転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連

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 トーマがニヤッとしながら口を開いた。

「例の件ですが、やはりクロでしたよ。また探さないといけませんね」

「そうか……やはりクロだったか。兄上が選んだ者の中にも紛れていたとはな」

「継続して調査しますが、採用後に何らかの弱みを握られたか、買収されたかでしょうな。諸悪の根源から何とかすべきでしょうな」

「しかし、それをやると兄上を直接狙う恐れが出るだろう? こちらに引き付けておけば、まだ引き延ばせると思う。多少のリスクは引き受けよう」

「見事なご覚悟です。そういうことでしたら短期決戦に持ち込むというのも手ではございますぞ。そのためには奴らの印象通り愚鈍な王子を演じる必要がございます」

「それは構わない。しかし、短期決戦? 一気に潰すのか? なるほど……しかし、それにしてもいつも思うのだが、トーマは時々ものすごく爺くさい話し方をするな」

「えっ……ああ、これは、祖父の影響です。そんなに爺くさいですか?」

「ああ、私にはいないがおじい様がご健在であれば、そのような話し方をされたのではないかと思う。そうか、フレッツ先生の影響か。羨ましいな」

 サリーはシューンの心の孤独を感じた。
 父はいるが母は無く、兄はいるが友はない。
 そんな中で使用人とはいえ他人に囲まれて暮らしてきたのだ。
 心から信頼できる人間に保護されているという皮膚感覚は無かったのだろう。

「殿下、見極めの方法を思いつきました」

 サリーは努めて明るい声を出した。

「なんだ?」

「殿下お得意の悪戯ですよ。先生や殿下についている使用人たちに、子供らしい悪戯を仕掛けて行きましょう」

 トーマがポンと手を打つ。

「なるほど、対応の仕方でわかるな」

「ええ」

 シューンに作戦の裏まで伝わったのかどうか疑わしいところではあるが、悪戯をサリー公認でできるというだけで嬉しそうだった。
 そしてあくる日からその作戦は着実に実行されるのであった。
 三人は頭を寄せ合って悪戯を考えていた。
 それぞれが思いついたことを出し合って、バズセッションを繰り返す。
 ふとシューンが全然違うことを口にした。

「そう言えばライラを見かけないな。昨日も休みだっただろう?」

 サリーが答える。

「ええ、明日も休みですよ。何でも実家に行く用事ができたとか。結婚でもするのでしょうかねぇ」

「なんだ、羨ましいのか?」

「いえ、私は結婚に憧れてはいません。それに私って人を見る目が無いと自信を持っているのです。私がいい人だなぁ~素敵だなぁ~という第一印象を持った人って、大概クズでしたからね」

「なんの自信だよ」

 シューンが肩を竦めた。

「経験に裏打ちされた自信です。それがあるから世知辛い世の中を生き抜いてこれたと言っても良いほどです」
 
 トーマが言った。

「君は私以上に年寄りくさいことを言うのだな。笑える」

 シューンが続ける。

「そうか、だったら教えてくれ。サリーにとって第一印象が一番良かったのは誰だ?この宮殿内に限定しよう」

「そうですねぇ……言いにくいのですが教えますから内緒にして下さいね? 実は誰もいません。皆さんあまり良い印象は持てませんでした。徐々に心を開いて親しくなったって感じですね。まあ、私ごときが関わるなんてほんの一部ですが」

「そうか。ではフレッツ医師はどうだ?」

 サリーはチラッとトーマを見た。
 トーマは素知らぬ顔で薄笑いを浮かべている。

「あの方はなんと言うか、威厳? そんな感じで、最初は怖かったですねぇ」

 フンと鼻で笑ったトーマが口を開く。

「ではロバートは?」

「ロバート先生は……近寄りがたいというか、ツンと澄ました感じが苦手でしたね。でも私が頭を打った時にとても親身になって下さって。あれからは全然違う印象を持っています」

「どんな印象だ?」

 シューンが食い下がる。

「優しい人だなぁ~。冷たそうに見えるのはシャイだからかなぁ~。勿体ないなぁ~。って感じでしょうか」

「ふぅ~ん。サリーはロバートが好きなのか?」

「好きか嫌いかで分けるなら好きですよ? 恋愛感情ではないですが」

「恋愛感情ではない好きとは?」

「感情にはたくさんありますからね。強いて言えば仲間として信頼しているという感じです。これはフレッツ医師に対してもそうですし、ライラもそうです」

「兄上はどうだ?」

「イース殿下に対しては……冷たい方だなって思っていました。でもシューン殿下に対する愛情を垣間見て、優しい方なんだと思うようになりました。まあそもそもそれほどお会いすることもありませんでしたしね。印象は薄かったです」

「そうか……兄上は……そうだな。とても愛情深い方だと思う」

 シューンは少しもじもじしながらサリーを見た。

「俺は?」

 シューンが一番聞きたかったであろうことを口にした。

「シューン殿下に対しては親愛の情を抱いています。分かり易く言うと親子の愛情に近いです。シューン殿下をお守りするためなら、命を懸けることも厭いませんよ?」

「そ……そうか……それは……ありがとう」

 シューンが真っ赤になって照れた。
 サリーは記憶がないとはいえ、我が子のそんな姿にキュンとした。

「シューン殿下、かわいい!」
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