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「ノブレスオブリージュ・・・」
キアヌの発言を口の中で繰り返したキリウスが疑問を投げかける。
「その考えは理解します。しかしそれではこの機構について一番熟知しているベルツ王国の立ち位置が曖昧になりませんか?やはりここはベルツ王国が中心にならないと趣旨がぶれるような気がしますが」
キリウスの疑問にティナが応えた。
「ベルツ王国は事務局として存在するのはどうでしょう。機構に派遣される事務官も自国の思惑を背負っているわけですから、不正や偏りが生まれるかもしれません。それを総合的に事務局が監視するのです。いわばお目付役ですね。それと同時にベルツ王国内に機構本部を置き、ベルツ王国は永世中立国を宣言するのです」
キアヌが手を叩いて立ち上がった。
「素晴らしいな・・・正に理想的だ。それこそが我が国の役割だと思うよ」
キリウスが考え込んでいる。
「キリウス様?ご意見があればお聞かせください。私の案はあくまでも叩き台ですから」
キリウスが慌てて言う。
「いえいえ、ティナ嬢の案は素晴らしいです。本当に理想的だ・・・しかしそれではベルツ王国にとって旨味が少なすぎる・・・」
キアヌが微笑みながら言った。
「宰相殿、我が国を思ってくださってありがとうございます。しかしベルツ王国はこの件について損得では考えていないのです。とにかく戦争をしない仕組みを作りたい、困っているなら国境など関係なく助け合う関係を作りたい。その一心なのですよ」
「キアヌ殿下・・・何と言うか・・・率直に感動してます。帝国の宰相という立場でありながら損得勘定を先にしてしまう自分を恥ずかしい」
「恥ずかしい事はありません。自国を優先したいのは当たり前です。その人間らしい欲を持ったまま進むしかない・・・だからこそ条約化して相互に監視するのです」
「これはなかなか理解を得るのが難しいですね。何といっても平等と博愛の精神が基本だ。理想論だと一蹴される危険性もありますからね。人間の欲深さを肯定したうえで一歩でも理想に近づこうとする精神力が指導者には必要ですね。しかし絶対に実現するべきです」
「その通りです。だからこそ最強の経済力と兵力を維持しているアルベッシュ帝国の加入がどれほど大きなことか・・・ご決断くださった陛下と宰相殿には感謝しかありません」
キリウスとキアヌは固い握手を交わした。
ティナはそれぞれの国を代表する二人の握手に目頭が熱くなった。
三人は興奮を鎮めるために冷めた紅茶を飲んだ。
ホッとひとつ息を吐きティナが口を開く。
「三つ目の相互監視体制ですが、各々が大使を派遣して常駐させるのはどうでしょう」
「大使?それはどういう役割を担うのですか?」
キリウスがカップをおいてペンを握った。
「それぞれお互いに公認スパイを住まわせるということです。スパイといっても後ろ暗いような活動をするわけではなく、その国からの要求や問い合わせ、その逆も然りですね。国家間の連絡を専門にする窓口といえば分かり易いでしょうか・・・外交官ですね」
「それは・・・かなり斬新な考え方ですね」
「そして外交官特権を付与して、公的な情報収集権限を保証します。もちろん国家の中枢的機密は漏らす必要などありませんが、今この国がどういう動きをしているのかを見る権利を与えることで国交の正常化を図りつつ相互信頼を築くのです」
「なるほど・・・それは相当な人格者を当てないと癒着や裏切りが発生するのではないですか?」
「そうですね。人選は鍵となるでしょう。でも言い換えるなら外交官のレベルが低い国は情報収集に遅れをとるという事ですから、その責任は自国に帰結します」
「ティナ嬢・・・天才ですか?」
キリウスが紅潮した顔で呟いた。
「キリウス殿に激しく同意する・・・ティナロア嬢・・・凄いな」
ティナは慌てて顔の前で手を振った。
「全ては神からの・・・神からのご教示ですから」
ティナは方を窄めて小さき声で応えた。
『嘘つきだなティナは』
『だってぇ~安保理とか国連とかそういうのが普通に存在する世界から来たっていうより信憑性があるんだもん』
『確かに説明は面倒だよな』
『なのでご理解のほどを』
『ティナに使われるなら何の問題もない』
神からの返事にティナがニマニマしていると、キリウスがキアヌに向き直って言った。
「内容など詳細部分はもっと詰める必要がありますが、骨子としては申し分ないと思います。どうでしょう、例の不可侵条約機構でトップクラスの人員を集める場で提言してみるのは」
「そうですね、結局全て繋がることですからそれが良いでしょう。それに何度も持ち帰って協議を重ねなくてはいけませんからね。概要説明の場としては最適だと思います」
「それではその方向で案内状を作成しよう。ところでキアヌ殿は一時帰国されるとか?」
「ええ、貴国に来てからずっと突っ走っていましたからね。それに本番は兄の出番ですよ。私の役目はお膳立てすることです」
「さすが第二王子殿下ですね。そこまでご自身の立場を律するあなたは王族の鏡です」
「いえいえ、やり方は違えど貴国の皇弟殿下も同じ思いだったのでは?」
「ああ・・・彼は少し立ち位置が違いますが、根底には同じ思いがあったのかもしれません。それで?いつ頃お帰りになるご予定ですか?」
「なるべく早くと思っていましたが、今ティナ嬢から凄いプレゼントをいただきましたからね。詳細を詰め終わるまでは滞在します」
「それは助かります。というか、あなた方が主柱ですからね?私たちはあくまでも賛同して補佐する立場です」
「なんだか恐れ多いですが・・・頑張ります」
二人は再び立ち上がって固い握手を交わした。
キアヌの発言を口の中で繰り返したキリウスが疑問を投げかける。
「その考えは理解します。しかしそれではこの機構について一番熟知しているベルツ王国の立ち位置が曖昧になりませんか?やはりここはベルツ王国が中心にならないと趣旨がぶれるような気がしますが」
キリウスの疑問にティナが応えた。
「ベルツ王国は事務局として存在するのはどうでしょう。機構に派遣される事務官も自国の思惑を背負っているわけですから、不正や偏りが生まれるかもしれません。それを総合的に事務局が監視するのです。いわばお目付役ですね。それと同時にベルツ王国内に機構本部を置き、ベルツ王国は永世中立国を宣言するのです」
キアヌが手を叩いて立ち上がった。
「素晴らしいな・・・正に理想的だ。それこそが我が国の役割だと思うよ」
キリウスが考え込んでいる。
「キリウス様?ご意見があればお聞かせください。私の案はあくまでも叩き台ですから」
キリウスが慌てて言う。
「いえいえ、ティナ嬢の案は素晴らしいです。本当に理想的だ・・・しかしそれではベルツ王国にとって旨味が少なすぎる・・・」
キアヌが微笑みながら言った。
「宰相殿、我が国を思ってくださってありがとうございます。しかしベルツ王国はこの件について損得では考えていないのです。とにかく戦争をしない仕組みを作りたい、困っているなら国境など関係なく助け合う関係を作りたい。その一心なのですよ」
「キアヌ殿下・・・何と言うか・・・率直に感動してます。帝国の宰相という立場でありながら損得勘定を先にしてしまう自分を恥ずかしい」
「恥ずかしい事はありません。自国を優先したいのは当たり前です。その人間らしい欲を持ったまま進むしかない・・・だからこそ条約化して相互に監視するのです」
「これはなかなか理解を得るのが難しいですね。何といっても平等と博愛の精神が基本だ。理想論だと一蹴される危険性もありますからね。人間の欲深さを肯定したうえで一歩でも理想に近づこうとする精神力が指導者には必要ですね。しかし絶対に実現するべきです」
「その通りです。だからこそ最強の経済力と兵力を維持しているアルベッシュ帝国の加入がどれほど大きなことか・・・ご決断くださった陛下と宰相殿には感謝しかありません」
キリウスとキアヌは固い握手を交わした。
ティナはそれぞれの国を代表する二人の握手に目頭が熱くなった。
三人は興奮を鎮めるために冷めた紅茶を飲んだ。
ホッとひとつ息を吐きティナが口を開く。
「三つ目の相互監視体制ですが、各々が大使を派遣して常駐させるのはどうでしょう」
「大使?それはどういう役割を担うのですか?」
キリウスがカップをおいてペンを握った。
「それぞれお互いに公認スパイを住まわせるということです。スパイといっても後ろ暗いような活動をするわけではなく、その国からの要求や問い合わせ、その逆も然りですね。国家間の連絡を専門にする窓口といえば分かり易いでしょうか・・・外交官ですね」
「それは・・・かなり斬新な考え方ですね」
「そして外交官特権を付与して、公的な情報収集権限を保証します。もちろん国家の中枢的機密は漏らす必要などありませんが、今この国がどういう動きをしているのかを見る権利を与えることで国交の正常化を図りつつ相互信頼を築くのです」
「なるほど・・・それは相当な人格者を当てないと癒着や裏切りが発生するのではないですか?」
「そうですね。人選は鍵となるでしょう。でも言い換えるなら外交官のレベルが低い国は情報収集に遅れをとるという事ですから、その責任は自国に帰結します」
「ティナ嬢・・・天才ですか?」
キリウスが紅潮した顔で呟いた。
「キリウス殿に激しく同意する・・・ティナロア嬢・・・凄いな」
ティナは慌てて顔の前で手を振った。
「全ては神からの・・・神からのご教示ですから」
ティナは方を窄めて小さき声で応えた。
『嘘つきだなティナは』
『だってぇ~安保理とか国連とかそういうのが普通に存在する世界から来たっていうより信憑性があるんだもん』
『確かに説明は面倒だよな』
『なのでご理解のほどを』
『ティナに使われるなら何の問題もない』
神からの返事にティナがニマニマしていると、キリウスがキアヌに向き直って言った。
「内容など詳細部分はもっと詰める必要がありますが、骨子としては申し分ないと思います。どうでしょう、例の不可侵条約機構でトップクラスの人員を集める場で提言してみるのは」
「そうですね、結局全て繋がることですからそれが良いでしょう。それに何度も持ち帰って協議を重ねなくてはいけませんからね。概要説明の場としては最適だと思います」
「それではその方向で案内状を作成しよう。ところでキアヌ殿は一時帰国されるとか?」
「ええ、貴国に来てからずっと突っ走っていましたからね。それに本番は兄の出番ですよ。私の役目はお膳立てすることです」
「さすが第二王子殿下ですね。そこまでご自身の立場を律するあなたは王族の鏡です」
「いえいえ、やり方は違えど貴国の皇弟殿下も同じ思いだったのでは?」
「ああ・・・彼は少し立ち位置が違いますが、根底には同じ思いがあったのかもしれません。それで?いつ頃お帰りになるご予定ですか?」
「なるべく早くと思っていましたが、今ティナ嬢から凄いプレゼントをいただきましたからね。詳細を詰め終わるまでは滞在します」
「それは助かります。というか、あなた方が主柱ですからね?私たちはあくまでも賛同して補佐する立場です」
「なんだか恐れ多いですが・・・頑張ります」
二人は再び立ち上がって固い握手を交わした。
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