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大いなる誤解
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「やあ!お帰り、ティナ。今日も完売の早仕舞いかい?」
小ぶりな居間に似つかわしくないほど大きなソファーからゆっくりとキアヌ第二王子が立ち上がった。
「ただいま帰りました。なかなか順調な売れ行きです。殿下の方はどうですか?」
「ああ、私の方は相変わらずさ。今日も三時間ほど飲みたくもないお茶を飲んで、食べたくもないクッキーをいただいただけの一日だったよ」
キアヌがお道化た様に肩を竦めて見せた。
「どうして会えないのでしょうね?」
「簡単さ。順番が回ってこない。なかなか予定通り進まないみたいでね」
「スケジュールがめちゃくちゃなんでしょうか」
「う~ん、いつも相手をしてくれる皇帝の側近の話によると、かなり重たい内容の謁見が続いているようだね。皇帝自ら質問の嵐を浴びせるから時間が押すってこぼしてた」
「真剣に取り組んでるのは良いことでしょうけど?あまり人を待たせるのは失礼ですよね」
「帝国の皇帝に失礼だと言えるティナは凄いね。まあこちらは気長に待つさ。どうしても勝ち取らなきゃいけないことがあるからね」
「そうですね」
「それに私たちが送っている意見書の内容を軽々には扱えないと判断してもらってる証拠でもあるからね。こちらとしてはひたすら待つしか手は無いさ」
「でも・・・早い方がいいですよね」
「それは早いに越したことは無いけどね」
「ちょっと考えてみますね。私、奥の手を持っているので。それに最近は近衛騎士のお客様も増えているので、そろそろキリウス辺りの耳に届くと思うんですよね」
「宰相の?」
ティナはニコッと笑って小首をかしげて見せた。
似たような会話をほぼ一か月続けている。
余裕を装っているキアヌだが、内心では焦っていた。
とにかく皇帝が掴まらない。
何度も謁見申請をしているし、その都度時間をとってはもらえている。
しかし、会議が押しているとか急用が入ったとかで先延ばしにされているのだ。
初めのころは避けられているのかとも考えたが、日参するうちに本当に忙しいのだと理解し、ごり押しを止めた。
無理なキャンセルにも笑顔で応じてくれる隣国の第二王子に好感をもったのか、森林管理を担当する文官や、土木関係を束ねる部門長などが相手をしてくれるようになった。
これは思わぬ拾い物で、同行している実務担当のロバート伯爵やワンド伯爵はとても喜んでいた。
実務レベルでの話が進んでいると後工程がやりやすいのだ。
出来れば皇帝の認可さえ奪えばすぐにでも動ける程度にはしておきたい。
キアヌは持ち前の愛嬌と美貌で侍女たちを手なずけ、情報収集に勤しんでいる。
夕食の席でキアヌがティナに話しかけた。
「そう言えばね、今日とてもおいしいお茶を入れてくれた王宮の侍女が、どうして皇帝が正妃を娶らないのかを教えてくれたよ」
「へぇ~、ハーベスト様ってまだ正妃を娶っておられないのですか?こんな大きな帝国を治めておられるのに独身のままでは不便でしょうに」
「そうだね。一人ですべてを回すというのは・・・無理だね。私もそう言ったんだよ。そしたらね、皇帝には正妃にはできないけど、とても親密にしている方がいるそうだよ」
「まあそうでしょうね。でもどうして正妃に迎えられないのでしょう?身分が低いとか?」
「いやいや、それなら何とでもなるさ。でもどうしようもないこともある」
「どうしようもない?」
「ああ・・・そのお相手というのがキリウス宰相らしいんだ」
「ぷっ・・・・・・・・・ありえない」
「私もそういったんだけど、その侍女が言うには寝室に二人で入って朝まで籠ってることもしばしばらしい」
「す・・・すみません・・・マナー違反ですが・・・笑っていいですか?」
「え?ど・・・うぞ?」
ティナは握っていたナイフとフォークを静かに置くと、立ち上がって腹を抱えて笑い出した。
「ありえませんって!あの二人が?それってどっちが攻めでどっちが受けなのよ!ははははははは!どう考えてもどっちも攻めじゃん!笑いすぎて・・・うっ・・・吐きそう・・・」
「ティナ!こらっ!ここで吐くなよ!落ち着け!」
「だって!ははははははは・・・はぁはぁ・・・苦しい・・・」
ティナは遂に床に膝をついて笑い出した。
一緒に夕食をとっていたロバートもワンドも、もちろんキアヌもあまりの笑い様に顔を引き攣らせた。
「そんなにおかしい?」
「だって・・・だってぇぇぇぇぇ~~~~はぁ~苦しい。笑いすぎて息ができない・・・ハーベストが?・・・キリウスと?・・・ないないないないっっっ!」
ハーベストとキリウスが裸で抱き合いうっとりと見つめ合う姿を想像してしまったティナは、再び大爆笑して涙を流している。
「そ・・・そんなに・・・おかしかった?」
「だめよぉぉぉx!もう言わないで!お腹の皮がよじれちゃう!」
隣近所にまで響き渡りそうなティナの笑い声をBGMに、三人は静かに食事を再開した。
小ぶりな居間に似つかわしくないほど大きなソファーからゆっくりとキアヌ第二王子が立ち上がった。
「ただいま帰りました。なかなか順調な売れ行きです。殿下の方はどうですか?」
「ああ、私の方は相変わらずさ。今日も三時間ほど飲みたくもないお茶を飲んで、食べたくもないクッキーをいただいただけの一日だったよ」
キアヌがお道化た様に肩を竦めて見せた。
「どうして会えないのでしょうね?」
「簡単さ。順番が回ってこない。なかなか予定通り進まないみたいでね」
「スケジュールがめちゃくちゃなんでしょうか」
「う~ん、いつも相手をしてくれる皇帝の側近の話によると、かなり重たい内容の謁見が続いているようだね。皇帝自ら質問の嵐を浴びせるから時間が押すってこぼしてた」
「真剣に取り組んでるのは良いことでしょうけど?あまり人を待たせるのは失礼ですよね」
「帝国の皇帝に失礼だと言えるティナは凄いね。まあこちらは気長に待つさ。どうしても勝ち取らなきゃいけないことがあるからね」
「そうですね」
「それに私たちが送っている意見書の内容を軽々には扱えないと判断してもらってる証拠でもあるからね。こちらとしてはひたすら待つしか手は無いさ」
「でも・・・早い方がいいですよね」
「それは早いに越したことは無いけどね」
「ちょっと考えてみますね。私、奥の手を持っているので。それに最近は近衛騎士のお客様も増えているので、そろそろキリウス辺りの耳に届くと思うんですよね」
「宰相の?」
ティナはニコッと笑って小首をかしげて見せた。
似たような会話をほぼ一か月続けている。
余裕を装っているキアヌだが、内心では焦っていた。
とにかく皇帝が掴まらない。
何度も謁見申請をしているし、その都度時間をとってはもらえている。
しかし、会議が押しているとか急用が入ったとかで先延ばしにされているのだ。
初めのころは避けられているのかとも考えたが、日参するうちに本当に忙しいのだと理解し、ごり押しを止めた。
無理なキャンセルにも笑顔で応じてくれる隣国の第二王子に好感をもったのか、森林管理を担当する文官や、土木関係を束ねる部門長などが相手をしてくれるようになった。
これは思わぬ拾い物で、同行している実務担当のロバート伯爵やワンド伯爵はとても喜んでいた。
実務レベルでの話が進んでいると後工程がやりやすいのだ。
出来れば皇帝の認可さえ奪えばすぐにでも動ける程度にはしておきたい。
キアヌは持ち前の愛嬌と美貌で侍女たちを手なずけ、情報収集に勤しんでいる。
夕食の席でキアヌがティナに話しかけた。
「そう言えばね、今日とてもおいしいお茶を入れてくれた王宮の侍女が、どうして皇帝が正妃を娶らないのかを教えてくれたよ」
「へぇ~、ハーベスト様ってまだ正妃を娶っておられないのですか?こんな大きな帝国を治めておられるのに独身のままでは不便でしょうに」
「そうだね。一人ですべてを回すというのは・・・無理だね。私もそう言ったんだよ。そしたらね、皇帝には正妃にはできないけど、とても親密にしている方がいるそうだよ」
「まあそうでしょうね。でもどうして正妃に迎えられないのでしょう?身分が低いとか?」
「いやいや、それなら何とでもなるさ。でもどうしようもないこともある」
「どうしようもない?」
「ああ・・・そのお相手というのがキリウス宰相らしいんだ」
「ぷっ・・・・・・・・・ありえない」
「私もそういったんだけど、その侍女が言うには寝室に二人で入って朝まで籠ってることもしばしばらしい」
「す・・・すみません・・・マナー違反ですが・・・笑っていいですか?」
「え?ど・・・うぞ?」
ティナは握っていたナイフとフォークを静かに置くと、立ち上がって腹を抱えて笑い出した。
「ありえませんって!あの二人が?それってどっちが攻めでどっちが受けなのよ!ははははははは!どう考えてもどっちも攻めじゃん!笑いすぎて・・・うっ・・・吐きそう・・・」
「ティナ!こらっ!ここで吐くなよ!落ち着け!」
「だって!ははははははは・・・はぁはぁ・・・苦しい・・・」
ティナは遂に床に膝をついて笑い出した。
一緒に夕食をとっていたロバートもワンドも、もちろんキアヌもあまりの笑い様に顔を引き攣らせた。
「そんなにおかしい?」
「だって・・・だってぇぇぇぇぇ~~~~はぁ~苦しい。笑いすぎて息ができない・・・ハーベストが?・・・キリウスと?・・・ないないないないっっっ!」
ハーベストとキリウスが裸で抱き合いうっとりと見つめ合う姿を想像してしまったティナは、再び大爆笑して涙を流している。
「そ・・・そんなに・・・おかしかった?」
「だめよぉぉぉx!もう言わないで!お腹の皮がよじれちゃう!」
隣近所にまで響き渡りそうなティナの笑い声をBGMに、三人は静かに食事を再開した。
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