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緊張感
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和やかな雰囲気の中、滞りなく進んでいく調印式。
ハーベストはきらびやかな盛装を身に纏い、見事な笑顔を貼り付けていた。
キリウスは緊張の為か少し青い顔をして、目だけが忙しなく会場を見まわしていた。
ふとエイアール国王の横にちゃっかり張り付いているキアヌと目が合う。
目礼程度の意思疎通をおこない、キアヌは再び隣の国王に注意を向けた。
最後の一国となるアルベッシュ帝国が調印した瞬間、大きな拍手が会場を包んだ。
何事もなく調印式を終えた面々は、ホッと息をつきパーティーの準備が整うまで暫しの休憩となった。
「俺はティナの様子を見てくるよ」
焦るように会場を出ようとするハーベストをキリウスが止める。
「お前がいないと拙いだろ。もう賽は投げられたんだ。ここは落ち着いてくれ!」
「あ・・・ああ、そうだった。すまんなキリウス」
そう言いうキリウスも、今すぐ駆け出してティナの安全を確認したい気持ちを持て余していた。
優秀なメイド達によって着々と準備は進められ、一時間後には全員が会場に戻った。
「さあ、正念場だ。頑張れよイース」
「ああ・・・心臓が口から出そうなほど緊張している」
「お前って・・・ホントにティナのことになるとポンコツだな」
「お前こそマリアンヌ姫の事になるとヘナチョコだろう?」
二人は同時に大きなため息を吐いた。
グラスが回され乾杯の音頭をとるためにキアヌが壇上に向かう。
後ろ髪を引かれるような思いでベルツ国王の側を離れた瞬間、キアヌは吹き抜けの高い窓にかかったバルコニーにふと違和感を覚えた。
何事もないようににこやかに壇上へと向かうキアヌ。
すれ違いざまにキリウスに目線で懸念を伝えた。
すぐさまキリウスは側に控えていた騎士にバルコニーの確認を指示した。
「ここまで長い長い道のりを共に歩んできた同志諸君!挨拶は短くが最良ですが、私たちのつながりは永遠です。乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」
全員がぐっとシャンパンを飲み干し、音楽の演奏が始まる。
キアヌは空のグラスを持ったまま、エイアール国王の近くに急いだ。
キアヌが抜けていた間は、レナードが張り付いていたらしく、お互い目線の交換だけで自然に入れ替わった。
「おお!これはこれはキアヌ殿下。いや、キアヌ事務総長とお呼びした方がよろしいかな?」
「ありがとうございます。若輩者ですが誠意をもって努めて参ります」
予想外に監視対象から話しかけられ、キアヌは少し焦ったが、好機と捉えべったり横に立った。
そこにエイアール国と戦火を交えたローマン国新国王であり、キアヌの盟友でもあるヘラクルス王がやってきた。
(まずい・・・)
とっさにキアヌは思ったが、下手に邪険にすると余計に不自然になってしまう。
(もし何か動きがあったらローマン国を巻き込んでしまう)
キアヌの注意が逸れた瞬間、入口でざわめきが起こった。
マリアンヌに手を引かれたアーレントが入場してきたのだ。
「ちっ!」
エイアール国王が小さく舌打ちをしたのをキアヌは見逃さなかった。
(舌打ち?)
とっさに会場中を見まわしたキアヌだったが、特に不審な点は見当たらない。
(バルコニーを点検に行った騎士はまだ戻らないのか?)
焦りばかりが募るキアヌは無意識のうちに親指の爪を噛んでいた。
ティナを連れ去る為には、ティナを守っている騎士たちを分散させる必要がある。
そのためにはティナの部屋から離れた場所、もしくはこの会場で何か騒ぎを起こす陽動作戦が有効だろうというのが一致した意見だった。
それに対抗するためには騒ぎ自体を未然に防ぐのが最善だった。
だからこそどんなに小さなことでも見逃さず、対処する必要がある。
しかし、いくら騒ぎを起こすといってもこれだけの主要メンバーが揃う中で起こしては、戦争の火種となりかねない。
(それほどバカではないだろう・・・ローマンの前王でもあるまいし)
それも共通認識だったが、それだけに何を仕掛けてくるのかが判らない。
アーレントが壇上に上がろうとする刹那、エイアール国王がさっとグラスを掲げて声を張った。
「アルベッシュ帝国新皇太子に乾杯!」
全員の目が壇上に向いた瞬間、キアヌはレナードに合図を送った。
レナードは瞬時に扉の前に立ち、無言のまま騎士たちに指示を出す。
それを見たハロッズ侯爵は、ナサーリアを抱き上げて扉に走った。
ハーベストはきらびやかな盛装を身に纏い、見事な笑顔を貼り付けていた。
キリウスは緊張の為か少し青い顔をして、目だけが忙しなく会場を見まわしていた。
ふとエイアール国王の横にちゃっかり張り付いているキアヌと目が合う。
目礼程度の意思疎通をおこない、キアヌは再び隣の国王に注意を向けた。
最後の一国となるアルベッシュ帝国が調印した瞬間、大きな拍手が会場を包んだ。
何事もなく調印式を終えた面々は、ホッと息をつきパーティーの準備が整うまで暫しの休憩となった。
「俺はティナの様子を見てくるよ」
焦るように会場を出ようとするハーベストをキリウスが止める。
「お前がいないと拙いだろ。もう賽は投げられたんだ。ここは落ち着いてくれ!」
「あ・・・ああ、そうだった。すまんなキリウス」
そう言いうキリウスも、今すぐ駆け出してティナの安全を確認したい気持ちを持て余していた。
優秀なメイド達によって着々と準備は進められ、一時間後には全員が会場に戻った。
「さあ、正念場だ。頑張れよイース」
「ああ・・・心臓が口から出そうなほど緊張している」
「お前って・・・ホントにティナのことになるとポンコツだな」
「お前こそマリアンヌ姫の事になるとヘナチョコだろう?」
二人は同時に大きなため息を吐いた。
グラスが回され乾杯の音頭をとるためにキアヌが壇上に向かう。
後ろ髪を引かれるような思いでベルツ国王の側を離れた瞬間、キアヌは吹き抜けの高い窓にかかったバルコニーにふと違和感を覚えた。
何事もないようににこやかに壇上へと向かうキアヌ。
すれ違いざまにキリウスに目線で懸念を伝えた。
すぐさまキリウスは側に控えていた騎士にバルコニーの確認を指示した。
「ここまで長い長い道のりを共に歩んできた同志諸君!挨拶は短くが最良ですが、私たちのつながりは永遠です。乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」
全員がぐっとシャンパンを飲み干し、音楽の演奏が始まる。
キアヌは空のグラスを持ったまま、エイアール国王の近くに急いだ。
キアヌが抜けていた間は、レナードが張り付いていたらしく、お互い目線の交換だけで自然に入れ替わった。
「おお!これはこれはキアヌ殿下。いや、キアヌ事務総長とお呼びした方がよろしいかな?」
「ありがとうございます。若輩者ですが誠意をもって努めて参ります」
予想外に監視対象から話しかけられ、キアヌは少し焦ったが、好機と捉えべったり横に立った。
そこにエイアール国と戦火を交えたローマン国新国王であり、キアヌの盟友でもあるヘラクルス王がやってきた。
(まずい・・・)
とっさにキアヌは思ったが、下手に邪険にすると余計に不自然になってしまう。
(もし何か動きがあったらローマン国を巻き込んでしまう)
キアヌの注意が逸れた瞬間、入口でざわめきが起こった。
マリアンヌに手を引かれたアーレントが入場してきたのだ。
「ちっ!」
エイアール国王が小さく舌打ちをしたのをキアヌは見逃さなかった。
(舌打ち?)
とっさに会場中を見まわしたキアヌだったが、特に不審な点は見当たらない。
(バルコニーを点検に行った騎士はまだ戻らないのか?)
焦りばかりが募るキアヌは無意識のうちに親指の爪を噛んでいた。
ティナを連れ去る為には、ティナを守っている騎士たちを分散させる必要がある。
そのためにはティナの部屋から離れた場所、もしくはこの会場で何か騒ぎを起こす陽動作戦が有効だろうというのが一致した意見だった。
それに対抗するためには騒ぎ自体を未然に防ぐのが最善だった。
だからこそどんなに小さなことでも見逃さず、対処する必要がある。
しかし、いくら騒ぎを起こすといってもこれだけの主要メンバーが揃う中で起こしては、戦争の火種となりかねない。
(それほどバカではないだろう・・・ローマンの前王でもあるまいし)
それも共通認識だったが、それだけに何を仕掛けてくるのかが判らない。
アーレントが壇上に上がろうとする刹那、エイアール国王がさっとグラスを掲げて声を張った。
「アルベッシュ帝国新皇太子に乾杯!」
全員の目が壇上に向いた瞬間、キアヌはレナードに合図を送った。
レナードは瞬時に扉の前に立ち、無言のまま騎士たちに指示を出す。
それを見たハロッズ侯爵は、ナサーリアを抱き上げて扉に走った。
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