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溜息と一緒にイースは思いを声にする。
「奴らは気付いているんだな……シューンが勇者だと」
まだ顔色が悪いライラがふらついた。
サムが咄嗟に支え、近くにいた近衛隊士にライラを客間まで送るように指示を出した。
「ロバートは?」
「寝てる」
「あなたのベッドで?」
「ううん、ソファーで。部屋は同じだけれど、ベッドは私がつかったの。彼、相当疲れているみたい」
「まあ徹夜だし、いろいろ活躍したからね……」
「じゃあ帰るね。お話し中すみませんでした。早い方が良いと思うと寝ていられなくて」
イースが優しい顔で言った。
「ああ、助かったよ。今度こどゆっくり休んでくれ」
ライラが出て行った。
サムがその後ろ姿を怪訝な表情で見送った。
「全面的に信用するのは危険かと」
サリーはがばっと顔を上げた。
「ライラも信者だと?」
「そうは言っていない。しかし絶対に違うとは言えまい?」
「そ……それは……」
トーマスが会話に割り込んだ。
「どちらにせよヒントは貰えましたよ。高熱が出て喉を傷め、肺に疾患が発生する……これは間違いなくウィルス系の病です」
「ウィルス?」
「ええ、ウィルスというのはものすごく小さくて人間の目で見ることはできません。ただ、一度それを体内に取り込んでしまうと、体の中で増加します。そして咳などの飛沫によって他者へ感染します。分かり易く言うと、風邪もウィルスが引き起きしているのです」
「目に見えないとは厄介だな」
そう言うとイースは、離れて待機していたマーカスを呼んだ。
「マーカス、すまないがウィルスに関する文献を探してきてくれ。できれば肺に疾患を及ぼすものを重点的に」
マーカスが一礼して去った。
なんとも仕事のできる男だ。
「先生としてはどう対処するべきとお考えですか?」
「感染拡大を防ぐのが一番ですね。予防ですよ。ウィルスが体内に入らないようにすれば良いのです」
「予防ですか……方法は?」
「実行可能かどうかは別にして、一番良い方法は人ごみに出ず、人と接触せず、人と話さない。これにつきますね」
「それでは暮らせない!」
サムが言った。
サリーはピンと来るものがあった。
「私、その症状知っています。前世で経験したかもしれません」
全員がサリーの顔を見た。
「予防方法は、確実な手洗いとうがい、そしてマスクの着用です。むしろそれしかありません」
「マスク?」
「ええ、会話や咳で自分が持っているウィルスが出てしまうことを防ぐ効果のあるものです。私も作れますが、こんな感じのものです」
サリーがペンをとってメモ紙にマスクの絵を描いた。
トーマスが感心した声を出す。
「これはすごいな。万能ではないが画期的だ」
「でしょ?」
サリーはまるで自分が発明したように自慢げな顔をした。
ウサキチが言う。
「とりあえずはこれを全国民に広めよう。これは……イースに頼む」
「わかった。早急に実行しよう。サリーは現物を作ってくれ。それと作り方の解説も頼む」
「畏まりました」
ウサキチがあらたまった声を出した。
「どちらにせよ、決戦は近いということだ。前回、勇者が邪神と戦ったのは8歳だった」
サリーはい息を吞んだ。
漠然とだが、シューンが大人になってからのような気がしていたのだ。
「そんなに幼いの? 勇者って」
「歴代そうだよ。一番幼かった勇者は、確か6歳だった。一番年長でも10歳にはなっていないはずだ」
全員が悲痛な顔をした。
「ということは、今すぐかもしれないということか……」
イースが拳を握った。
サリーのポケットからスローロリスシューンが顔を出した。
「準備を始めないといけないんだね?」
全員がシューンを見た。
「覚悟はできている……とは言い切れないけど、いつかはこんな日が来ることは……知っていたんだ」
「シューン?」
サリーが小さくて愛らしい猿の赤ちゃんの頭を撫でた。
「サリー、シューンを戻してくれ。服はすぐに持ってこさせよう」
イースが部屋から出てドアの外に待機していた使用人に指示を出した。
本を探しに行っているマーカスを呼び戻し、部屋から出るように申しつける。
「さあ、これでいい。洋服が来るまで待つか?」
猿が神妙な顔で言った。
「兄上、上着を貸して? さすがに裸では話しにくい」
イースはすぐに上着を脱いでサリーに渡した。
「奴らは気付いているんだな……シューンが勇者だと」
まだ顔色が悪いライラがふらついた。
サムが咄嗟に支え、近くにいた近衛隊士にライラを客間まで送るように指示を出した。
「ロバートは?」
「寝てる」
「あなたのベッドで?」
「ううん、ソファーで。部屋は同じだけれど、ベッドは私がつかったの。彼、相当疲れているみたい」
「まあ徹夜だし、いろいろ活躍したからね……」
「じゃあ帰るね。お話し中すみませんでした。早い方が良いと思うと寝ていられなくて」
イースが優しい顔で言った。
「ああ、助かったよ。今度こどゆっくり休んでくれ」
ライラが出て行った。
サムがその後ろ姿を怪訝な表情で見送った。
「全面的に信用するのは危険かと」
サリーはがばっと顔を上げた。
「ライラも信者だと?」
「そうは言っていない。しかし絶対に違うとは言えまい?」
「そ……それは……」
トーマスが会話に割り込んだ。
「どちらにせよヒントは貰えましたよ。高熱が出て喉を傷め、肺に疾患が発生する……これは間違いなくウィルス系の病です」
「ウィルス?」
「ええ、ウィルスというのはものすごく小さくて人間の目で見ることはできません。ただ、一度それを体内に取り込んでしまうと、体の中で増加します。そして咳などの飛沫によって他者へ感染します。分かり易く言うと、風邪もウィルスが引き起きしているのです」
「目に見えないとは厄介だな」
そう言うとイースは、離れて待機していたマーカスを呼んだ。
「マーカス、すまないがウィルスに関する文献を探してきてくれ。できれば肺に疾患を及ぼすものを重点的に」
マーカスが一礼して去った。
なんとも仕事のできる男だ。
「先生としてはどう対処するべきとお考えですか?」
「感染拡大を防ぐのが一番ですね。予防ですよ。ウィルスが体内に入らないようにすれば良いのです」
「予防ですか……方法は?」
「実行可能かどうかは別にして、一番良い方法は人ごみに出ず、人と接触せず、人と話さない。これにつきますね」
「それでは暮らせない!」
サムが言った。
サリーはピンと来るものがあった。
「私、その症状知っています。前世で経験したかもしれません」
全員がサリーの顔を見た。
「予防方法は、確実な手洗いとうがい、そしてマスクの着用です。むしろそれしかありません」
「マスク?」
「ええ、会話や咳で自分が持っているウィルスが出てしまうことを防ぐ効果のあるものです。私も作れますが、こんな感じのものです」
サリーがペンをとってメモ紙にマスクの絵を描いた。
トーマスが感心した声を出す。
「これはすごいな。万能ではないが画期的だ」
「でしょ?」
サリーはまるで自分が発明したように自慢げな顔をした。
ウサキチが言う。
「とりあえずはこれを全国民に広めよう。これは……イースに頼む」
「わかった。早急に実行しよう。サリーは現物を作ってくれ。それと作り方の解説も頼む」
「畏まりました」
ウサキチがあらたまった声を出した。
「どちらにせよ、決戦は近いということだ。前回、勇者が邪神と戦ったのは8歳だった」
サリーはい息を吞んだ。
漠然とだが、シューンが大人になってからのような気がしていたのだ。
「そんなに幼いの? 勇者って」
「歴代そうだよ。一番幼かった勇者は、確か6歳だった。一番年長でも10歳にはなっていないはずだ」
全員が悲痛な顔をした。
「ということは、今すぐかもしれないということか……」
イースが拳を握った。
サリーのポケットからスローロリスシューンが顔を出した。
「準備を始めないといけないんだね?」
全員がシューンを見た。
「覚悟はできている……とは言い切れないけど、いつかはこんな日が来ることは……知っていたんだ」
「シューン?」
サリーが小さくて愛らしい猿の赤ちゃんの頭を撫でた。
「サリー、シューンを戻してくれ。服はすぐに持ってこさせよう」
イースが部屋から出てドアの外に待機していた使用人に指示を出した。
本を探しに行っているマーカスを呼び戻し、部屋から出るように申しつける。
「さあ、これでいい。洋服が来るまで待つか?」
猿が神妙な顔で言った。
「兄上、上着を貸して? さすがに裸では話しにくい」
イースはすぐに上着を脱いでサリーに渡した。
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