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削除して差し替えました。
ごめんなさい。
明日はライラが戻ってくる日だ。
きっとまた、妹と一緒に作ったというクッキーをたくさん抱えて笑顔を見せてくれるのだろうと考えたサリーは、フッと微笑みを浮かべた。
サリーの背中に悪戯をしたことで、人参とセロリのサラダが続くという地味な仕返しにもなんとか耐え忍んだシューンは、今日もウサキチと一緒に眠っていた。
「寝ているときは天使なのよね」
サリーは少し口を開けて夢の中で遊ぶシューンの髪を撫でた。
ふと脳内にウサキチの声が響く。
(サリー、誰か来る。お前は隠れて何者かを見張ってくれ。シューンに手出しはさせないから安心していい)
サリーはウサキチを見ながら戸惑った。
(隠れるって、どこに?)
(カーテンの後ろ何てどうだ? 本棚の陰になるから見つかりにくい)
ドアノブが回る音がする。
鍵は掛けてあるので簡単には開かないはずだ。
(わかった、ウサキチ、頼んだよ)
(ああ、頼まれた)
サリーは音をさせないように移動した。
カーテンの端が本棚の側面に被っているので、確かにここなら見つかりにくいだろう。
サリーは息を殺して入口を凝視した。
カチリと音がして、静かにドアが開く。
(合鍵を持っている?)
この部屋の鍵を管理しているのは侍従長とメイド長だ。
サリーたちお付きの使用人でさえ、シューン殿下を起こすときに借りに行くのだ。
(誰かしら。私が知っている人ならいいけど)
ふとサリーは不安を覚えたが、商売柄人の顔を覚える術は叩き込まれている。
暗闇はシューンが怖がるので、部屋の中は夜でもぼんやり明るくしてあるので、顔の判別は難しくなさそうだ。
「良く寝てるわ。吞気な子ねぇ」
部屋には誰もいないことを確認した侵入者が、ベッドサイドに立った。
(あっ! あれは……)
月明かりに浮かんだ顔は……ライラだった。
(ラ……ライラ?)
薄闇の中で見てるせいだろうか、ライラの表情に違和感を覚えた。
なんと言うか、目の感じが違う……
そんなことを考えながらも、ただじっと見ているサリーだったが、危うく声を出しそうになった。
ライラが抱えていた桶から濡れたタオルを取り出したからだ。
軽く絞って、それをシューンの顔にかけようとしてる。
(溺死……)
動こうとしたサリーにウサキチが叫ぶ。
(まだだ。絶対に助けるからまだ動くな。今ロバートを呼んでいる。あいつが入ってきたら飛び出せ)
(っう……わかった)
濡れたタオルで顔を覆われたとしても、すぐに溺れるわけでは無い。
(ライラ……なぜ?)
その言葉を何度も脳内でリピートしながら、瞬きもせず見詰めるサリー。
ライラが無表情のまま、シューンの顔に濡れタオルを被せた。
数秒してシューンが顔を横に振り、タオルをどかそうと動いた。
ライラはそんなシューンの両腕を拘束するように抑えつけた。
(何てこと!)
サリーが動こうとした瞬間、ドアが乱暴に開かれてロバートが駆け込んだ。
「何をする! どけ!」
ライラが慌てて手を離した。
ロバートはライラを突き飛ばし、シューンの顔に掛っていたタオルを払いのける。
即座に顔を横に向けて、吸い込んでしまった水を吐かせた。
「殿下! シューン殿下!」
ロバートはシューンの頬を何度か叩き、うっすらと目を開けたシューンを抱き上げた。
「ゆっくり息を吸ってください。ゆっくりです」
ロバートは騎士では無く医師だ。
シューンの生命維持に集中している。
その隙に逃げようとしているライラを拘束するような考えは、頭にないのだろう。
「逃がさないわ!」
サリーはカーテンの後ろから飛び出して、ライラの手を掴もうとした。
その手を振り払い、ドアに向かって走るライラ。
「亀になれ~! え~い!」
サリーはライラの背中に向けて呪文を唱えた。
ポンという音がして、ライラが手のひらサイズの亀になる。
本人は必死で逃げようとしているのだが、さすがのサリーも余裕で追いつくスピードだ。
ライラ亀を捕まえたサリーは、本人が持ってきていた水桶をひっくり返して被せ、犯人の拘束に成功した。
「ゴホッ……ゴホゴホ……」
「シューン!」
ライラ亀に被せている桶の上に絵本を何冊か乗せてから、サリーはシューンに駆け寄った。
「サリー……喉が……痛い……ゴホゴホ……痛いよぉ~。サリー~」
サリーは思わずシューンをロバートから奪い取った。
「シューン、ああシューン。大丈夫よ。怖かったねぇ、よく頑張ったよ。えらかった。えらかったねぇ。シューン、いい子だったよ。ママはここにいるからね」
「ママ……ママ……」
シューンがサリーの首に回した手がギュッと締まった。
一瞬だけ呼吸を奪われたサリーだったが、今はシューンを抱きしめることが最優先だ。
二人は一体化したように抱きしめ合いながら、よろよろとその場に座り込んだ。
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