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壊れたキリウス
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高価そうなハンカチを握りしめ、扇を膝に乗せたマリアンヌ皇女がきっぱりと言った。
「嘘や誤魔化しは陛下にも宰相様にも似合いませんわ!」
ハーベストとキリウスが口をあんぐりと開けている。
ティナはマリアンヌの高潔さに感動しながらも心の中で突っ込んだ。
(いやいや・・・嘘と誤魔化しはこいつらの専売特許だろ!)
キリウスがやっと言葉を発する。
「いや・・・マリアンヌ姫、仰る通り嘘や誤魔化しは良いことではありません。しかしこうでもしなくては貴女の命が・・・」
慌てるキリウスに上品な笑顔を浮かべながらマリアンヌが言う。
「お心遣いありがとう存じます。それでも私は反対ですわ。その場しのぎの悪手はきっと禍根を残します」
ハーベストが冷ややかな口調で返した。
「ではマリアンヌ姫はお父上にどう申し開きをなさるのですか?私はここに居るティナ以外と婚姻する意志は無い。貴女は帝国の皇后にならなければ死ねと言われている。しかも貴女は・・・」
ハーベストは口ごもった。
「ご存じだとは思っておりました。そうです、私は子を産めない体なのですわ、今のところは」
「今のところ?」
「ええ、医者は精神的な原因だと申しておりますの。ですから希望は捨てておりません」
キリウスがマリアンヌの手を握って言った。
「そうですね、希望を捨ててはいけません。ああ・・・ご苦労なさって来たのでしょうね」
「キリウス様・・・私は貴方様に出会うために生きてきたのだと確信しておりますわ」
「マリアンヌ姫・・・いえ、マリー。私の可愛い人・・・嘘でもあなたとハーベストを婚姻させようとした私を許してください」
「もちろん許しますわ。だってキリウス様は私を救うために断腸の思いだったのでしょう?」
キリウスは一瞬怯んだが、気を取り直して力強く頷いた。
「勿論です」
ハーベストとティナは心の中で叫んだ。
(嘘ばっかりっ!)
ハーベストがティナの顔を見てから口を開く。
「では、どうすればよいとお考えなのでしょう?」
手を握り合って二人の世界に浸っていたマリアンヌとキリウスが現実に戻った。
「私、このまま国には帰らず帝国においていただきたいのです。幼少から傍仕えをしていたリンダだけを残して、侍女も騎士も帰国させますわ」
「それは問題ありませんが、その後は?」
「キリウス様の妻となります!」
マリアンヌは徐に立ち上がって言い切った。
キリウスも立ち上がりマリアンヌを抱き寄せる。
「そうしましょう」
「おいおいおいおいおい」
ハーベストとティナが一緒に突っ込みを入れた。
マリアンヌはゆっくりと座りなおして正面に向いた。
「おそらく父も兄たちも私を許しません・・・私、なぜ許さないのかを考えてみましたの。父も兄たちも結局アルベッシュ帝国と強固なつながりが欲しいのですわ。この帝国を侵略したいなどという大それたことは考えておりません。それは断言できます。彼らの望みは帝国に侵略されず、もし他国が侵略してきたら援助して貰えるという信頼関係なのですから」
ハーベストとキリウスが同時に顎に手を当てた。
(おっ!さすが幼馴染の腹黒コンビ!気が合ってるじゃん)
ティナは笑いをかみ殺す。
「本当にそれだけなのでしたら・・・問題はありませんね。我が帝国はハーベスト陛下に代替わりされてから方針転換しましたから」
「そうです。私は今後一切、戦争をしない!たとえ相手が侵略してきたとしても、話し合いで解決するつもりです」
マリアンヌが涙ぐみながら小さく拍手をした。
「素晴らしいですわ!陛下のお考えがエイアール国に伝われば良いのですが・・・」
「それこそ私の出番ですね。丁度いま進めている不可侵条約機構にエイアール国も入れましょう。エイアール国は隣国を挟んだ遠い国ですから、今回の対象では無かったのです」
キリウスが手を握って決意を新たにした。
これほどやる気のある顔をしたキリウスを見るのは初めてだとティナは思った。
「うん。それは良いな。もしも成功すれば他国からの侵略危惧も激減するだろう」
マリアンヌが小首をかしげた。
「なんですの?その不可侵条約機構というのは」
ティナが手を挙げて発言した。
「そういうことならキアヌ殿下にも同席していただいてはどうでしょう?」
「ああ、レディティナ。それは良いですね。彼ならまだ会議室にいるはずですから、すぐに呼んできましょう」
そういうとキリウスはドアの外で待機していた護衛騎士に指示を出した。
うっすらと目を開けてぐずりだしたアーレントをハーベストが抱き上げる。
きれいに整えられたハーベストの輝く金髪はアーレントによって、すぐにぐちゃぐちゃにされてしまった。
それでもハーベストは嬉しそうにしている。
父親の姿を見たマリアンヌが小さく言った。
「羨ましいですわ・・・」
そんなマリアンヌの呟きを聞き逃さなかったキリウスがソファに座るマリアンヌを後ろから抱きしめた。
「マリー・・・愛してる」
キリウスの言葉にティナは視線をそらして聞こえないふりをした。
「嘘や誤魔化しは陛下にも宰相様にも似合いませんわ!」
ハーベストとキリウスが口をあんぐりと開けている。
ティナはマリアンヌの高潔さに感動しながらも心の中で突っ込んだ。
(いやいや・・・嘘と誤魔化しはこいつらの専売特許だろ!)
キリウスがやっと言葉を発する。
「いや・・・マリアンヌ姫、仰る通り嘘や誤魔化しは良いことではありません。しかしこうでもしなくては貴女の命が・・・」
慌てるキリウスに上品な笑顔を浮かべながらマリアンヌが言う。
「お心遣いありがとう存じます。それでも私は反対ですわ。その場しのぎの悪手はきっと禍根を残します」
ハーベストが冷ややかな口調で返した。
「ではマリアンヌ姫はお父上にどう申し開きをなさるのですか?私はここに居るティナ以外と婚姻する意志は無い。貴女は帝国の皇后にならなければ死ねと言われている。しかも貴女は・・・」
ハーベストは口ごもった。
「ご存じだとは思っておりました。そうです、私は子を産めない体なのですわ、今のところは」
「今のところ?」
「ええ、医者は精神的な原因だと申しておりますの。ですから希望は捨てておりません」
キリウスがマリアンヌの手を握って言った。
「そうですね、希望を捨ててはいけません。ああ・・・ご苦労なさって来たのでしょうね」
「キリウス様・・・私は貴方様に出会うために生きてきたのだと確信しておりますわ」
「マリアンヌ姫・・・いえ、マリー。私の可愛い人・・・嘘でもあなたとハーベストを婚姻させようとした私を許してください」
「もちろん許しますわ。だってキリウス様は私を救うために断腸の思いだったのでしょう?」
キリウスは一瞬怯んだが、気を取り直して力強く頷いた。
「勿論です」
ハーベストとティナは心の中で叫んだ。
(嘘ばっかりっ!)
ハーベストがティナの顔を見てから口を開く。
「では、どうすればよいとお考えなのでしょう?」
手を握り合って二人の世界に浸っていたマリアンヌとキリウスが現実に戻った。
「私、このまま国には帰らず帝国においていただきたいのです。幼少から傍仕えをしていたリンダだけを残して、侍女も騎士も帰国させますわ」
「それは問題ありませんが、その後は?」
「キリウス様の妻となります!」
マリアンヌは徐に立ち上がって言い切った。
キリウスも立ち上がりマリアンヌを抱き寄せる。
「そうしましょう」
「おいおいおいおいおい」
ハーベストとティナが一緒に突っ込みを入れた。
マリアンヌはゆっくりと座りなおして正面に向いた。
「おそらく父も兄たちも私を許しません・・・私、なぜ許さないのかを考えてみましたの。父も兄たちも結局アルベッシュ帝国と強固なつながりが欲しいのですわ。この帝国を侵略したいなどという大それたことは考えておりません。それは断言できます。彼らの望みは帝国に侵略されず、もし他国が侵略してきたら援助して貰えるという信頼関係なのですから」
ハーベストとキリウスが同時に顎に手を当てた。
(おっ!さすが幼馴染の腹黒コンビ!気が合ってるじゃん)
ティナは笑いをかみ殺す。
「本当にそれだけなのでしたら・・・問題はありませんね。我が帝国はハーベスト陛下に代替わりされてから方針転換しましたから」
「そうです。私は今後一切、戦争をしない!たとえ相手が侵略してきたとしても、話し合いで解決するつもりです」
マリアンヌが涙ぐみながら小さく拍手をした。
「素晴らしいですわ!陛下のお考えがエイアール国に伝われば良いのですが・・・」
「それこそ私の出番ですね。丁度いま進めている不可侵条約機構にエイアール国も入れましょう。エイアール国は隣国を挟んだ遠い国ですから、今回の対象では無かったのです」
キリウスが手を握って決意を新たにした。
これほどやる気のある顔をしたキリウスを見るのは初めてだとティナは思った。
「うん。それは良いな。もしも成功すれば他国からの侵略危惧も激減するだろう」
マリアンヌが小首をかしげた。
「なんですの?その不可侵条約機構というのは」
ティナが手を挙げて発言した。
「そういうことならキアヌ殿下にも同席していただいてはどうでしょう?」
「ああ、レディティナ。それは良いですね。彼ならまだ会議室にいるはずですから、すぐに呼んできましょう」
そういうとキリウスはドアの外で待機していた護衛騎士に指示を出した。
うっすらと目を開けてぐずりだしたアーレントをハーベストが抱き上げる。
きれいに整えられたハーベストの輝く金髪はアーレントによって、すぐにぐちゃぐちゃにされてしまった。
それでもハーベストは嬉しそうにしている。
父親の姿を見たマリアンヌが小さく言った。
「羨ましいですわ・・・」
そんなマリアンヌの呟きを聞き逃さなかったキリウスがソファに座るマリアンヌを後ろから抱きしめた。
「マリー・・・愛してる」
キリウスの言葉にティナは視線をそらして聞こえないふりをした。
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