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「どれ、手伝ってやろう」
四つんばいの格好のまま、サリーが顔を上げるとイースがニコニコして立っていた。
「第一王子殿下!」
「貸してみろ。お前じゃその上に寝転んでも大した加重にはならんだろう」
「でも優しくしないと破れちゃうんです」
「ああ、古そうだものな。新しいのを買えばいいのに」
「シューン殿下にとってウサキチは唯一無二のものなのです。幼少期の子供に見られる行動なので、無理に止めさせては心に傷が残ってしまうんです」
「そういうものか……では、優しくやれば良いのだな?」
「殿下にこのようなことを……」
「弟のためにしてやりたいのだ。眼を瞑ってくれ」
サリーは立ち上がり、イースに場所を譲った。
イースは靴と靴下を脱ぎ、ズボンのすそを捲り上げる。
「これなら効率がいいだろう?」
「ああ、その手がありましたね」
「一緒にやるか?」
「はい!」
サリーも靴と靴下を脱ぎ、ウサキチ入りシーツの上に乗った。
みるみる水分が沁みだしてくる。
それを見たイースがその場で足踏みを始めた。
「お前もやってくれ」
「はい! あぁぁぁ~凄いですね」
「ははは! 凄いな」
「きゃっ!」
ウサキチのどの部分を踏んだのか、バランスを崩したサリーがよろける。
「おっと」
イース殿下がよろけたサリーを軽々と抱き上げた。
「これなら二人分の体重をかけられる」
「あっ……殿下……恐れ多すぎて気を失いそうです」
イースは笑って取り合わない。
そのうち楽しくなってきたサリーは、イースの動きに合わせて体を揺らし始めた。
童心に帰っている二人を微笑ましく包むように、スッと一陣の風が吹き抜ける。
あれほど踏んだらきっと中身はぐちゃぐちゃだろう……
洗濯メイド達は、完全に本来の目的を逸脱している若い二人を生ぬるい目で見ていた。
「そろそろ良さそうですね」
「そうか? 楽しかったのに終わりか」
サリーがべちょべちょになったシーツをはがしていく。
「「げっ!」」
そこには『ウサキチだったもの』が無残な躯を晒していた。
「拙いな……」
「拙いですね……」
「一応干してみるか?」
「そうですね……一応干してみましょうか」
サリーとイースは今更ながら宝物を扱うような手つきで、ボロ布と化したウサキチを戸板に横たえた。
「綿が乾いて膨れたら、余計に悲惨なことになりそうだ」
「なんとか……直してみます」
「ああ、必要なものがあったら言ってくれ」
「わかりました」
「健闘を祈る」
イース殿下が逃げるように去って行った。
午後になって回収に向かったサリーは、その内臓のほとんどを風に飛ばされやせ細ったウサキチの残骸を見て、頭を抱えた。
そんなサリーに、飛んでいった綿を拾い集めてくれたのだろう、洗濯メイド達が籠一杯の綿を差し出した。
「ありがとうございました」
「頑張っとくれ」
「……はい」
サリーは籠とウサキチを抱えて医務室に向かった。
「なるほど、そりゃ大変だったね」
トーマス医師が笑いをこらえながら同情する振りをしていた。
「どうするんだ?」
ロバート医師も口角をぴくぴくさせながら心配する振りをしている。
「なんとか直せませんか?」
「俺たちは医者だ。お針子ではない」
「知恵を貸してください」
「使えるところだけで小さく縫いなおすのは?」
「また高度なことを……」
「使えないところは他の布にするとか?」
「ほぼ全身整形状態ですね……」
三人は真剣な顔で、診察台に置かれたウサキチを見ていた。
「そうだ、こんな時こそサリーちゃんの魔法だよ」
トーマス医師が人差し指を立てながら、さも良い考えだと言わんばかりの顔をする。
「魔法ってぬいぐるみにもかかるのかしら」
「やってみる価値はあるんじゃないか?」
そう言ったロバートは、医務室の扉の鍵を閉めた。
四つんばいの格好のまま、サリーが顔を上げるとイースがニコニコして立っていた。
「第一王子殿下!」
「貸してみろ。お前じゃその上に寝転んでも大した加重にはならんだろう」
「でも優しくしないと破れちゃうんです」
「ああ、古そうだものな。新しいのを買えばいいのに」
「シューン殿下にとってウサキチは唯一無二のものなのです。幼少期の子供に見られる行動なので、無理に止めさせては心に傷が残ってしまうんです」
「そういうものか……では、優しくやれば良いのだな?」
「殿下にこのようなことを……」
「弟のためにしてやりたいのだ。眼を瞑ってくれ」
サリーは立ち上がり、イースに場所を譲った。
イースは靴と靴下を脱ぎ、ズボンのすそを捲り上げる。
「これなら効率がいいだろう?」
「ああ、その手がありましたね」
「一緒にやるか?」
「はい!」
サリーも靴と靴下を脱ぎ、ウサキチ入りシーツの上に乗った。
みるみる水分が沁みだしてくる。
それを見たイースがその場で足踏みを始めた。
「お前もやってくれ」
「はい! あぁぁぁ~凄いですね」
「ははは! 凄いな」
「きゃっ!」
ウサキチのどの部分を踏んだのか、バランスを崩したサリーがよろける。
「おっと」
イース殿下がよろけたサリーを軽々と抱き上げた。
「これなら二人分の体重をかけられる」
「あっ……殿下……恐れ多すぎて気を失いそうです」
イースは笑って取り合わない。
そのうち楽しくなってきたサリーは、イースの動きに合わせて体を揺らし始めた。
童心に帰っている二人を微笑ましく包むように、スッと一陣の風が吹き抜ける。
あれほど踏んだらきっと中身はぐちゃぐちゃだろう……
洗濯メイド達は、完全に本来の目的を逸脱している若い二人を生ぬるい目で見ていた。
「そろそろ良さそうですね」
「そうか? 楽しかったのに終わりか」
サリーがべちょべちょになったシーツをはがしていく。
「「げっ!」」
そこには『ウサキチだったもの』が無残な躯を晒していた。
「拙いな……」
「拙いですね……」
「一応干してみるか?」
「そうですね……一応干してみましょうか」
サリーとイースは今更ながら宝物を扱うような手つきで、ボロ布と化したウサキチを戸板に横たえた。
「綿が乾いて膨れたら、余計に悲惨なことになりそうだ」
「なんとか……直してみます」
「ああ、必要なものがあったら言ってくれ」
「わかりました」
「健闘を祈る」
イース殿下が逃げるように去って行った。
午後になって回収に向かったサリーは、その内臓のほとんどを風に飛ばされやせ細ったウサキチの残骸を見て、頭を抱えた。
そんなサリーに、飛んでいった綿を拾い集めてくれたのだろう、洗濯メイド達が籠一杯の綿を差し出した。
「ありがとうございました」
「頑張っとくれ」
「……はい」
サリーは籠とウサキチを抱えて医務室に向かった。
「なるほど、そりゃ大変だったね」
トーマス医師が笑いをこらえながら同情する振りをしていた。
「どうするんだ?」
ロバート医師も口角をぴくぴくさせながら心配する振りをしている。
「なんとか直せませんか?」
「俺たちは医者だ。お針子ではない」
「知恵を貸してください」
「使えるところだけで小さく縫いなおすのは?」
「また高度なことを……」
「使えないところは他の布にするとか?」
「ほぼ全身整形状態ですね……」
三人は真剣な顔で、診察台に置かれたウサキチを見ていた。
「そうだ、こんな時こそサリーちゃんの魔法だよ」
トーマス医師が人差し指を立てながら、さも良い考えだと言わんばかりの顔をする。
「魔法ってぬいぐるみにもかかるのかしら」
「やってみる価値はあるんじゃないか?」
そう言ったロバートは、医務室の扉の鍵を閉めた。
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