転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連

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「殿下?」

 サリーがシューンに近づこうとしたとき、その手に乗ったものに気づいた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」

 シューンの手からサリーに投げられたもの……へびだ。
 サリーの体にぶつかったヘビは、シュルシュルとカーペットの上を這いずって、ライラの方に進んでいく。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ライラの叫びが廊下に響きわたった。
 ドアの外で待機していたはずの護衛騎士は、いち早くヘビの存在に気づいたのか、既に遠くまで逃げていた。
 ライラが走り去り、ヘビもドアから逃げていく。
 その様子をクスクス笑いながら見ているシューン。

「シューン殿下?」

 サリーはシューンを羽交い絞めにした。

「ヤメロ! 痛い! 痛い! 離せ~」

「ダメです。許しません」

 サリーは通りがかった侍従に事情を説明し、窓を閉めることと、ヘビの捕獲を頼んだ。
 その間も、サリーの拘束を解こうとじたばたと暴れるシューン。
 シューンを抱き上げたまま、足でドアを締めたサリー。

「シューン殿下。あのヘビはどこから持ってきたのですか?」

「庭だ。何か文句があるのか」

「ありますね。どうやって部屋に持ち込んだのですか?」

「捕獲して逃げないように籠に入れていたのを、ひもで引き上げたんだ。凄いだろ?」

「全然凄くないです。いつ捕まえたのですか?」

「昨日だ」

「ではあのヘビは丸一日籠の中だったのですね。家にも帰れず、ご飯も食べられず。水さえ飲めず、たった独りぼっちで捕まったままになっていたのですね。きっと逃げようとして無茶をして怪我をしているでしょうね」

「……」

「それのどこが凄いのですか?」

「うるさい」

「ん? もう一度言ってください?」

「うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさい」

 パシンッ!
 乾いた音が部屋の中に響いた。
 シューンの手の甲が赤くなっていく。
 数秒後、弾かれたように大きな声で泣き始めた。

「サリーが叩いた! 不敬だ! サリーを捕まえろ!」

「泣くな! 命を粗末にしたやつに泣く資格はない!」

 サリーの剣幕にシューンが怯んだ。

「お、お、お、お……俺は王子だぞ?」

「知ってますよ」

「王子を叩いてはいけないんだぞ?」

「誰が決めたんです?」

「それは……父上だ」

「噓を吐いたら今度はほっぺを抓ります。誰が決めたんですか?」

「っう……」

 勢いよくドアが開く。
 駆け込んできたのはイース第一王子だった。

「シューン!」

「兄上! サリーが叩きました。痛かったです。サリーを罰してください」

「シューン……」

 イースが済まなそうな顔でサリーを見た。

「何をしたから私に叩かれたのかを全部正直に話してください。その後なら私を捕まえて罰してくださっても結構です。さあ! きちんと噓を吐かずに全部話してください」

 サリーがイース王子に縋りつくシューンに言った。
 イースがシューンと目線の高さを合わせて言う。

「シューン、正直に話しなさい」

 シューンは時々詰まりながらも、昼寝から起きて以降の話をした。

「それで全部か?」

 シューンは項垂れた。

「本当にそれで全部だな?」

 諦めたシューンは、自分がサリーに放った言葉を口にした。

「なるほど……」

 イース殿下はシューンの頭をぽんぽんと優しく叩いて立ち上がった。
 そしてサリーの目を見てウィンクをした。
 サリーは小さく頷く。

「衛兵を呼べ」

 控えていた側近に命じる。
 シューンの肩がビクッと震えた。

「兄上?」

「それで? お前はサリーをどうしたいと?」

「つ……捕まえて……地下牢に……」

「地下牢に入れたいのか?」

「だって……王子の私を叩きました」

「そうか、王子であるお前を叩いたら、どんな理由があっても捕まえていいんだな? お前はそう望むのだな?」

「そ……それは……」

「はっきりしなさい」

 シューンは俯いたまま何も言わなかった。
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