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キアヌの気持ち
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マリアンヌ姫との仲が認められ、後顧の憂いが無くなったアルベッシュ帝国宰相キリウスは鬼人のごとく諸問題を解決していった。
不可侵条約機構への参加を希望する国からは、次々と全権大使がやってくる。
アルベッシュ帝国の王城は迎賓館さながらの様相を呈し、日々どこかで会談や会合が行われていた。
博愛という観点から発足した本条約は、当然ではあるが離脱国も出てくる。
自国の安全を連合軍に委ねるという考えが斬新すぎて理解を得る事も容易ではなかった。
キアヌは来るものは拒まず去るものは追わないという基本スタンスを貫いた。
そして本条約に参加する資格のひとつとして、隣国との友好関係の維持が追加された。
要するに飛び地参加は認めないという事だった。
そうなると参加したい国が飛び地となっていた場合、まず近隣諸国との関係改善をしなくてはならない。
必然的に隣国同士での侵略戦争は激減していった。
結果的にベルツ王国を中心に、まるで白い布に落ちた紅茶のシミが広がるようにじわじわと広がっていった。
「いい感じじゃないですか、キアヌ殿下」
「ああ、ティナ嬢はこうなることを予測していたのだろう?」
「いいえ、私は何も考えてなんかいませんでしたよ?なんと言ってもキアヌ殿下の粘り勝ちでしょう?」
「ははは!そう言って花を持たせてくれるのは嬉しいが、自分の実力は把握しているつもりだよ。でもまあ・・・ここまで形ができたなら私はお役御免で良いだろう」
「お帰りになるのですか?」
「そうだね。来月行われる参加国全体会議には兄上に出てもらうよ」
「キアヌ殿下は議長として参加するべきだと思いますが」
「いや、さすがに父王が執務不能な状況で第一王子と第二王子の両方が国を空ける訳にはいかないさ」
「でもキアヌ殿下は事務局長として・・・」
「ああ、その件は問題ないよ。発足したら僕が事務局長に就任する予定だ」
「それなら・・・安心ではありますが」
「うん。私は今までベルツ王国の発展にばかり気を配っていたが、今からは違う。他国も守ることで自国への侵略を防ぐという新しい考え方を持てたからね。これも全てティナロア嬢のお陰だね。ありがとうティナ」
「キアヌ殿下、さすがですわ。私は口ばかりで・・・キアヌ殿下のお力が無いと実現は不可能だったと思います」
「ああ、ありがとうティナ。もしよかったら少し私の話をしても良いだろうか」
「ええもちろん」
キアヌはフッと口角を上げて笑い、心を決めるように紅茶を口に含んだ。
「ティナ、君の立場も気持ちも十分理解しているつもりだ。それを踏まえて敢えて言わせてもらいたい」
ティナは口に運ぼうとしていたクッキーを自分の皿に置き、キアヌの目を見た。
「ティナ・・・私はあなたを・・・愛している」
ティナは微動だにしない。
「気づいていたんだね。そうだね・・・いつからだろうか、自分の気持ちを隠せなくなっていた事は自覚しているんだ。でもだからといって言い出せるものでもないだろう?」
「そうですね・・・気づいていましたわ。もう随分前からですが・・・私はずるい女なので殿下のその好意に甘えていました。ごめんなさい」
「謝らないでくれ。あなたは謝るような事はしていないよ。逆にどうしてもっと私の立場を利用しなかったのかな?あなたに頼まれたら私は何でもしただろうに・・・」
ティナは小さく笑った。
「ええ、だからですよ。殿下は自分の立場を悪くしてでも私の願いなら聞き入れてしまう・・・あなたは優しさと弱さが同居している方ですから。そんな殿下の純粋な気持ちを利用したら私は魔女と呼ばれたでしょう」
「魔女か・・・あなたが魔女なら魅入られた私は仔羊というところだな。ティナ・・・あなたになら生贄にされても私は喜んだだろうね・・・自分でも不思議なんだ。いつからこんなに好きになったのか・・・あなたのどこに心を奪われたのか・・・わからないんだ。気づいたときはもう・・・愛していた」
「殿下・・・それが恋というものでしょう?」
「恋・・・か。そうだな、恋だな。しかも私の初恋だ」
「初恋?」
「ああ、間違いなく私の初恋だ。ティナ・・・私の初恋の相手があなただった事を誇りに思うよ」
「殿下・・・」
「返事も分かっているし、実際に耳にするのは怖いのだが・・・私は前に進まなくてはならない。その勇気をもらうために敢えて言わせてくれ」
「はい・・・」
「ティナ、ここから先の未来を私と共に歩んではくれないだろうか。アーレントと一緒に私の手をとってはくれないだろうか・・・」
キアヌはソファーから立ち上がり、ティナの前に跪いた。
「ティナロア・ランバーツ伯爵、私キアヌ・ローレンティオ・ベルツアントはあなたを心からお慕い申し上げております。愛していますティナ。正式に婚姻を申し込みたい」
ティナは唇を噛みしめてじっとキアヌの目を見ていた。
そして聖母のような微笑みを浮かべつつも泣きそうな目でゆっくり首を横に振った。
「殿下のお気持ちはとても嬉しいです。心から感謝申し上げます。でも私は・・・アーレントの父親であるハーベスト陛下を・・・」
キアヌが立ち上がってティナの言葉を遮った。
「もういいんだ。ごめんティナ。私の我儘に付き合わせてしまったね。許してほしい。さっきも言ったけれど判っていたんだ。むしろ予想通りの返事で安心したというか・・・振られて安心するって変だけど・・・」
「殿下、この先も平和な世の中を作っていく仲間としてなら、共に歩めますわ」
「うん、そうだね。ありがとうティナ。君の夢は私の夢でもあるんだ。勇気を貰ったよ。改めて同志として握手をしてくれないか?」
「もちろんですわ、殿下。今後ともよろしくお願い申し上げます」
二人は固く握手をした。
不可侵条約機構への参加を希望する国からは、次々と全権大使がやってくる。
アルベッシュ帝国の王城は迎賓館さながらの様相を呈し、日々どこかで会談や会合が行われていた。
博愛という観点から発足した本条約は、当然ではあるが離脱国も出てくる。
自国の安全を連合軍に委ねるという考えが斬新すぎて理解を得る事も容易ではなかった。
キアヌは来るものは拒まず去るものは追わないという基本スタンスを貫いた。
そして本条約に参加する資格のひとつとして、隣国との友好関係の維持が追加された。
要するに飛び地参加は認めないという事だった。
そうなると参加したい国が飛び地となっていた場合、まず近隣諸国との関係改善をしなくてはならない。
必然的に隣国同士での侵略戦争は激減していった。
結果的にベルツ王国を中心に、まるで白い布に落ちた紅茶のシミが広がるようにじわじわと広がっていった。
「いい感じじゃないですか、キアヌ殿下」
「ああ、ティナ嬢はこうなることを予測していたのだろう?」
「いいえ、私は何も考えてなんかいませんでしたよ?なんと言ってもキアヌ殿下の粘り勝ちでしょう?」
「ははは!そう言って花を持たせてくれるのは嬉しいが、自分の実力は把握しているつもりだよ。でもまあ・・・ここまで形ができたなら私はお役御免で良いだろう」
「お帰りになるのですか?」
「そうだね。来月行われる参加国全体会議には兄上に出てもらうよ」
「キアヌ殿下は議長として参加するべきだと思いますが」
「いや、さすがに父王が執務不能な状況で第一王子と第二王子の両方が国を空ける訳にはいかないさ」
「でもキアヌ殿下は事務局長として・・・」
「ああ、その件は問題ないよ。発足したら僕が事務局長に就任する予定だ」
「それなら・・・安心ではありますが」
「うん。私は今までベルツ王国の発展にばかり気を配っていたが、今からは違う。他国も守ることで自国への侵略を防ぐという新しい考え方を持てたからね。これも全てティナロア嬢のお陰だね。ありがとうティナ」
「キアヌ殿下、さすがですわ。私は口ばかりで・・・キアヌ殿下のお力が無いと実現は不可能だったと思います」
「ああ、ありがとうティナ。もしよかったら少し私の話をしても良いだろうか」
「ええもちろん」
キアヌはフッと口角を上げて笑い、心を決めるように紅茶を口に含んだ。
「ティナ、君の立場も気持ちも十分理解しているつもりだ。それを踏まえて敢えて言わせてもらいたい」
ティナは口に運ぼうとしていたクッキーを自分の皿に置き、キアヌの目を見た。
「ティナ・・・私はあなたを・・・愛している」
ティナは微動だにしない。
「気づいていたんだね。そうだね・・・いつからだろうか、自分の気持ちを隠せなくなっていた事は自覚しているんだ。でもだからといって言い出せるものでもないだろう?」
「そうですね・・・気づいていましたわ。もう随分前からですが・・・私はずるい女なので殿下のその好意に甘えていました。ごめんなさい」
「謝らないでくれ。あなたは謝るような事はしていないよ。逆にどうしてもっと私の立場を利用しなかったのかな?あなたに頼まれたら私は何でもしただろうに・・・」
ティナは小さく笑った。
「ええ、だからですよ。殿下は自分の立場を悪くしてでも私の願いなら聞き入れてしまう・・・あなたは優しさと弱さが同居している方ですから。そんな殿下の純粋な気持ちを利用したら私は魔女と呼ばれたでしょう」
「魔女か・・・あなたが魔女なら魅入られた私は仔羊というところだな。ティナ・・・あなたになら生贄にされても私は喜んだだろうね・・・自分でも不思議なんだ。いつからこんなに好きになったのか・・・あなたのどこに心を奪われたのか・・・わからないんだ。気づいたときはもう・・・愛していた」
「殿下・・・それが恋というものでしょう?」
「恋・・・か。そうだな、恋だな。しかも私の初恋だ」
「初恋?」
「ああ、間違いなく私の初恋だ。ティナ・・・私の初恋の相手があなただった事を誇りに思うよ」
「殿下・・・」
「返事も分かっているし、実際に耳にするのは怖いのだが・・・私は前に進まなくてはならない。その勇気をもらうために敢えて言わせてくれ」
「はい・・・」
「ティナ、ここから先の未来を私と共に歩んではくれないだろうか。アーレントと一緒に私の手をとってはくれないだろうか・・・」
キアヌはソファーから立ち上がり、ティナの前に跪いた。
「ティナロア・ランバーツ伯爵、私キアヌ・ローレンティオ・ベルツアントはあなたを心からお慕い申し上げております。愛していますティナ。正式に婚姻を申し込みたい」
ティナは唇を噛みしめてじっとキアヌの目を見ていた。
そして聖母のような微笑みを浮かべつつも泣きそうな目でゆっくり首を横に振った。
「殿下のお気持ちはとても嬉しいです。心から感謝申し上げます。でも私は・・・アーレントの父親であるハーベスト陛下を・・・」
キアヌが立ち上がってティナの言葉を遮った。
「もういいんだ。ごめんティナ。私の我儘に付き合わせてしまったね。許してほしい。さっきも言ったけれど判っていたんだ。むしろ予想通りの返事で安心したというか・・・振られて安心するって変だけど・・・」
「殿下、この先も平和な世の中を作っていく仲間としてなら、共に歩めますわ」
「うん、そうだね。ありがとうティナ。君の夢は私の夢でもあるんだ。勇気を貰ったよ。改めて同志として握手をしてくれないか?」
「もちろんですわ、殿下。今後ともよろしくお願い申し上げます」
二人は固く握手をした。
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