた。
「私からはこれだ」
イースが用意したのは手袋だ。
柔らかく鞣した最高級の革手袋は、シューンの手に吸いつくようにフィットした。
「ありがとう、兄上」
「ああ、来年はもっと大きくなっているだろうから、また誂えてやるからな」
「うん。大事にするね」
サリーは涙を堪えるのに必死だった。
この子は来年の誕生日を迎えることができるのだろうか。
この近衛騎士服が着れなくなるほど大きくなることができるのだろうか。
きっとこの部屋の全員が同じことを考えているだろう。
王も王妃も目が真っ赤だ。
ここにシューンを産んだ側妃がいたら、彼女はこの子の運命を受け入れることができるのだろうか。
ふとサリーは思った。
自分は逃げているのだと。
シューンは瞬ではないというその言葉に縋り、そのことを逃げ道にしているのだ。
もしこの状況に置かれているのが、瞬だとしたら発狂しているだろう。
もちろんシューンは可愛いし、心から愛おしく思っている。
何とか助けられる方法は無いかと、考えない日は無い。
でも……我が子ではないのだというその一点で、心のバランスを保てているのも事実。
我が子ということで言えば、生母は既に他界しているので国王だけだが、国民を守るという立場もあるのだろう。
その過酷な運命を課せられた我が子を見守る姿勢を貫いている。
一番心を乱しているのはイースだ。
しかしなんとか平常心を保てている。
やはり男と女の本能の部分の違いなのだろうか。
「……サリー?」
「あっ、申し訳ございません。どうしました?」
「いや、何度呼んでも返事をしないから心配になっただけだよ。大丈夫? サリー」
「殿下……お心遣いに感謝します。あの悪戯好きの悪ガキが、こんなに大きくなったんだなぁって感慨に耽っておりました」
「ははは! 少しは成長できたのだとしたら、それはサリーのお陰だね。もちろん兄上も父上も義母上も、みんなお心を砕いて下さるけれど、僕にとってのサリーは特別だからね」
「私は特別ですか?」
「うん、だって僕のママだもん」
サリーは不敬を承知でシューンを抱きしめた。
「殿下……いいえ、シューン。ママもシューンのことを特別だと思っているわ。私の可愛い息子。シューンのこの一年を良き精霊がお守りくださいますように」
「うん、ありがとうね。ママ」
そう言うとシューンは短い手を精一杯伸ばして、サリーの背に回した。
本来なら大々的に貴族たちを招いた夜会をするべきだが、勇者の命を狙うものが紛れることを懸念し、ごく近しい者たちだけでホームパーティーの形で行うことになった。
会場は王家のダイニングルームだ。
シューンは王妃から真っ白な近衛隊士の正装を贈られご満悦だ。
「あれ? 今日のウサキチは白いのね」
ウサキチが笑いながら返す。
「さすがの私でもトータルコーディネイトという言葉は知っている」
きりっとした騎士服に、真っ白なうさ耳帽子。
絶対にミスマッチのはずなのに、シューンが身に着けると愛らしさしかない。
「良く似合っているわ、とても素敵」
「そう? でも今日のサリーはいつにも増してきれいだよ」
「どういうのどこで覚えてくるの?」
「ロバートがライラに言っているのを聞いたんだ」
「……なるほど」
「さあ、サリー。お手をどうぞ?」
シューンがサリーに手を差し出す。
「光栄ですわ、シューン殿下」
サリーが小さな手に自分の手をのせた。
横でイースが口を出す。
「今回はシューンに譲るが、次回は私にエスコートさせてほしい」
「兄上……勝負ですね? 受けて立ちますよ」
「なぜだろう。勝てる気がしない……
結局シューンはイーストサリーに挟まれるような形でダイニングに入った。
誕生日は嬉しいものだ。
二人の手に飛び跳ねながらぶら下がるシューン。
他の参加者は既に会場入りしており、全員が立ち上がり拍手で迎えた。
父王から短剣を贈られ、きちんとお礼を言うシューン。
他のみんなも、それぞれ趣向を凝らしたプレゼントを準備していた。
「私からはこれだ」
イースが用意したのは手袋だ。
柔らかく鞣した最高級の革手袋は、シューンの手に吸いつくようにフィットした。
「ありがとう、兄上」
「ああ、来年はもっと大きくなっているだろうから、また誂えてやるからな」
「うん。大事にするね」
サリーは涙を堪えるのに必死だった。
この子は来年の誕生日を迎えることができるのだろうか。
この近衛騎士服が着れなくなるほど大きくなることができるのだろうか。
きっとこの部屋の全員が同じことを考えているだろう。
王も王妃も目が真っ赤だ。
ここにシューンを産んだ側妃がいたら、彼女はこの子の運命を受け入れることができるのだろうか。
ふとサリーは思った。
自分は逃げているのだと。
シューンは瞬ではないというその言葉に縋り、そのことを逃げ道にしているのだ。
もしこの状況に置かれているのが、瞬だとしたら発狂しているだろう。
もちろんシューンは可愛いし、心から愛おしく思っている。
何とか助けられる方法は無いかと、考えない日は無い。
でも……我が子ではないのだというその一点で、心のバランスを保てているのも事実。
我が子ということで言えば、生母は既に他界しているので国王だけだが、国民を守るという立場もあるのだろう。
その過酷な運命を課せられた我が子を見守る姿勢を貫いている。
一番心を乱しているのはイースだ。
しかしなんとか平常心を保てている。
やはり男と女の本能の部分の違いなのだろうか。
「……サリー?」
「あっ、申し訳ございません。どうしました?」
「いや、何度呼んでも返事をしないから心配になっただけだよ。大丈夫? サリー」
「殿下……お心遣いに感謝します。あの悪戯好きの悪ガキが、こんなに大きくなったんだなぁって感慨に耽っておりました」
「ははは! 少しは成長できたのだとしたら、それはサリーのお陰だね。もちろん兄上も父上も義母上も、みんなお心を砕いて下さるけれど、僕にとってのサリーは特別だからね」
「私は特別ですか?」
「うん、だって僕のママだもん」
サリーは不敬を承知でシューンを抱きしめた。
「殿下……いいえ、シューン。ママもシューンのことを特別だと思っているわ。私の可愛い息子。シューンのこの一年を良き精霊がお守りくださいますように」
「うん、ありがとうね。ママ」
そう言うとシューンは短い手を精一杯伸ばして、サリーの背に回した。
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