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第一王子殿下の執務室から出た私たちは、全員でシューン殿下の部屋に行き、全員で慰めて、全員で昼寝をさせた。
眠るまで枕元でじっとしていたロバート猫には、後で魚の頭でも持って行ってやろうなんてライラは言っていたが、サリーは聞こえない振りをした。
シューン殿下が昼寝をしている間に休憩に入るライラと護衛騎士を残し、サリーとトーマスとロバート猫は医務室に向かった。
ドアに鍵を閉めて、早速呪文を唱えた。
いろいろなことがありすぎて、すっかり忘れていたが、人に戻ったロバートは全裸だった。
「なぜか既視感」
サリーの言葉に一瞬だけ泣きそうな顔をしたロバートは、今更のように大事なところを隠しながら控室に行き身なりを整えた。
「しかし傑作だったな」
トーマス医師が笑いながら言う。
「あれほど体中を撫でまわされたのは生まれて初めてでしたよ。不思議な体験でした」
「うん、今の意識を持ったまま他の生物になるというのは、なかなかにエキサイティングだな。しかし、悪用しようとするならこれほど便利な魔法もないだろう。知られてしまうとサリーの身に危険が及ぶかもしれない」
「それもそうですね。なあサリー、君のこの力を知っているのは私たちだけか?」
「ええ、私が知ったのもトーマス医師と同時でしたから」
トーマス医師が顎に手を当てながら、真剣な顔をした。
「これは我々だけの秘密にしよう」
「「わかりました」」
「それと、私は当分の間シューン殿下の学友として授業に参加しようと思っているんだ」
ロバートが怪訝な顔をする。
「なぜですか? 仕事は山ほどありますよ?」
「授業中に少々不穏な話を耳にしてな」
授業中ということはシューン殿下の部屋でということだろうか。
シューン殿下を自分の息子の転生だと信じているサリーが、慌てて言った。
「誰かがシューン殿下の命を狙っているとか?」
トーマス医師が小さく頷いた。
「はっきりとそう言ったわけでは無いんだ。しかし、殿下の教師には意図的に無能な奴を選んでいるというようなニュアンスの発言があったんだ。私が5歳児だと思って油断したのだろう」
ロバートが真剣な顔で問う。
「誰の発言ですか?」
「護衛騎士だよ。殿下の私室で本を読んでいただろう? あの時、君ともう一人のメイドはお茶の準備のために退出した。その時だ」
サリーが聞いた。
「何て言ったのですか?」
「サルーン伯爵に連絡しないといけないなと呟いたんだ」
ロバートがポツリと言った。
「サルーン伯爵家といえば、シューン殿下の生母の実家ですね。政治の中枢に食い込むために娘を側妃に差し出したのに死んでしまって、足がかりを失ったと聞いています。何か画策しているのでしょうか」
「シューン殿下の教師陣はサルーン伯爵家が送り込んだんだ。亡くなった娘の代わりに教師は自分たちで厳選したいと言ってな。その提案をした席には私もいたから間違いない。なのにあのていたらくだ。わざとだと考えた方が自然だろう?」
サリーが慌てて聞いた。
「無能な教師をつけて、無能な王子にしたかったってこと? 実の孫なのに? 信じられないわ」
「無能な王子が、何かの拍子に王位についたら後見人が実権を握るだろう?」
「あ……そういうこと」
「第一王子が王太子になり、何事もなく王位を継承するのは間違いない。この国の全員がそう思っている。だが、王太子が死んだらどうだ? 次は?」
「シューン殿下ですよね」
「ああ、しかし殿下はまだ幼い。しかし第一王子が子を成せば、次の継承権はその子に移る。シューン殿下の出番は無くなるんだ。だから奴らは第一王子が結婚するか、若しくは子を為す前に仕掛けてくるはずだ。でもそれは今じゃない。傀儡となる次期王を育てながら、虎視眈々とチャンスを伺っているというところだろう」
三人は黙って考え込んだ。
「なるほど、教師の見極めと情報収集をトーマス医師がなさるということですね。その間は、私が医務室の業務を一人で担当するということですか……ちょっと酷くないですか?」
ロバートが恨みがましい目をして言った。
「まあそう言うな。王家のためだ。頑張ってくれたまえ」
嬉しさを隠しきれないような笑みでトーマスが言う。
「私は今から第一王子に謁見して、学友の件と教師陣の見直しを進言してくる。君たちはそれぞれ仕事に戻ってくれ」
サリーとロバートは顔を見合わせた。
ライラを探して厨房に行くと、丁度お茶を飲んでいた。
「ライラ、そろそろ起こさないと夜寝なくて大変じゃない?」
「ああ、それもそうね」
食器を片づけたライラと連れだって、シューン殿下の私室に向かった。
ドアを開けようとすると、なにやらズルズルと引き摺る音がする。
「ライラ、ドアを開けたらすぐに後ろに飛んで。その後で私が先に入るから」
「了解。今度は何を思いついたのかしら……」
アイコンタクトの後、ドアをノックしてライラがドアを開く。
開いていない方のドアの所に身を潜めているサリーがカウントを始めた。
「1・2・3! 行くよ!」
飛び退っていたライラが頷く。
なんと言うか、熟練の連係プレーだ。
「殿下! 起きましょう!」
何も落ちてこないし、床も滑らない。
それでもサリーは警戒を緩めなかった。
ふと見ると、窓が開いていて、何やら紐が外に出ている。
脱走したか?
サリーはそう思い、窓の向かって足早に進んだ。
「サリー! 危ない!」
ライラの言葉に振り向くと、ものすごく悪い笑みを浮かべたシューン殿下が立っていた。
眠るまで枕元でじっとしていたロバート猫には、後で魚の頭でも持って行ってやろうなんてライラは言っていたが、サリーは聞こえない振りをした。
シューン殿下が昼寝をしている間に休憩に入るライラと護衛騎士を残し、サリーとトーマスとロバート猫は医務室に向かった。
ドアに鍵を閉めて、早速呪文を唱えた。
いろいろなことがありすぎて、すっかり忘れていたが、人に戻ったロバートは全裸だった。
「なぜか既視感」
サリーの言葉に一瞬だけ泣きそうな顔をしたロバートは、今更のように大事なところを隠しながら控室に行き身なりを整えた。
「しかし傑作だったな」
トーマス医師が笑いながら言う。
「あれほど体中を撫でまわされたのは生まれて初めてでしたよ。不思議な体験でした」
「うん、今の意識を持ったまま他の生物になるというのは、なかなかにエキサイティングだな。しかし、悪用しようとするならこれほど便利な魔法もないだろう。知られてしまうとサリーの身に危険が及ぶかもしれない」
「それもそうですね。なあサリー、君のこの力を知っているのは私たちだけか?」
「ええ、私が知ったのもトーマス医師と同時でしたから」
トーマス医師が顎に手を当てながら、真剣な顔をした。
「これは我々だけの秘密にしよう」
「「わかりました」」
「それと、私は当分の間シューン殿下の学友として授業に参加しようと思っているんだ」
ロバートが怪訝な顔をする。
「なぜですか? 仕事は山ほどありますよ?」
「授業中に少々不穏な話を耳にしてな」
授業中ということはシューン殿下の部屋でということだろうか。
シューン殿下を自分の息子の転生だと信じているサリーが、慌てて言った。
「誰かがシューン殿下の命を狙っているとか?」
トーマス医師が小さく頷いた。
「はっきりとそう言ったわけでは無いんだ。しかし、殿下の教師には意図的に無能な奴を選んでいるというようなニュアンスの発言があったんだ。私が5歳児だと思って油断したのだろう」
ロバートが真剣な顔で問う。
「誰の発言ですか?」
「護衛騎士だよ。殿下の私室で本を読んでいただろう? あの時、君ともう一人のメイドはお茶の準備のために退出した。その時だ」
サリーが聞いた。
「何て言ったのですか?」
「サルーン伯爵に連絡しないといけないなと呟いたんだ」
ロバートがポツリと言った。
「サルーン伯爵家といえば、シューン殿下の生母の実家ですね。政治の中枢に食い込むために娘を側妃に差し出したのに死んでしまって、足がかりを失ったと聞いています。何か画策しているのでしょうか」
「シューン殿下の教師陣はサルーン伯爵家が送り込んだんだ。亡くなった娘の代わりに教師は自分たちで厳選したいと言ってな。その提案をした席には私もいたから間違いない。なのにあのていたらくだ。わざとだと考えた方が自然だろう?」
サリーが慌てて聞いた。
「無能な教師をつけて、無能な王子にしたかったってこと? 実の孫なのに? 信じられないわ」
「無能な王子が、何かの拍子に王位についたら後見人が実権を握るだろう?」
「あ……そういうこと」
「第一王子が王太子になり、何事もなく王位を継承するのは間違いない。この国の全員がそう思っている。だが、王太子が死んだらどうだ? 次は?」
「シューン殿下ですよね」
「ああ、しかし殿下はまだ幼い。しかし第一王子が子を成せば、次の継承権はその子に移る。シューン殿下の出番は無くなるんだ。だから奴らは第一王子が結婚するか、若しくは子を為す前に仕掛けてくるはずだ。でもそれは今じゃない。傀儡となる次期王を育てながら、虎視眈々とチャンスを伺っているというところだろう」
三人は黙って考え込んだ。
「なるほど、教師の見極めと情報収集をトーマス医師がなさるということですね。その間は、私が医務室の業務を一人で担当するということですか……ちょっと酷くないですか?」
ロバートが恨みがましい目をして言った。
「まあそう言うな。王家のためだ。頑張ってくれたまえ」
嬉しさを隠しきれないような笑みでトーマスが言う。
「私は今から第一王子に謁見して、学友の件と教師陣の見直しを進言してくる。君たちはそれぞれ仕事に戻ってくれ」
サリーとロバートは顔を見合わせた。
ライラを探して厨房に行くと、丁度お茶を飲んでいた。
「ライラ、そろそろ起こさないと夜寝なくて大変じゃない?」
「ああ、それもそうね」
食器を片づけたライラと連れだって、シューン殿下の私室に向かった。
ドアを開けようとすると、なにやらズルズルと引き摺る音がする。
「ライラ、ドアを開けたらすぐに後ろに飛んで。その後で私が先に入るから」
「了解。今度は何を思いついたのかしら……」
アイコンタクトの後、ドアをノックしてライラがドアを開く。
開いていない方のドアの所に身を潜めているサリーがカウントを始めた。
「1・2・3! 行くよ!」
飛び退っていたライラが頷く。
なんと言うか、熟練の連係プレーだ。
「殿下! 起きましょう!」
何も落ちてこないし、床も滑らない。
それでもサリーは警戒を緩めなかった。
ふと見ると、窓が開いていて、何やら紐が外に出ている。
脱走したか?
サリーはそう思い、窓の向かって足早に進んだ。
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ライラの言葉に振り向くと、ものすごく悪い笑みを浮かべたシューン殿下が立っていた。
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