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バタバタと足音を響かせて衛兵が入ってきた。
「お呼びでしょうか」
「ああ、近衛隊長まで来てくれたのか。忙しいのに悪かったな。ここに居るメイドがヘブンズ王国第二王子であるシューンの手の甲を叩いたそうだ。質の悪い悪戯をしたのはシューンだが、それを諫めるためとはいえ王族に暴力を振るったのだ。何より叩かれた本人が捕縛と収監を望んでいる」
「なるほど……それでは不敬罪の適用ですね? 不敬罪となると即刻死刑となりますね」
「そうだな、不敬罪は死刑だ」
シューンが真っ青な顔で驚いた。
「不敬罪は……死刑なのですか?」
「ああ、そうだ。王族に危害を加えたのだから生かしてはおけない」
「地下の反省部屋で一晩過ごすだけでは無いのですか?」
「それはお前に対する罰だろう?」
「みんな同じでは無いのですか……」
「違うな。さあ、サリーとはもうお別れだ。せっかくお前に大切なことを教えようとしてくれていたのに残念だ。さあ、今までもたくさん迷惑をかけたんだ。お礼とお別れを言いなさい」
シューンがサリーの顔を見た。
サリーはとても辛そうな顔をしている。
「サリー……」
シューンが喚くように泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。サリーごめんなさい。俺が悪かった。俺がお前にヘビを投げた。それに水も掛けたし、池にも落とした。油をまいてこけさせた。メイド服に火をつけたこともあるし、お前の食事に虫を入れさせたこともある。ごめんなさい。ごめんなさい。俺が悪いのにサリーが死刑になるなんて……兄上! サリーは悪くありません。俺が……俺がサリーに酷いことをしたんです。僕が反省部屋に入りますから、サリーを捕まえるのは無しにして下さい。お願いします。お願いします」
シューンがイースの足元に縋りついた。
「お前……そんなことまでしていたのか……でもなぜサリーにばかり酷いことをするんだ? それほどサリーが嫌いならメイドを代えてやったのに」
「嫌いじゃない! 嫌いなんかじゃない! サリーなら許してくれるって……そう思って」
「好きな子にいじわるするにしても、少々度を越しているが……ではサリーはそのままにしていいんだな?」
「はい、お願いします。サリーは悪くないのです。もうしませんから。いい子になりますから。どうか兄上」
「叩かれたのに許すのか?
「叩かれて当然のことをしました。サリーは怒ったのではなく教えてようとしてくれたんです」
「わかった。ではサリーの件はそうしよう」
イース殿下は振り返り、衛兵たちに指示を出した。
「無駄足を踏ませてしまったようだ。申し訳なかった。申し訳なさついでにヘビの探索を頼めないだろうか。どうも王宮に迷い込んでしまったようだ。毒は無いと思うのだが」
ずっと黙っていたサリーが口を開いた。
「毒蛇ではありませんでした。青大将の赤ちゃんでしたよ」
「赤ちゃん?」
シューンがサリーの顔を見た。
「ええ、まだ赤ちゃんのヘビでしたよ」
「そうか……俺はサリーにもライラにも酷いことをしたが、そのヘビの赤ちゃんにも惨いことをしたのだな」
「そうですね。それがわかって下さったのなら良かったです」
近衛隊長が指示を出し、ヘビの探索のために去って行った。
去り際にサリーの方を見てサムズアップしたので、サリーは思わず笑ってしまった。
「無事に見つかって母親の所に戻してやりたいな」
「そうですね」
「済まないことをした」
そう言うとシューンはイースに頭を下げて、部屋を出て行こうとした。
「何処に行く?」
「地下の反省部屋に行きます」
「もう反省したのだろう?」
「でも罰を受けなくては……」
「罰は……サリーに決めてもらえば良いのではないか?」
シューンがサリーを見た。
「そうですね……では、セロリのサラダを完食していただきましょうか?」
「ウゲッ」
シューンは何度も反省部屋行きを望んだが、兄殿下は笑って却下した。
微笑ましい兄弟の攻防を見ながら、サリーはあることを決心した。
(この子は私が立派に育てて見せる!)
転生して18歳に戻ったサリーの母性本能が開花した瞬間だった。
「お呼びでしょうか」
「ああ、近衛隊長まで来てくれたのか。忙しいのに悪かったな。ここに居るメイドがヘブンズ王国第二王子であるシューンの手の甲を叩いたそうだ。質の悪い悪戯をしたのはシューンだが、それを諫めるためとはいえ王族に暴力を振るったのだ。何より叩かれた本人が捕縛と収監を望んでいる」
「なるほど……それでは不敬罪の適用ですね? 不敬罪となると即刻死刑となりますね」
「そうだな、不敬罪は死刑だ」
シューンが真っ青な顔で驚いた。
「不敬罪は……死刑なのですか?」
「ああ、そうだ。王族に危害を加えたのだから生かしてはおけない」
「地下の反省部屋で一晩過ごすだけでは無いのですか?」
「それはお前に対する罰だろう?」
「みんな同じでは無いのですか……」
「違うな。さあ、サリーとはもうお別れだ。せっかくお前に大切なことを教えようとしてくれていたのに残念だ。さあ、今までもたくさん迷惑をかけたんだ。お礼とお別れを言いなさい」
シューンがサリーの顔を見た。
サリーはとても辛そうな顔をしている。
「サリー……」
シューンが喚くように泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。サリーごめんなさい。俺が悪かった。俺がお前にヘビを投げた。それに水も掛けたし、池にも落とした。油をまいてこけさせた。メイド服に火をつけたこともあるし、お前の食事に虫を入れさせたこともある。ごめんなさい。ごめんなさい。俺が悪いのにサリーが死刑になるなんて……兄上! サリーは悪くありません。俺が……俺がサリーに酷いことをしたんです。僕が反省部屋に入りますから、サリーを捕まえるのは無しにして下さい。お願いします。お願いします」
シューンがイースの足元に縋りついた。
「お前……そんなことまでしていたのか……でもなぜサリーにばかり酷いことをするんだ? それほどサリーが嫌いならメイドを代えてやったのに」
「嫌いじゃない! 嫌いなんかじゃない! サリーなら許してくれるって……そう思って」
「好きな子にいじわるするにしても、少々度を越しているが……ではサリーはそのままにしていいんだな?」
「はい、お願いします。サリーは悪くないのです。もうしませんから。いい子になりますから。どうか兄上」
「叩かれたのに許すのか?
「叩かれて当然のことをしました。サリーは怒ったのではなく教えてようとしてくれたんです」
「わかった。ではサリーの件はそうしよう」
イース殿下は振り返り、衛兵たちに指示を出した。
「無駄足を踏ませてしまったようだ。申し訳なかった。申し訳なさついでにヘビの探索を頼めないだろうか。どうも王宮に迷い込んでしまったようだ。毒は無いと思うのだが」
ずっと黙っていたサリーが口を開いた。
「毒蛇ではありませんでした。青大将の赤ちゃんでしたよ」
「赤ちゃん?」
シューンがサリーの顔を見た。
「ええ、まだ赤ちゃんのヘビでしたよ」
「そうか……俺はサリーにもライラにも酷いことをしたが、そのヘビの赤ちゃんにも惨いことをしたのだな」
「そうですね。それがわかって下さったのなら良かったです」
近衛隊長が指示を出し、ヘビの探索のために去って行った。
去り際にサリーの方を見てサムズアップしたので、サリーは思わず笑ってしまった。
「無事に見つかって母親の所に戻してやりたいな」
「そうですね」
「済まないことをした」
そう言うとシューンはイースに頭を下げて、部屋を出て行こうとした。
「何処に行く?」
「地下の反省部屋に行きます」
「もう反省したのだろう?」
「でも罰を受けなくては……」
「罰は……サリーに決めてもらえば良いのではないか?」
シューンがサリーを見た。
「そうですね……では、セロリのサラダを完食していただきましょうか?」
「ウゲッ」
シューンは何度も反省部屋行きを望んだが、兄殿下は笑って却下した。
微笑ましい兄弟の攻防を見ながら、サリーはあることを決心した。
(この子は私が立派に育てて見せる!)
転生して18歳に戻ったサリーの母性本能が開花した瞬間だった。
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