181 / 184
命に代えて
しおりを挟む
その頃ティナはリリアンと一緒に部屋でお茶を楽しんでいた。
楽しんでいたといっても二人の周りには五人の女性騎士が取り囲んでいるので落ち着かない。
「ここまでする必要が?」
ティナが溜息を吐きながら言う。
「あら、まだ足りないとお考えのご様子だったわよ?」
「・・・ふぅぅぅぅ」
ふとティナが視線を窓に向けたとき、頭の中で神の声が響いた。
『ティナ!アーレントだ!アーレントがターゲットだ!急げ!』
ティナはティーカップを放りだしてドアに向かって走った。
リリアンは呆気にとられて動けない。
数秒遅れて女性騎士たちがティナを追った。
ドアの外で控えていた護衛騎士たちの間を走り抜け、パーティー会場に向かうティナ。
騎士たちにとって、どのような奇襲にも対応できるよう重たい鎧を来ていたことが仇となった。
比較的身軽な装備の女性騎士がティナに追いすがるが、とても妊婦とは思えないほどのスピードで駆けていくティナ。
『頑張れティナ!ナサーリアは会場を出たはずだ。アーレントの横にはマリアンヌがいる』
神の声は聖女であるナサーリアにも聞こえたが、ナサーリアの声は娘を安全な場所に移動することで精一杯のハロッズ侯爵には届かない。
ただひたすらアーレントの名を叫ぶナサーリアは、父親に抱えられて会場から遠ざかった。
会場の熱気は最高潮に達し、参加者たちがアーレントの顔を見ようとすぐ近くまで来る。
その人波がマリアンヌに近寄ろうとするキリウスの行く手を阻む。
ハーベストはアーレントを助けるために近寄ろうとしているが、動けないでいた。
「どけ!どいてくれ!」
ハーベストもキリウスも声の限りに叫ぶが誰の耳にも届かない。
マリアンヌは大勢の人に怯えるアーレントを励ましながら、少しでも人の少ない方へ誘導していた。
ティナは勢いのまま会場に走り込み、アーレントの姿を探す。
人ごみを避ける様に一段高い場所に向って行くマリアンヌとアーレントの姿を捉えたとき、再び神の叫び声が聞こえた。
『ティナ!飛ばすぞ!腹を庇え!』
とっさに体を丸めて腹を両手で包み込むティナ。
その刹那、ふわっとした感覚を覚え一瞬のうちにアーレントの前まで移動していた。
『ティナ!後ろだ!二階のバルコニー!』
神が叫んだと同時にエイアール国王も叫んでいた。
「構わん!マリアンヌごと殺せ!」
その声に振り向いたキアヌは、エイアール国王に飛び掛かりねじ伏せた。
横にいたローマン国のヘラクルスは呆然としていたが、キアヌに加勢するべく逃れようとするエイアール国王を羽交い絞めにした。
暗殺者はターゲットを体で隠す自国の姫の姿に、ボーガンを放つタイミングを逸していた。
国王の声に我に返り、もう一度狙いを定める。
まさに矢を放とうとした瞬間、振り返ったティナと目が合った。
アーレントに覆いかぶさるマリアンヌの前に立ちはだかるティナは両手で腹を庇いながらも、暗殺者を睨みつけていた。
シュッという風を切る音がティナの耳に届いた時、レナード達がバルコニーに到達した。
『ティナ!避けろ』
神の声が聞こえたがティナは微動だにしない。
睨みつけるティナにとって、その数秒はスローモーションのように長く感じた。
ピシュッ
暗殺者が放ったボウガンの矢はティナの首筋を貫いた。
ハーベストとキリウスが群がる首脳たちを投げ飛ばしながら近づいてくる。
レナードは暗殺者を殴り倒しながら、その光景を見ていた。
上がる血しぶきに近寄っていた首脳たちの動きが止まり、会場中が静まり返った。
「ティナ!」
ハーベストが血に染まったティナを抱き上げ、矢をへし折る。
「しっかりしろ!ティナ!」
キリウスが壇上から指示を飛ばし、首脳たちは騎士によって安全な壁際に移動させられた。
「医者は!医者はまだか!」
ハーベストの声だけが会場に響く。
やっと父親の手からすり抜けたナサーリアが駆け込んできた。
「ティナ様!」
「かあさま!かあさま!」
マリアンヌの下から這い出たアーレントがティナに縋りついていた。
ティナが息をするたびに傷口から血が溢れ、ハーベストの盛装もアーレントのそれも真っ赤に染まっていた。
『ティナ!気をしっかり持て!サーリが来た!死ぬんじゃないぞ!』
ティナがうっすらと目を開けた。
「・・・アーレ・・ント・・は?」
「ああ、無事だよ。お前が守ったんだ。傷ひとつ付いてはいない」
ハーベストが涙を流しながら返事をした。
「かあさま・・・かあさま・・・」
アーレントはティナに抱きついて泣きじゃくっていた。
楽しんでいたといっても二人の周りには五人の女性騎士が取り囲んでいるので落ち着かない。
「ここまでする必要が?」
ティナが溜息を吐きながら言う。
「あら、まだ足りないとお考えのご様子だったわよ?」
「・・・ふぅぅぅぅ」
ふとティナが視線を窓に向けたとき、頭の中で神の声が響いた。
『ティナ!アーレントだ!アーレントがターゲットだ!急げ!』
ティナはティーカップを放りだしてドアに向かって走った。
リリアンは呆気にとられて動けない。
数秒遅れて女性騎士たちがティナを追った。
ドアの外で控えていた護衛騎士たちの間を走り抜け、パーティー会場に向かうティナ。
騎士たちにとって、どのような奇襲にも対応できるよう重たい鎧を来ていたことが仇となった。
比較的身軽な装備の女性騎士がティナに追いすがるが、とても妊婦とは思えないほどのスピードで駆けていくティナ。
『頑張れティナ!ナサーリアは会場を出たはずだ。アーレントの横にはマリアンヌがいる』
神の声は聖女であるナサーリアにも聞こえたが、ナサーリアの声は娘を安全な場所に移動することで精一杯のハロッズ侯爵には届かない。
ただひたすらアーレントの名を叫ぶナサーリアは、父親に抱えられて会場から遠ざかった。
会場の熱気は最高潮に達し、参加者たちがアーレントの顔を見ようとすぐ近くまで来る。
その人波がマリアンヌに近寄ろうとするキリウスの行く手を阻む。
ハーベストはアーレントを助けるために近寄ろうとしているが、動けないでいた。
「どけ!どいてくれ!」
ハーベストもキリウスも声の限りに叫ぶが誰の耳にも届かない。
マリアンヌは大勢の人に怯えるアーレントを励ましながら、少しでも人の少ない方へ誘導していた。
ティナは勢いのまま会場に走り込み、アーレントの姿を探す。
人ごみを避ける様に一段高い場所に向って行くマリアンヌとアーレントの姿を捉えたとき、再び神の叫び声が聞こえた。
『ティナ!飛ばすぞ!腹を庇え!』
とっさに体を丸めて腹を両手で包み込むティナ。
その刹那、ふわっとした感覚を覚え一瞬のうちにアーレントの前まで移動していた。
『ティナ!後ろだ!二階のバルコニー!』
神が叫んだと同時にエイアール国王も叫んでいた。
「構わん!マリアンヌごと殺せ!」
その声に振り向いたキアヌは、エイアール国王に飛び掛かりねじ伏せた。
横にいたローマン国のヘラクルスは呆然としていたが、キアヌに加勢するべく逃れようとするエイアール国王を羽交い絞めにした。
暗殺者はターゲットを体で隠す自国の姫の姿に、ボーガンを放つタイミングを逸していた。
国王の声に我に返り、もう一度狙いを定める。
まさに矢を放とうとした瞬間、振り返ったティナと目が合った。
アーレントに覆いかぶさるマリアンヌの前に立ちはだかるティナは両手で腹を庇いながらも、暗殺者を睨みつけていた。
シュッという風を切る音がティナの耳に届いた時、レナード達がバルコニーに到達した。
『ティナ!避けろ』
神の声が聞こえたがティナは微動だにしない。
睨みつけるティナにとって、その数秒はスローモーションのように長く感じた。
ピシュッ
暗殺者が放ったボウガンの矢はティナの首筋を貫いた。
ハーベストとキリウスが群がる首脳たちを投げ飛ばしながら近づいてくる。
レナードは暗殺者を殴り倒しながら、その光景を見ていた。
上がる血しぶきに近寄っていた首脳たちの動きが止まり、会場中が静まり返った。
「ティナ!」
ハーベストが血に染まったティナを抱き上げ、矢をへし折る。
「しっかりしろ!ティナ!」
キリウスが壇上から指示を飛ばし、首脳たちは騎士によって安全な壁際に移動させられた。
「医者は!医者はまだか!」
ハーベストの声だけが会場に響く。
やっと父親の手からすり抜けたナサーリアが駆け込んできた。
「ティナ様!」
「かあさま!かあさま!」
マリアンヌの下から這い出たアーレントがティナに縋りついていた。
ティナが息をするたびに傷口から血が溢れ、ハーベストの盛装もアーレントのそれも真っ赤に染まっていた。
『ティナ!気をしっかり持て!サーリが来た!死ぬんじゃないぞ!』
ティナがうっすらと目を開けた。
「・・・アーレ・・ント・・は?」
「ああ、無事だよ。お前が守ったんだ。傷ひとつ付いてはいない」
ハーベストが涙を流しながら返事をした。
「かあさま・・・かあさま・・・」
アーレントはティナに抱きついて泣きじゃくっていた。
14
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。
ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」
──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。
「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」
婚約者にそう言われたフェリシアは──
(え、絶対嫌なんですけど……?)
その瞬間、前世の記憶を思い出した。
彼女は五日間、部屋に籠った。
そして、出した答えは、【婚約解消】。
やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。
なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。
フェリシアの第二の人生が始まる。
☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる