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 この件はイースによってすぐに王と王妃に報告された。
 今回の疫病への対策は、トーマスを中心に進めることとなった。
 ウサキチはすぐそこに迫った危機に対応するべく、姿を変えると言い出した。

「全てを白日の下に晒した今、シューンのぬいぐるみでいる必要は無い。第二形態へ進化しようと思う。ちなみに最終形態を晒すのは、邪神と相対する時だ」

 大層な物言いに、ワクワクしたサリーだが、ウサキチが進化だと言い張るその姿に、片眉を上げて非難の目を向けた。

「あんたの言う第二って……しょぼくない?」

「失礼な奴だな。かっこよくないか?」

「同意しかねるわ……」

 ウサキチの進化系……それは緑色の帽子だった。

「特殊部隊のベレーとかさぁ、かっこいいキャップとかビーニーとかあるでしょうに……なぜその幼稚園帽子……しかも黄色とか……」

「そ……そうかぁ? 良いと思ったのだが。百年前は最新型と言われたのに……」

「蟀谷の所の刺しゅう……ほんとに幼稚園児の制服帽子じゃん」

「これは王家の紋章だぞ?」

「ダッサ」

「シューンは気に入っていた!」

「マジで?」

「懐かしいと言っていたぞ」

「……」

 サリーの中でやはりシューンは瞬ではないかという疑問が顔を出す。
 しかし、本人があれほど否定しているのだ。
 触れるべきではないと思ったサリーは、その思いに蓋をした。

「まあ本人が良いなら良いんじゃない? それで? 何か特殊な能力でもあるの?」

「頭を覆っていることで脳への衝撃を緩和できる。それに、私とシューンの思考回路が常にリンクすることで、神の使者として与えられた能力を共有できるんだ」

「へぇ、見た目はアレだけど、なかなか優秀じゃない」

「そうだろ?」

 自慢げなところが小憎らしい。

「ウサキチの抜け殻はどうするの?」

「あれはオブジェとして寝室に飾る」

「オブジェ……」

「シューンの形見のようなものだ」

 サリーは黙って拳を握った。
 ふと窓の外を見る。
 何事も無いように広がる青空が小憎らしいとサリーは思った。
 城門の外では、市民たちが生きるための営みを繰り返している。
 そんな彼らの日常を守るべく、シューンという子供が命を捧げるのだ。

「理不尽だわ……」

 サリーの言葉に、黄色い帽子がぺしゃッと萎んだ。

「あんたのことは何て呼べばいいの?」

「今まで通りで良くないか?」

「ウサギじゃないのにウサキチって変じゃん」

「じゃあこれならどうだ?」

 黄色い帽子からペコっと長い耳が生えた。

「あら、かわいい」

「だろ? これで行こう」

「ねえ、シューンが成長してこの帽子が似合わなくなったらどうするの?」

「帽子ということが重要なのであって、そのデザインは関係ないさ。その年齢に似合うデザインに変わっていくだけだ」

 納得していいのかどうか迷ったサリーは口を噤んだ。
 ドアが開き、イースが顔を出した。

「サリー、そしてウサキチも。父と母が呼んでいる」

「はい、畏まりました。シューン殿下は?」

「既に到着しているよ」

 急ぎ足で王の執務室に向かうと、シューンの他にサムとトーマス、そしてロバートと第一王子側近のマーカスがいた。

「遅くなりました」

 サリーはテーブルにウサキチの抜け殻と帽子を置いて礼をした。
 王妃が口を開いた。

「サリー。全て聞きました。あなたのことは絶対に守ります。能力のことも公表はしません。でも今ここにいる者たちは知っているわ。そのことは許してね」

 サリーはイースの顔を見た。
 メイドの分際で王妃に直答などできるはずもない。
 察した王が口を開く。

「直答を許す。ここにいる者たちは仲間だ。今後も遠慮なく発言をしてほしい」

 全員が頭を下げた。
 王妃が続ける。

「あなたは辛い過去を持っているのね。しかもここでも辛い役割を担うのね」

 サリーが口を開いた。

「恐れながら……確かに我が子と離れたことはとても悲しいですし、辛い経験でした。でも今はシューン殿下のことを一番に考えたいと思っています。過去には戻れませんが、未来は変えられえると信じています」

 イースが小さく拍手をした。
 王が言う。

「これよりサリーはメイドという身分では無く、シューンのガヴァネスとして、常に側にあり慈しみ励ましてほしい」

「ありがたきお言葉でございます」

 シューンがサリーに近づき手を繋いだ。

「ライラはそこなロバートと婚姻を結び、ロバートの妻として、また助手としてそなたを補佐する役目をになってもらう。問題ないか?」

「ライラの件、寛大なご裁断を賜り心からお礼申し上げます」

「うん、かの者の実家の件は聞き及んでいる。しかし、ここで断罪すると邪教を信じる者たちにいらぬ刺激を与えることになるだろう。今は監視を強化するに留めておく。それはサルーン伯爵家も同様だ」

「心得ました」

 サリーがロバートの顔を見た。

「ライラには?」

 ロバートがひとつ頷いて口を開いた。
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