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 マーカス蝶が衝立の向こうに消えたことを確認したトーマスが口を開いた。

「私が責任者となり、もうすぐ襲ってくるであろう疫病への対策本部を立ち上げる。総司令官はイース殿下、助言者はサリーだ。よろしく頼む」

 イースが言葉をつづける。

「ロバートは引き続き王宮での勤務を優先してもらうが、対策本部の主要メンバーにもなってもらう。両立は大変だろうが、緊急事態だ。よろしく頼む」

 ロバートが胸に手を当ててお辞儀をした。

「それとライラを保護するという意味合いもあり、ロバートとライラの婚姻は早急に纏めて欲しい。結婚式の準備もあるだろうが、こちらもよろしく頼む」

「ありがとうございます。この件はライラとも相談しましたが、挙式はせず入籍のみにしたいと思っています。婚姻申請は明日にでも提出いたします」

 サリーが口を出す。

「あら、ロバート先生。女性にとって結婚式は人生の一大イベントですわ。ライラが可哀そう」

「ん? そういうものか? でもなぁ……時間が」

「人前結婚式ってご存じですか? 神の前で誓うのが王道ではありますが、ここにはウサキチという神の使いがいますから、そこはクリアできそうですよ? 王宮に務める人たちを集めて、みんなの前で生涯の愛を誓うのです。周知もできて一石二鳥でしょ?」

「人前結婚式?」

「ええ、ウェディングドレスはオーダーというわけにはいきませんが、そこは諦めてもらうにしても、出来上がりの中でライラが好きなのを選べば良いのではないかしら?」

 王妃が拍手をした。

「良い考えじゃ。すぐに用意をいたせ。会場は王宮の広間を使えばよい。ブティックは我が贔屓の店を紹介しよう。どうじゃ?」

「ありがたき幸せにございます」

 ロバートが深く腰を折って礼を言った。

「すぐに準備を始めよ。マーカス、そなたが手助けをせよ」

「畏まりました」

 トーマスが声を出した。

「では、この件は解決ですな。それと近衛隊長の役割ですが」

 サムが一歩前に出た。

「何なりと」

 トーマスが続ける。

「ウサキチ、勇者に剣技は必要なのだろうか」

 黄色い帽子の真ん中あたりがパカッと開き、喋りはじめた。

(うわぁ~。魔法使いモノの映画で見たやつと似てるじゃん! 映像では素敵な帽子だと思ったけど、実物だとかなりグロテスクだわ……)

 それぞれも同じような感想を持ったのだろう。
 みんな一歩引いていた。

「傷つくからそういう顔は止めてくれ。今まではこの形態で一度も喋ったことは無いんだ。勇者となら脳内で話せるからな。まあ、慣れてくれ」

 コホンと一つ咳払いをしてウサキチが続ける。

「剣技が必要かというと、無いよりあった方が良い。でももっと重要なのは護身術だ。何者かに襲われたときや拉致されたときの対処法を教えてやって欲しい」

「なるほど。その上で一撃を躱すほどの技を身に着けることができれば良いでしょうな」

 サムは何度も頷いた。

「お任せください。私が責任をもってシューン殿下をお育て申し上げます」

 イースが頷いた。

「サム、よろしく頼む」

 ウサキチが続ける。

「シューン、私を被ってくれ」

 シューンがサリーの手を離してウサキチを持ち上げた。
 帽子についている紐を顎の下で結ぶ。

「「きゃわいぃぃぃぃぃぃ」」

 王妃とサリーが悶えた。

『シューン、我が声が聞こえるか?』

『聞こえるよ』

 通信状態を確認したウサキチが声を出した。

「皆には今の会話が聞こえたか?」

 全員が首を横に振る。

「なるほど。ではシューン、一人ずつ試したい。帽子を脱いで順番に渡してくれ」

 シューンは頷いて帽子を脱ぐと、まずイースに渡した。

『聞こえるか?』

『ああ、聞こえる』

 次はサムだ。
 そしてサリー以外の全員がテストを終了した。

「サリーは聞こえるからテストの必要はない。私に触れていたものとは通信できることが確認できたな。サリー、私が今から帽子の後ろに長い鍔を出す。それを切り取って例のものを作り、ここにいる全員に渡してくれ」

「うん、わかった。もしかしたら魔法でできるかも?」

 そういう間にもシューンが被ってる帽子の首の部分に長い布が現れた。
 それをイースが腰の短剣で切り取りサリーに渡す。
 サリーはこの場にいる人数をサッと数え、呪文を唱えた。

「七つのお守り袋になれ~! え~い!」

 サリの指先から何か出ているのかと王と王妃が凝視している中、テーブルに置かれたただの布切れがポヨンと小さなお守り袋になった。
 作り手のイメージなのだろうか、黄色い袋の真ん中に金糸の刺しゅうまで入っている。
 サリーが一つ手に取って見てみると、漢字で金という文字が丸で囲まれている意匠だ。

(あ~……私って間違いなく庶民だわ)

 サリーは何も言わず、神妙な顔で全員に配った。

「ウサキチ、テストしてみて」

 黄色い帽子がコクっと頷くように動いた。

『聞こえるものは手を上げてくれ』

 無事に全員が手を上げて、テストは成功した。

「これってウサキチ以外のメンバーとも通信できるのか?」

 王が疑問を口にする。

「やってみましょう」

 イースが黙って王を見た。

「おお! 聞こえたぞ! 今の会話は他の者にも聞こえたのか?」

「聞こえましたね」

 トーマスが返事をした。

「秘密裏な会話には向かないのだな」

 王の言葉にウサキチが答える。

「仲間内での情報共有は絶対だ」

「なるほど、それもそうだ。しかし便利な機能だな」

 トーマスが口を開く。
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