2 / 61
2
しおりを挟む
「あ、やっと気が付いた。何やってんのよ」
いきなり降りかかる理不尽な言葉に、ゆっくりと目を開けたさおり。
「頭打ったんじゃない? 医務室に行ってきなよ」
「医務室?」
「そう、医務室。今日の当番は若い方の先生だからラッキーじゃん?」
意味も解らず、周りを見回すさおり。
その顔を不思議そうな目で見ている若い女性。
「ここはどこ?」
「あんた……マジでヤバいんじゃない?」
「私は誰?」
ずっとさおりに話しかけていたその女性は、少し後退ってから踵を返して駆け出した。
「メイド長~ やっぱヤバいみたいです。サリーが変ですぅ~」
廊下から聞こえる叫び声に、さおりは耳を塞いだ。
やはり相当強く打ったのだろう。
少しの物音でも頭に響く。
ベッドから上半身だけ起こし、さおりは記憶を辿った。
「瞬ちゃん……瞬ちゃんは? 瞬ちゃんどこにいるのぉ~ ママはここだよ~」
さおりは真っ青な顔でベッドから抜け出した。
ふと見ると、深い紺色のワンピースに真っ白なエプロン。
なんのイベント衣裳だ? さおりはそう思ったが、今は息子のことが最優先だ。
ふらふらとドアまで裸足で歩き。把手に手を掛けた瞬間ドアが空き、さおりはおでこを強かに打った。
「あっ……」
開けた本人が間抜けな声を出し、さおりはその声を遠ざかる意識の向こうで聞いていた。
さおりが次に目覚めたのも、やはりベッドの上だった。
しかし今度は違う部屋で、なにやら薬品の匂いが漂っている。
「医務室みたいな匂いだ」
「そうだよ、医務室だ」
目を開けたさおりの顔を、超美形な顔が覗き込んでいた。
「誰?」
「マジか……」
「マジカさん?」
「サリー?」
「サリー? サリーって誰?」
「君だろ?」
「わたし?」
「僕はロバートだ。王宮勤務医のロバートだよ。そして君は第二王子殿下付のメイドで、名前はサリーだろ」
「何それ? イベントのルールが変わったの?」
「イベント?」
まったく会話が嚙み合わないまま、二人は質問を投げあった。
そもそも前提がすり合っていないのだ。
無駄な努力というものである。
「それにしても派手に転んだんだって? 完全に体が浮いていたってライラが言ってたよ」
「ライラ? また知らない名前が出て来たよ。 だからここはどこで、私はだれで、今は西暦何年なのよ!」
「う~ん。冗談でないとしたら相当な問題だな……いいかい? ここはヘブンズ王国の宮殿の医務室で、君の名前はサリーだ。西暦って何か知らないけれど、何年かって言うならアルファ568年の158日だ。これで満足?」
「サリーって私のこと? じゃあ私って魔法使いかなんか?」
「なぜそうなる?」
「スミレちゃんやヨシコちゃんがいればいいのに……」
「もう一度脳波の検査しとくか?」
「いや、もういいです」
「今日はもう帰れよ。早退指示を出したって届けとくからさ」
「ダメよ、私はしゅんを探さないといけないんだから」
「しゅん? ああ、シューン王子のこと? もしかしてまたシューン王子にやられたの?」
「シューン王子?」
「君はシューン王子付きのメイドだろ? あの悪ガキにいつも無茶なことを押し付けられた困ってたもんなぁ」
「シューン王子……。どんな顔?」
「あそこに王家の肖像画があるけど……サリー? 本当に大丈夫? まさか記憶喪失か?」
「アレって……あの小さい子がシューン王子?」
「そうだよ。確か5歳じゃなかったかな」
「瞬は5歳だけど、シューン王子も5歳なのね……私は? 私は26歳のはずなんだけど」
「君はライラと同じ年だから18歳だろ? 26歳は僕だ」
「私は……18歳……私だけ若返った? 妊娠する前の年齢になっちゃったから瞬はシューンになったの? 確かあの時……私は瞬を抱きしめて……嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! 瞬……瞬も死んじゃったの? 瞬……私のかわいい瞬……ごめんね……ごめんね……」
医師のロバートは真剣な顔でさおりの顔を覗き込んだ。
「拙いな……意識が混濁してる。サリー、今日はここに泊まりなさい。僕が当直するから」
「私は良いの。瞬が急な発熱で……瞬……瞬……」
ロバートは立ちあがり、棚から薬瓶を取り出した。
「さあ、サリーこれを飲みなさい。少し眠った方がいい」
サリーは小さく頷いて、素直に薬を飲んだ。
いきなり降りかかる理不尽な言葉に、ゆっくりと目を開けたさおり。
「頭打ったんじゃない? 医務室に行ってきなよ」
「医務室?」
「そう、医務室。今日の当番は若い方の先生だからラッキーじゃん?」
意味も解らず、周りを見回すさおり。
その顔を不思議そうな目で見ている若い女性。
「ここはどこ?」
「あんた……マジでヤバいんじゃない?」
「私は誰?」
ずっとさおりに話しかけていたその女性は、少し後退ってから踵を返して駆け出した。
「メイド長~ やっぱヤバいみたいです。サリーが変ですぅ~」
廊下から聞こえる叫び声に、さおりは耳を塞いだ。
やはり相当強く打ったのだろう。
少しの物音でも頭に響く。
ベッドから上半身だけ起こし、さおりは記憶を辿った。
「瞬ちゃん……瞬ちゃんは? 瞬ちゃんどこにいるのぉ~ ママはここだよ~」
さおりは真っ青な顔でベッドから抜け出した。
ふと見ると、深い紺色のワンピースに真っ白なエプロン。
なんのイベント衣裳だ? さおりはそう思ったが、今は息子のことが最優先だ。
ふらふらとドアまで裸足で歩き。把手に手を掛けた瞬間ドアが空き、さおりはおでこを強かに打った。
「あっ……」
開けた本人が間抜けな声を出し、さおりはその声を遠ざかる意識の向こうで聞いていた。
さおりが次に目覚めたのも、やはりベッドの上だった。
しかし今度は違う部屋で、なにやら薬品の匂いが漂っている。
「医務室みたいな匂いだ」
「そうだよ、医務室だ」
目を開けたさおりの顔を、超美形な顔が覗き込んでいた。
「誰?」
「マジか……」
「マジカさん?」
「サリー?」
「サリー? サリーって誰?」
「君だろ?」
「わたし?」
「僕はロバートだ。王宮勤務医のロバートだよ。そして君は第二王子殿下付のメイドで、名前はサリーだろ」
「何それ? イベントのルールが変わったの?」
「イベント?」
まったく会話が嚙み合わないまま、二人は質問を投げあった。
そもそも前提がすり合っていないのだ。
無駄な努力というものである。
「それにしても派手に転んだんだって? 完全に体が浮いていたってライラが言ってたよ」
「ライラ? また知らない名前が出て来たよ。 だからここはどこで、私はだれで、今は西暦何年なのよ!」
「う~ん。冗談でないとしたら相当な問題だな……いいかい? ここはヘブンズ王国の宮殿の医務室で、君の名前はサリーだ。西暦って何か知らないけれど、何年かって言うならアルファ568年の158日だ。これで満足?」
「サリーって私のこと? じゃあ私って魔法使いかなんか?」
「なぜそうなる?」
「スミレちゃんやヨシコちゃんがいればいいのに……」
「もう一度脳波の検査しとくか?」
「いや、もういいです」
「今日はもう帰れよ。早退指示を出したって届けとくからさ」
「ダメよ、私はしゅんを探さないといけないんだから」
「しゅん? ああ、シューン王子のこと? もしかしてまたシューン王子にやられたの?」
「シューン王子?」
「君はシューン王子付きのメイドだろ? あの悪ガキにいつも無茶なことを押し付けられた困ってたもんなぁ」
「シューン王子……。どんな顔?」
「あそこに王家の肖像画があるけど……サリー? 本当に大丈夫? まさか記憶喪失か?」
「アレって……あの小さい子がシューン王子?」
「そうだよ。確か5歳じゃなかったかな」
「瞬は5歳だけど、シューン王子も5歳なのね……私は? 私は26歳のはずなんだけど」
「君はライラと同じ年だから18歳だろ? 26歳は僕だ」
「私は……18歳……私だけ若返った? 妊娠する前の年齢になっちゃったから瞬はシューンになったの? 確かあの時……私は瞬を抱きしめて……嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! 瞬……瞬も死んじゃったの? 瞬……私のかわいい瞬……ごめんね……ごめんね……」
医師のロバートは真剣な顔でさおりの顔を覗き込んだ。
「拙いな……意識が混濁してる。サリー、今日はここに泊まりなさい。僕が当直するから」
「私は良いの。瞬が急な発熱で……瞬……瞬……」
ロバートは立ちあがり、棚から薬瓶を取り出した。
「さあ、サリーこれを飲みなさい。少し眠った方がいい」
サリーは小さく頷いて、素直に薬を飲んだ。
44
お気に入りに追加
1,027
あなたにおすすめの小説
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる