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ステーキの力
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町で一番大きな宿屋を借り切った一行は食堂に集まり状況を整理した。
「犯人たちは吐いたか?」
ロバート伯爵が頷いて応える。
「ちょっと脅したら簡単にしゃべりましたよ。どうも実行犯は金で雇われた流れ者のようです」
「雇った奴は?」
「奴らも慣れているのでしょう。依頼者の後をつけて屋敷の場所は把握していました。おそらく後で強請るつもりだったと思われます。」
「なるほど。では黒幕は分かっているんだな?」
「確認に行かせていますのですぐにわかるでしょう」
キアヌは頷いて今度はハロッズ侯爵に向き直った。
「黒幕を捕縛しないと真相は不明だが・・・侯爵はどう考える?」
まだ顔色が優れない侯爵が口を開いた。
「聖女の行幸を要求したのはシルバー辺境伯でした。しかし彼は長年の友であり戦火を共にくぐり抜けた戦友です。彼が犯人とは思えない・・・」
ハロッズ侯爵はそこまで言うと俯いて唇を噛みしめた。
キアヌ殿下は努めて明るい声を出した。
「友なら率直に聞けばよい。聖女様は何かご存じなかったのか?」
ティナが返事をする。
「サーリ聖女様は相当な神力をお使いになったご様子で、今は眠っておられます。フェルナンド神官様はお部屋で安静にしておられますが、傷が深く芳しくありません」
キアヌ殿下が顔をしかめた。
「聖女様なら癒せるのだろうか・・・」
ティナが慌てて顔の前で手を振った。
「何度も言いますが、私は神の声が聞こえるというだけで何の力も無いのです・・・残念ですが私ではフェルナンド神官様の傷を治すことができません」
突然神の声が頭の中に響いた。
『なんなら俺が治そうか?』
ティナが素っ頓狂な声を出した。
「えっ?アルが治せるの?じゃあやってあげてよ~痛そうなんだもん」
キアヌ殿下とハロッズ侯爵が口を開けてティナの顔を見た。
(しまった!)
「あ・・・えっと・・・これはですね・・・」
『ほら!ティナ、行くぞ』
そんな状況などお構いなしに神がティナを促した。
「あの・・・私はできないのですが神が・・・えっと・・・神がお力を貸してくださるそうですので・・・ちょっと行ってきますね?」
部屋の誰も返事をしない中、ティナはそそくさと部屋を出た。
『ティナ、飯は食ったか?』
『先にお風呂に入ったからまだだよ?』
『そうか・・・まあお前は体力ある方だから大丈夫かな・・・特別な力を持たないお前を媒体として神の力を流すとなると、相当な負担がかかるんだ』
『え?そうなの?』
『おそらく疲労困憊で何ものどを通らない位にはなる。お前・・・飯抜きって耐えられる?』
『今更戻ってご飯くださいとは言いにくいわ・・・それに最近ちょっと太ったからダイエットになるかも?』
『それなら・・・良し!行くか!』
『・・・うん・・・頑張る』
ティナはフェルナンドが寝かされている部屋に入った。
『ティナ、奴の横に立って傷がある顔と腹に掌を向けろ』
『こうかな?』
『おお~それっぽいじゃないか。じゃあ行くぞ?三つ数える位の時間だ』
ティナがもたもたしている間にキアヌ殿下とハロッズ侯爵、ロバート伯爵が部屋に入ってきた。
「あれ?どうされました?」
「ああ、神の力を見学させていただきたくてな・・・良いだろうか」
キアヌ殿下が代表して返事をした。
「良いんじゃないですか?ほんの少しの時間らしいですよ?あっ・・・ひとつお願いが・・・」
「なんだ?何でも言ってくれ」
「これが終わったら・・・すぐにご飯にしてください」
「・・・・・・了解した」
ティナは気を取り直してフェルナンド神官に向かって神の指示通り掌を翳した。
ティナの体にびりびりとした痛みが駆け巡った。
まるで静電気発生装置に手を当てる罰ゲームを受けた時と同じような感覚だった。
(三秒って・・・長いわ)
ティナはフッと意識を失いそうになった。
『おい!ティナ!ステーキ焼けたぞ!』
神力を流し終えたアルフレッドの声が頭の中に響く。
ティナは目を見開いて踏ん張った。
「犯人たちは吐いたか?」
ロバート伯爵が頷いて応える。
「ちょっと脅したら簡単にしゃべりましたよ。どうも実行犯は金で雇われた流れ者のようです」
「雇った奴は?」
「奴らも慣れているのでしょう。依頼者の後をつけて屋敷の場所は把握していました。おそらく後で強請るつもりだったと思われます。」
「なるほど。では黒幕は分かっているんだな?」
「確認に行かせていますのですぐにわかるでしょう」
キアヌは頷いて今度はハロッズ侯爵に向き直った。
「黒幕を捕縛しないと真相は不明だが・・・侯爵はどう考える?」
まだ顔色が優れない侯爵が口を開いた。
「聖女の行幸を要求したのはシルバー辺境伯でした。しかし彼は長年の友であり戦火を共にくぐり抜けた戦友です。彼が犯人とは思えない・・・」
ハロッズ侯爵はそこまで言うと俯いて唇を噛みしめた。
キアヌ殿下は努めて明るい声を出した。
「友なら率直に聞けばよい。聖女様は何かご存じなかったのか?」
ティナが返事をする。
「サーリ聖女様は相当な神力をお使いになったご様子で、今は眠っておられます。フェルナンド神官様はお部屋で安静にしておられますが、傷が深く芳しくありません」
キアヌ殿下が顔をしかめた。
「聖女様なら癒せるのだろうか・・・」
ティナが慌てて顔の前で手を振った。
「何度も言いますが、私は神の声が聞こえるというだけで何の力も無いのです・・・残念ですが私ではフェルナンド神官様の傷を治すことができません」
突然神の声が頭の中に響いた。
『なんなら俺が治そうか?』
ティナが素っ頓狂な声を出した。
「えっ?アルが治せるの?じゃあやってあげてよ~痛そうなんだもん」
キアヌ殿下とハロッズ侯爵が口を開けてティナの顔を見た。
(しまった!)
「あ・・・えっと・・・これはですね・・・」
『ほら!ティナ、行くぞ』
そんな状況などお構いなしに神がティナを促した。
「あの・・・私はできないのですが神が・・・えっと・・・神がお力を貸してくださるそうですので・・・ちょっと行ってきますね?」
部屋の誰も返事をしない中、ティナはそそくさと部屋を出た。
『ティナ、飯は食ったか?』
『先にお風呂に入ったからまだだよ?』
『そうか・・・まあお前は体力ある方だから大丈夫かな・・・特別な力を持たないお前を媒体として神の力を流すとなると、相当な負担がかかるんだ』
『え?そうなの?』
『おそらく疲労困憊で何ものどを通らない位にはなる。お前・・・飯抜きって耐えられる?』
『今更戻ってご飯くださいとは言いにくいわ・・・それに最近ちょっと太ったからダイエットになるかも?』
『それなら・・・良し!行くか!』
『・・・うん・・・頑張る』
ティナはフェルナンドが寝かされている部屋に入った。
『ティナ、奴の横に立って傷がある顔と腹に掌を向けろ』
『こうかな?』
『おお~それっぽいじゃないか。じゃあ行くぞ?三つ数える位の時間だ』
ティナがもたもたしている間にキアヌ殿下とハロッズ侯爵、ロバート伯爵が部屋に入ってきた。
「あれ?どうされました?」
「ああ、神の力を見学させていただきたくてな・・・良いだろうか」
キアヌ殿下が代表して返事をした。
「良いんじゃないですか?ほんの少しの時間らしいですよ?あっ・・・ひとつお願いが・・・」
「なんだ?何でも言ってくれ」
「これが終わったら・・・すぐにご飯にしてください」
「・・・・・・了解した」
ティナは気を取り直してフェルナンド神官に向かって神の指示通り掌を翳した。
ティナの体にびりびりとした痛みが駆け巡った。
まるで静電気発生装置に手を当てる罰ゲームを受けた時と同じような感覚だった。
(三秒って・・・長いわ)
ティナはフッと意識を失いそうになった。
『おい!ティナ!ステーキ焼けたぞ!』
神力を流し終えたアルフレッドの声が頭の中に響く。
ティナは目を見開いて踏ん張った。
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