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黒い噂
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翌朝から始まった会議の席にハーベストの姿は無かった。
キリウスにとっては想定内だったのか、焦るそぶりもなく粛々と議長としての役割をこなしている。
各国との戦争をしないという趣旨には賛同しているため、大きく紛糾することもなく会議は進んでいた。
ランチタイムになり、大広間に向かう首脳たちの顔は穏やかで明るかった。
最後に会議室を出たキリウスにローマン国の新国王であるヘラクルスが声をかけた。
「宰相殿、先日はお世話になりましたね」
「ああこれはローマン国王陛下、父君の仇に話しかけてくださるとは」
「またまたご冗談を。本当に感謝しているのですよ。私はもちろん国民全員も」
「そう言っていただけると多少は心が救われますね」
「それにこんなにも素晴らしい取り組みに参加させていただけるとは。全てアルベッシュ帝国とわが友キアヌのお陰です」
「ありがとうございます」
「そういえば聖女様は会議には参加されないのですか?」
「聖女様?」
「ええ、アルベッシュ帝国には聖女様がおられると聞いています。しかし聖女様の護衛は大変でしょうね」
「護衛ですか?なぜ?」
「なぜって・・・エイアール国の伝説はご存じない?」
「良ければ詳しく教えていただけませんか?」
「まあ私も詳しい訳ではありませんが、かの国にはその昔、聖女がいたのですよ。ですが聖女といえど不老不死ではありません。その聖女が亡くなった後、あの国は一気に衰退したのです」
「聖女の死を切っ掛けに?」
「切っ掛けというより、その聖女によってもたらされていた豊穣の加護が消えたのです。農作物の収穫量が半分以下になり、国民が流出してしまった。まあ、私に言わせれば聖女に頼りきって努力を怠った王家の失態ですけどね」
「なるほど・・・それが聖女の護衛に関係するのですか?」
「聖女を狙っているともっぱらの噂ですよ?我が国は隣国ですからね、あの国の強引なやり方は知っているつもりです。特に私はかの国との国境に派遣されていましたからね」
「狙う・・・まさか攫うとか?」
「さあ、そこまで野蛮ではないと信じたいですけどね。何か理由をつけて招待する位はやりそうですけどね」
「手のうちに入れて帰さないとか?」
「さあ、どうでしょうね・・・」
肩を竦めてローマン国王は大広間に入って行った。
その後ろ姿を眺めながらキリウスは立ち止まっていた。
「おう!イース。ご苦労だったな」
ハーベストが声をかけてきた。
「いや、そうでもないさ。それよりお前・・・なんだ?そのつやつやした顔は」
「ふふふ・・・積年の想いをやっと遂げることが出来たんだ。あ~幸せだぁ・・・あまりにも幸せ過ぎて夢みたいだ。目覚めたときにすぐ横にティナの寝顔があったんだぞ?夢だと思ったさ」
「夢?」
「うん。あまりにも良すぎて・・・部屋に入ってからの記憶がない。でも確かに抱いた感触は残っているんだ」
キリウスは吹き出した。
「そりゃ残念だったな。それにしても・・・我が国の皇帝は意外にヘタレだ」
「何とでも言ってくれ!もう手放さないからな。邪魔するなよ?」
「夜会の席であそこまでやったんだ。もう隠しようも無いさ。好きにしてくれ。それと今しがた気になる話を聞いたんだが・・・」
キリウスは仕入れたばかりのローマン国王の話をハーベストに伝えた。
ハーベストは黙って最後まで聞いていたが、真剣な顔で騎士を呼び寄せた。
「ティナロアの警護人数を三倍に増やせ。ティナロアには気づかれない様にするんだ。影も倍にしてつけろ」
騎士は頷いてすぐに去った。
キリウスはそれでも不安がぬぐえなかったが、他に方法もないと諦め昼食会場に入った。
首脳たちと昼食をともにするために来たハーベストだったが、踵を返しティナの部屋に向かった。
小さかった不安が徐々に膨らみ、遂には走ってティナのもとに向かう。
部屋のドアを開いてティナの名前を呼ぶハーベスト。
「まあ!ハーベスト様。ランチに行かれたのでは?」
呑気な顔でティナが言った。
ティナの足元にはアーレントが遊んでいる。
二人の無事な姿を確認してハーベストは大きく息をついた。
キリウスにとっては想定内だったのか、焦るそぶりもなく粛々と議長としての役割をこなしている。
各国との戦争をしないという趣旨には賛同しているため、大きく紛糾することもなく会議は進んでいた。
ランチタイムになり、大広間に向かう首脳たちの顔は穏やかで明るかった。
最後に会議室を出たキリウスにローマン国の新国王であるヘラクルスが声をかけた。
「宰相殿、先日はお世話になりましたね」
「ああこれはローマン国王陛下、父君の仇に話しかけてくださるとは」
「またまたご冗談を。本当に感謝しているのですよ。私はもちろん国民全員も」
「そう言っていただけると多少は心が救われますね」
「それにこんなにも素晴らしい取り組みに参加させていただけるとは。全てアルベッシュ帝国とわが友キアヌのお陰です」
「ありがとうございます」
「そういえば聖女様は会議には参加されないのですか?」
「聖女様?」
「ええ、アルベッシュ帝国には聖女様がおられると聞いています。しかし聖女様の護衛は大変でしょうね」
「護衛ですか?なぜ?」
「なぜって・・・エイアール国の伝説はご存じない?」
「良ければ詳しく教えていただけませんか?」
「まあ私も詳しい訳ではありませんが、かの国にはその昔、聖女がいたのですよ。ですが聖女といえど不老不死ではありません。その聖女が亡くなった後、あの国は一気に衰退したのです」
「聖女の死を切っ掛けに?」
「切っ掛けというより、その聖女によってもたらされていた豊穣の加護が消えたのです。農作物の収穫量が半分以下になり、国民が流出してしまった。まあ、私に言わせれば聖女に頼りきって努力を怠った王家の失態ですけどね」
「なるほど・・・それが聖女の護衛に関係するのですか?」
「聖女を狙っているともっぱらの噂ですよ?我が国は隣国ですからね、あの国の強引なやり方は知っているつもりです。特に私はかの国との国境に派遣されていましたからね」
「狙う・・・まさか攫うとか?」
「さあ、そこまで野蛮ではないと信じたいですけどね。何か理由をつけて招待する位はやりそうですけどね」
「手のうちに入れて帰さないとか?」
「さあ、どうでしょうね・・・」
肩を竦めてローマン国王は大広間に入って行った。
その後ろ姿を眺めながらキリウスは立ち止まっていた。
「おう!イース。ご苦労だったな」
ハーベストが声をかけてきた。
「いや、そうでもないさ。それよりお前・・・なんだ?そのつやつやした顔は」
「ふふふ・・・積年の想いをやっと遂げることが出来たんだ。あ~幸せだぁ・・・あまりにも幸せ過ぎて夢みたいだ。目覚めたときにすぐ横にティナの寝顔があったんだぞ?夢だと思ったさ」
「夢?」
「うん。あまりにも良すぎて・・・部屋に入ってからの記憶がない。でも確かに抱いた感触は残っているんだ」
キリウスは吹き出した。
「そりゃ残念だったな。それにしても・・・我が国の皇帝は意外にヘタレだ」
「何とでも言ってくれ!もう手放さないからな。邪魔するなよ?」
「夜会の席であそこまでやったんだ。もう隠しようも無いさ。好きにしてくれ。それと今しがた気になる話を聞いたんだが・・・」
キリウスは仕入れたばかりのローマン国王の話をハーベストに伝えた。
ハーベストは黙って最後まで聞いていたが、真剣な顔で騎士を呼び寄せた。
「ティナロアの警護人数を三倍に増やせ。ティナロアには気づかれない様にするんだ。影も倍にしてつけろ」
騎士は頷いてすぐに去った。
キリウスはそれでも不安がぬぐえなかったが、他に方法もないと諦め昼食会場に入った。
首脳たちと昼食をともにするために来たハーベストだったが、踵を返しティナの部屋に向かった。
小さかった不安が徐々に膨らみ、遂には走ってティナのもとに向かう。
部屋のドアを開いてティナの名前を呼ぶハーベスト。
「まあ!ハーベスト様。ランチに行かれたのでは?」
呑気な顔でティナが言った。
ティナの足元にはアーレントが遊んでいる。
二人の無事な姿を確認してハーベストは大きく息をついた。
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