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二組の偽夫婦
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少し呆けた顔のままハーベストが小首をかしげている。
キリウスがニヤッと笑いながら説明を始めた。
「だから、お前はエイアール国の姫君を正妃に迎えるが、それは政略上のことで実際は白い結婚だ。というか彼女は俺の妻にするから絶対に手を出すな。そしてティナロア嬢は皇太子殿下の乳母として皇居に常住するが実質はお前の妻だ」
「いまいち・・・わからん」
キリウスは図を描いて説明し始めた。
「正妃である彼女の寝室とお前の寝室、そして俺の自室と皇太子殿下の部屋、これはすなわちティナロア嬢の部屋だな。これらをすべて秘密通路で繋ぐことで誰の目にも触れずに行き来できる様にするんだ。ティナロア嬢は皇太子の乳母だし、俺は宰相だからずっと皇居に住んでいても誰も問題視しない」
「お前・・・難しい顔をして机に座ってると思ったら、そんなことばかり考えていたのか?職務怠慢だな。しかし良い案だ」
「そうだろう?そしてもう一つ。もしもティナロア嬢が懐妊したら、正妃であるマリアンヌ姫に偽装妊娠してもらい正妃の子とする。正妃が懐妊したとなるとエイアール国にもメンツが立つ。その場合、ティナロア嬢の架空の夫が必要となるが、そこは俺がなる。そして生まれた子は死産だったとすれば誰にもバレないさ」
「良いプランだが・・・キリウス、お前絶対ティナに手を出すなよ」
「当たり前だ!それに夜会などでお前がエスコートするのは正妃であるマリアンヌ姫だが、皇太子の乳母が皇太子を抱いて、夫である俺がエスコートする。四人で行動すれば誰も疑うまい」
「彼女は納得するだろうか・・・」
「させるんだ。そのうちエイアール国王が崩御したら、お前も俺も離婚して本来のパートナーと再婚するという手もある。まあ相当非難はされるだろうが」
「お前・・・ずっと思ってはいたが、ようやく確信した。前世は悪魔だな」
「ネクロマンサーと呼ばれたお前に言われたくはない」
二人は悪い顔で笑いあった。
話の途中で起きてしまったアーレントをあやしながらティナが言った。
「エイアール国の姫君とお話しするとき、私とアーレントもいた方が良さそうですね?私はいつでも構いません。それと・・・ぜんぜん別のお話ですが、ひとつお願いがあるのです」
「なんでしょうか?」
キリウスが問いかけた。
「私の義母と義姉妹に・・・けじめをつけさせたいのです」
ハーベストがにんまりと笑った。
「それは絶対にやるべきでしょう。実はじりじりと追い詰めてはいるのです。レディティナを泣かせたあいつらを許すつもりは無いですからね」
「ハーベスト様・・・そこまで私のことを気にかけてくださっていたのですか?」
「当たり前です。というよりあなたのこと以外考えていない!」
キリウスが肩を竦めながら言った。
「お陰様でとても苦労させられました。しかしそこは私も同意です。スパっと切り捨てるようなやり方では生ぬるいでしょう?じわじわとね。それにあなたの母君も協力してくれています」
「お母様?」
「そうです。前皇帝の側妃リリアン妃ですよ。前皇帝崩御後、側妃の方々は皇居を出されましたが、ハーベストが無理を言って、今は離宮に住まわれております」
「まあ・・・お母様が・・・といっても私はお顔も存じ上げません。肖像画も捨てられて見たこともありませんでしたし」
「一目でわかるほどティナロア嬢とそっくりですよ。髪も目もあなたと同じで黒曜石のように美しい」
「お会いできますか?」
「勿論です。すぐに手配いたしましょう」
ふと思いついたようにハーベストが言った。
「それでティナはいつからここに住める?アーレントのこともあるから、なるべく早い方がよい」
キリウスが強い口調でたしなめた。
「もう一回全部説明した方がいいか?」
「いや・・・結構だ。でも!でも毎日会えますよね?」
ティナに向かってハーベストが懇願する様に手を差し伸べた。
「どうでしょう?まずはキリウス様のお手並み拝見というところですわね?宰相様?」
キリウスが立ち上がって最敬礼した。
「最善を尽くします」
それを見たアーレントが声を出して笑った。
「天使・・・」
ハーベストが蕩けそうな顔で呟いた。
キリウスがニヤッと笑いながら説明を始めた。
「だから、お前はエイアール国の姫君を正妃に迎えるが、それは政略上のことで実際は白い結婚だ。というか彼女は俺の妻にするから絶対に手を出すな。そしてティナロア嬢は皇太子殿下の乳母として皇居に常住するが実質はお前の妻だ」
「いまいち・・・わからん」
キリウスは図を描いて説明し始めた。
「正妃である彼女の寝室とお前の寝室、そして俺の自室と皇太子殿下の部屋、これはすなわちティナロア嬢の部屋だな。これらをすべて秘密通路で繋ぐことで誰の目にも触れずに行き来できる様にするんだ。ティナロア嬢は皇太子の乳母だし、俺は宰相だからずっと皇居に住んでいても誰も問題視しない」
「お前・・・難しい顔をして机に座ってると思ったら、そんなことばかり考えていたのか?職務怠慢だな。しかし良い案だ」
「そうだろう?そしてもう一つ。もしもティナロア嬢が懐妊したら、正妃であるマリアンヌ姫に偽装妊娠してもらい正妃の子とする。正妃が懐妊したとなるとエイアール国にもメンツが立つ。その場合、ティナロア嬢の架空の夫が必要となるが、そこは俺がなる。そして生まれた子は死産だったとすれば誰にもバレないさ」
「良いプランだが・・・キリウス、お前絶対ティナに手を出すなよ」
「当たり前だ!それに夜会などでお前がエスコートするのは正妃であるマリアンヌ姫だが、皇太子の乳母が皇太子を抱いて、夫である俺がエスコートする。四人で行動すれば誰も疑うまい」
「彼女は納得するだろうか・・・」
「させるんだ。そのうちエイアール国王が崩御したら、お前も俺も離婚して本来のパートナーと再婚するという手もある。まあ相当非難はされるだろうが」
「お前・・・ずっと思ってはいたが、ようやく確信した。前世は悪魔だな」
「ネクロマンサーと呼ばれたお前に言われたくはない」
二人は悪い顔で笑いあった。
話の途中で起きてしまったアーレントをあやしながらティナが言った。
「エイアール国の姫君とお話しするとき、私とアーレントもいた方が良さそうですね?私はいつでも構いません。それと・・・ぜんぜん別のお話ですが、ひとつお願いがあるのです」
「なんでしょうか?」
キリウスが問いかけた。
「私の義母と義姉妹に・・・けじめをつけさせたいのです」
ハーベストがにんまりと笑った。
「それは絶対にやるべきでしょう。実はじりじりと追い詰めてはいるのです。レディティナを泣かせたあいつらを許すつもりは無いですからね」
「ハーベスト様・・・そこまで私のことを気にかけてくださっていたのですか?」
「当たり前です。というよりあなたのこと以外考えていない!」
キリウスが肩を竦めながら言った。
「お陰様でとても苦労させられました。しかしそこは私も同意です。スパっと切り捨てるようなやり方では生ぬるいでしょう?じわじわとね。それにあなたの母君も協力してくれています」
「お母様?」
「そうです。前皇帝の側妃リリアン妃ですよ。前皇帝崩御後、側妃の方々は皇居を出されましたが、ハーベストが無理を言って、今は離宮に住まわれております」
「まあ・・・お母様が・・・といっても私はお顔も存じ上げません。肖像画も捨てられて見たこともありませんでしたし」
「一目でわかるほどティナロア嬢とそっくりですよ。髪も目もあなたと同じで黒曜石のように美しい」
「お会いできますか?」
「勿論です。すぐに手配いたしましょう」
ふと思いついたようにハーベストが言った。
「それでティナはいつからここに住める?アーレントのこともあるから、なるべく早い方がよい」
キリウスが強い口調でたしなめた。
「もう一回全部説明した方がいいか?」
「いや・・・結構だ。でも!でも毎日会えますよね?」
ティナに向かってハーベストが懇願する様に手を差し伸べた。
「どうでしょう?まずはキリウス様のお手並み拝見というところですわね?宰相様?」
キリウスが立ち上がって最敬礼した。
「最善を尽くします」
それを見たアーレントが声を出して笑った。
「天使・・・」
ハーベストが蕩けそうな顔で呟いた。
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