転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連

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 ぐるっと全員の顔を神妙な表情で見回したトーマス。

「もう一度確認します。サリーのこの力は絶対に秘密です。良いですね?」

 全員が力強く頷いた。
 世知辛い世の中をシングルマザーとして渡ってきた経験を持つサリーは思った。

(とは言ってもバレるのを前提で行動しないとね……)

「疫病についてはトーマスが、シューンの剣術指南はサムが担うということで良いな?」

「「はい」」

「統括責任者はイースということだな?」

「はい」

 王妃がニコニコしながら声を出す。

「ロバートの結婚は私とマーカスが動きましょう」

「よろしくお願いします」

 一呼吸おいて王が再び口を開く。

「サリー、君は常にシューンの側にいてやってくれ。この子に幸せな毎日を過ごさせてやって欲しい」

 王妃が続ける。

「そのためなら何でも叶えましょう」

 シューンがニコッと笑った。

「父上、そして義母上。お心遣いに感謝いたします。そしてサリー、ずっと一緒にいてね」

「勿論ですわ、シューン殿下」

 そうして邪神との戦いに向けたプロジェクトチームが結成された。
 その日は解散となり、それぞれが自分の仕事に取り掛かった。

「さあ、シューン殿下。まずは何をしましょうか」

 うさ耳付きの黄色い幼稚園帽子を被ったシューンを見る度に、顔がほころんでしまう。

「まずはお菓子を食べよう。今日は例のアレが良いなぁ」

「例のアレですか……2個までですよ?」

「3個」

「でも殿下? 3個食べてしまうと夕食が入らなくなってしまいます。今日は殿下の大好きなチキンジンジャーだと聞いていますが? それともサラダとスープだけにしますか?」

「……2個で我慢する」

「いい子ね、シューン」

 部屋の外に控えていたメイド仲間に言って、お茶の準備を頼んだ。
 イース殿下から既に通達があったようで、使用人たちはサリーをガヴァネスとして仕えてくれる。
 少し待つと、紅茶とココアのポットを乗せたワゴンを押したメイドがやってきた。
 部屋に入り、テーブルに並べる。

「ねえ、申し訳ないのだけれど、全部お毒見をお願いできる?」

「はい、勿論です」

 メイドは紅茶もココアも、皿に乗っているクランベリーのミニマフィンもすべて、少しずつ口に入れて見せた。

「ごめんね。あなたを疑っているわけじゃないのだけれど……」

「わかってますよ。詳しくは聞かされていませんがイース殿下が私たちにまで頭を下げて下さったのです」

「まあ! イース殿下が?」

「ええ、シューンとサリーの安全を確保して欲しいって」

「ありがたいわ」

「ええ、本当に弟君を愛しておられるのが伝わってきました」

 二人はテーブルに向かい合っておやつを楽しんだ。

「シューン殿下、既にお気づきとは思いますが私はガヴァネスができるような頭ではありません。ですから今まで通り家庭教師の先生方には来ていただきます」

「げっ……」

「今までと違うのは私も全てに同席するという点です」

「見張るのか?」

「見張りではありません。見守りです」

「違いが良く分からんが……」

「いっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい勉強して、いっぱい遊びましょう」

「そうだな。なんだか楽しそうだ」

「ええ、一生懸命やるから楽しいのですもの」

「うん、わかった」

「さあ、殿下。午睡のお時間です。殿下にはまだお昼寝が必要ですよ」

「サリーも一緒にいてくれる?」

「勿論ですわ」

 サリーは手早くシューンを寝間着に着替えさせ、ベッドに入らせた。

「良き精霊たちが、素敵な夢をプレゼントして下さいますように」

 サリーがシューンのおでこにキスを落とす。

「うん、ありがとう。ねえ、サリー。眠るまで手を繋いで?」

「はい、こうですか?」

「うん。なんだか安心するんだ。お休みなさい、ママ」

「おやすみなさい、シューン」

 シューンはほどなく夢の中へと入って行った。
 少し微笑んでいるように見えるのは、自分の願望だろうか。
 サリーはこの幼子が背負う過酷な運命を思った。
 静かにドアが開き、イースが顔を出した。
 シューンの指を優しく解き、サリーがイースの前に座る。
 とても小さな声でイースが声を出した。

「寝たのか? 可愛らしいなあ」

「ええ、おやつを召し上がってすぐに」

「そうか」

 イースは涙ぐんでいた。
 サリーは歯を食いしばって涙を堪える第一王子を静かに見詰めた。

「何でも叶えてやりたい。何か欲しいものとか無いのだろうか」

「そうですね、本当に何でもしてあげたくなりますね。でも私は甘やかすのはダメだと思っているのです」

 イースは少し驚いた表情を見せた。
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