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王子キアヌの夢
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騎士に案内されてキアヌが入室した。
座っている顔ぶれを見て一瞬怯んだが、そこは小国と言えども一国の第二王子だ。
余裕のある仕草で流暢に挨拶をする。
キリウスが再び立ち上がり、ドアの外に控えていた侍女に茶菓の用意を命じた。
新しい紅茶が配られるまでの間、五人は当たり障りのない話題で談笑した。
アーレントは相変わらずハーベストの服をどろどろにし、今は袖口に縫いつけられた金のモールを剥がそうとしている。
「アーレント、ダメよ。こっちにいらっしゃい」
ティナがアーレントをハーベストから引き離そうとするが、アーレントはいやいやをしてハーベストにしがみついた。
「あらあら・・・アーレント殿下はお父様っこなのですね?」
ハーベストが嬉しそうに頷いた。
そんなハーベストをしらっとした目で見ながらキリウスが言う。
「まだ対面して間がないですからね。物珍しいだけでしょう?アーレントはここに来た当初は私の隠し子だと噂されていたのですから」
ハーベストとキリウスの間に微妙な空気が流れた。
キアヌが慌てて間に入る。
「そういえば陛下はアルという愛称だったとか?」
「ああ、ティナに聞いたのですね?そうです。まだ舌足らずでハーベストといえなかった頃の名残です。そうだ、キリウスにもあったな?俺と同じ理由でついた愛称が」
「ああ、あれね。私の愛称はイースです・・・私も彼と同じでキリウスと言えなかった」
マリアンヌが顔の前で手を合わせて嬉しそうに言った。
「まあ素敵な愛称ですのね。私もイースと呼びたいですわ」
「もちろん!マリーに呼ばれるなんて最高の喜びですよ」
「イース・・・」
「はい、マリー・・・」
「イース・・・ほほほ」
「なんですか?マリー・・・ふふふ」
取り残された三人は胸やけを起こしたような顔をしていた。
侍女たちが下がり、アーレントはクッキーの箱を与えられてご満悦だ。
ハーベストがわざとらしい咳払いをする。
「さあ、始めよう。こちらのエイアール国皇女マリアンヌ姫に不可侵条約機構の概要を説明してほしいのだが、キアヌ殿にお願いしたい」
「ああ、それでお呼びいただいたのですね?私でよければ喜んで・・・不足があればティナロア嬢もフォローを頼むよ」
ティナはしっかりと頷いた。
ティナの提案から始まった近隣諸国にる不可侵条約とその現状を相互監視する機構の説明が行われた。
時々マリアンヌが不明な点を質問したが、完全に内容を把握しているキアヌは淀むことなく応えていった。
ひと通りの説明が終わり、キリウスが口を開いた。
「いまいち理解できていなかった部分が明白になりました。改めて素晴らしい案だと確信しましたよ」
「ええ、本当に。もしも我が国もお仲間に入れていただけるのなら嬉しい限りですわ」
キアヌが少し興奮した表情のまま言った。
「もちろん歓迎いたしますよ。まったく初めての考え方だったのでスモールスタートとしたのですが、広がっていくならこんなに嬉しいことは無い」
ハーベストも頷いて賛同の意を示した。
「どうだろうか・・・この際に対象国の宰相レベルを集めて話をするというのは」
キリウスが賛成した。
「それが一番早いですね。会場なら我が帝国が用意しましょう。もちろん議長はキアヌ殿下にお願いします。我が帝国は万全の警備体制を提供しましょう」
キアヌが立ち上がって最敬礼した。
「ありがたい!よろしくお願いします」
それぞれが握手を交わしその日は御開きとなった。
帰りの馬車の中でキアヌがティナに言う。
「夢のようだね・・・私の願いはこの地から戦争を無くす事なんだ。ようやく一歩踏み出せた気分だよ」
「そうですわね・・・とても大きな一歩となりますわ」
「これも全て聖女ティナロアのお陰だな」
「・・・全ては神のご意志ですわ」
優しく微笑みながらティナが応えた。
『ふふふ・・・神を崇め奉るように伝えなさい』
ティナはフッとため息を吐いて心の中で呟いた。
『アル・・・バカなの?好きだけど』
『ティナ、愛してる』
座っている顔ぶれを見て一瞬怯んだが、そこは小国と言えども一国の第二王子だ。
余裕のある仕草で流暢に挨拶をする。
キリウスが再び立ち上がり、ドアの外に控えていた侍女に茶菓の用意を命じた。
新しい紅茶が配られるまでの間、五人は当たり障りのない話題で談笑した。
アーレントは相変わらずハーベストの服をどろどろにし、今は袖口に縫いつけられた金のモールを剥がそうとしている。
「アーレント、ダメよ。こっちにいらっしゃい」
ティナがアーレントをハーベストから引き離そうとするが、アーレントはいやいやをしてハーベストにしがみついた。
「あらあら・・・アーレント殿下はお父様っこなのですね?」
ハーベストが嬉しそうに頷いた。
そんなハーベストをしらっとした目で見ながらキリウスが言う。
「まだ対面して間がないですからね。物珍しいだけでしょう?アーレントはここに来た当初は私の隠し子だと噂されていたのですから」
ハーベストとキリウスの間に微妙な空気が流れた。
キアヌが慌てて間に入る。
「そういえば陛下はアルという愛称だったとか?」
「ああ、ティナに聞いたのですね?そうです。まだ舌足らずでハーベストといえなかった頃の名残です。そうだ、キリウスにもあったな?俺と同じ理由でついた愛称が」
「ああ、あれね。私の愛称はイースです・・・私も彼と同じでキリウスと言えなかった」
マリアンヌが顔の前で手を合わせて嬉しそうに言った。
「まあ素敵な愛称ですのね。私もイースと呼びたいですわ」
「もちろん!マリーに呼ばれるなんて最高の喜びですよ」
「イース・・・」
「はい、マリー・・・」
「イース・・・ほほほ」
「なんですか?マリー・・・ふふふ」
取り残された三人は胸やけを起こしたような顔をしていた。
侍女たちが下がり、アーレントはクッキーの箱を与えられてご満悦だ。
ハーベストがわざとらしい咳払いをする。
「さあ、始めよう。こちらのエイアール国皇女マリアンヌ姫に不可侵条約機構の概要を説明してほしいのだが、キアヌ殿にお願いしたい」
「ああ、それでお呼びいただいたのですね?私でよければ喜んで・・・不足があればティナロア嬢もフォローを頼むよ」
ティナはしっかりと頷いた。
ティナの提案から始まった近隣諸国にる不可侵条約とその現状を相互監視する機構の説明が行われた。
時々マリアンヌが不明な点を質問したが、完全に内容を把握しているキアヌは淀むことなく応えていった。
ひと通りの説明が終わり、キリウスが口を開いた。
「いまいち理解できていなかった部分が明白になりました。改めて素晴らしい案だと確信しましたよ」
「ええ、本当に。もしも我が国もお仲間に入れていただけるのなら嬉しい限りですわ」
キアヌが少し興奮した表情のまま言った。
「もちろん歓迎いたしますよ。まったく初めての考え方だったのでスモールスタートとしたのですが、広がっていくならこんなに嬉しいことは無い」
ハーベストも頷いて賛同の意を示した。
「どうだろうか・・・この際に対象国の宰相レベルを集めて話をするというのは」
キリウスが賛成した。
「それが一番早いですね。会場なら我が帝国が用意しましょう。もちろん議長はキアヌ殿下にお願いします。我が帝国は万全の警備体制を提供しましょう」
キアヌが立ち上がって最敬礼した。
「ありがたい!よろしくお願いします」
それぞれが握手を交わしその日は御開きとなった。
帰りの馬車の中でキアヌがティナに言う。
「夢のようだね・・・私の願いはこの地から戦争を無くす事なんだ。ようやく一歩踏み出せた気分だよ」
「そうですわね・・・とても大きな一歩となりますわ」
「これも全て聖女ティナロアのお陰だな」
「・・・全ては神のご意志ですわ」
優しく微笑みながらティナが応えた。
『ふふふ・・・神を崇め奉るように伝えなさい』
ティナはフッとため息を吐いて心の中で呟いた。
『アル・・・バカなの?好きだけど』
『ティナ、愛してる』
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