115 / 184
王子様の破壊力
しおりを挟む
キアヌ殿下の号令で集まったワイン醸造を手掛ける貴族たちは競って職人を派遣した。
今までのノウハウによって次々と画期的な意見が出されていく。
「これなら安心して任せられそうですね」
その様子を見ていたティナがキアヌ殿下に言った。
「後は地下倉庫の確保だが、それは城の地下室を提供するよ。牢獄として使っていた場所だから外光は完全に遮断されているし、石造りだから温度変化も少ない。最適だろう?」
「ははは・・・悪霊とかいませんよね」
「ああ、どうかな?私は見たことがないが」
(本当に地下の牢屋ってあるのね・・・)
ティナは苦笑いしながらキアヌ殿下に礼を言った。
ワイン職人たちの説明を聞いていたティナのところに指物師たちを統括している事務官がやってきた。
「聖女ティナロア様、ご指示のものの試作品ができました」
ティナの顔がパッと明るくなる。
「ああ、できましたか。すぐに行きます。殿下もご一緒しませんか?」
「何が出来たのかな?」
「ペダル式のトラクターです。けん引する部品を交換すれば耕うんから収穫まで可能になるはずです」
「トラクター?????私の勉強不足で理解ができないようだ・・・聖女ティナロア、無知な私にも分かるように説明してくれる?」
「殿下が無知などと・・・申し訳ございません。これもすべて神のお言葉を伝えただけですので、どうかお気を悪くなさらないでください」
「もちろん気を悪くすることなどないよ。では早速その試作品とやらを見学に行こうか。聖女様、エスコートさせていただけますか?」
「あ・・・はい、光栄です。殿下」
おずおずと差し出したティナの手を自分の腕にサッと回してキアヌは歩き出した。
(さすが本物の王子様!凄い破壊力だわ・・・)
試作されたトラクターはティナの予想をはるかに上回るものだった。
(凄いわねこの時代の職人って。ギアが何段階にもつながってるから効率がいいわ)
「素晴らしいです。座席が四つあるということは四人で漕ぐのですか?」
職人が嬉しそうに答える。
「はい、一人乗りから最大六人まで漕ぎ手が乗れるようにバリエーションを用意しました。広い場所なら後ろにつなぐ部品も幅広いほうが効率的でしょうから」
キアヌが質問した。
「後ろにつなぐ部品とは?」
「はい、広い農地を効率的に耕すための部品です。分かりやすく申しますと何本もの鋤や鍬が連なっているような構造です」
「う~ん・・・実際見てみないとイメージが難しいな。試運転はいつ?」
「裏の試験農場であれば今すぐにでも可能です」
三人は職人たちが集う製作所の裏手にある試験農場に向かった。
漕ぎ手がすでに集まっている。
協力してくれるのは手が不自由で職を失った元路上生活者たちだ。
六人が座ると、背中が背もたれに固定されるようシートベルトがかけられた。
リーダーの号令で一斉に息を合わせて漕ぎ始める。
草に覆われ固く締まっていた土地がみるみる耕されていく。
勢いが強すぎるのか跳ね飛ばされた泥が、後ろで見ていたティナとキアヌに盛大に掛かってしまった。
管理者が慌てて二人に駆け寄る。しかし二人は泥まみれになりながら楽しそうに声を上げて笑っていた。
「凄い!すごいな!これならあっという間に耕せる!画期的だ」
「本当にすごいですね。それにしても殿下・・・泥まみれですよ?」
「えっ?ああ、こんなもの何でもないよ。私より聖女様こそ泥だらけだ」
「ほんとですか?あらあら・・・またシスターに怒られてしまいます」
「「はははははは」」
二人はお互いの顔を指さして笑った。
青い顔をして固まっていた管理者がホッと肩の力を抜く。
トラクターは盛大に泥を跳ね上げながらすで農場の端まで耕していた。
「この泥跳ねは改良の余地がありそうですね。しかし農耕馬や牛を使うより早いし、何より障害を持つ彼らも仕事ができるということが嬉しいです」
ティナがそういうとキアヌも大きく頷いて同意した。
おもむろにキアヌがティナの手を取り跪く。
それに倣って周りにいた作業員も製作担当者たちもティナを囲んで跪いた。
「聖女ティナロア様、心からの感謝と尊敬を捧げます」
キアヌがティナの手にそっと唇を寄せた。
ティナの顔が真っ赤に染まるのを見て神がぼそっと呟いた。
『う~ん・・・キアヌ・・・侮れん』
人力トラクターは「ゴッドハンド」と名付けられ、各大規模農場に配置された。
漕ぎ手は王都から故郷に戻った若手が担当し、それでも人員が足りないところには人手が派遣される手筈も整った。
地図に赤く記入されていた「休眠農地」が消されていく。
農民たちの発案でペダル式の散水システムも開発され、麦秋のころには黄金色に輝く農地が国のあちこちで見られた。
ワンド伯爵の発案により、領地ごとに収穫高の一元管理と平等な分配が実施されるよう管理監督を行う国の組織が立ち上がった。
初代大臣はもちろんワンド伯爵だ。
同時進行で飢饉に備えた備蓄計画も順調に進んでいった。
今までのノウハウによって次々と画期的な意見が出されていく。
「これなら安心して任せられそうですね」
その様子を見ていたティナがキアヌ殿下に言った。
「後は地下倉庫の確保だが、それは城の地下室を提供するよ。牢獄として使っていた場所だから外光は完全に遮断されているし、石造りだから温度変化も少ない。最適だろう?」
「ははは・・・悪霊とかいませんよね」
「ああ、どうかな?私は見たことがないが」
(本当に地下の牢屋ってあるのね・・・)
ティナは苦笑いしながらキアヌ殿下に礼を言った。
ワイン職人たちの説明を聞いていたティナのところに指物師たちを統括している事務官がやってきた。
「聖女ティナロア様、ご指示のものの試作品ができました」
ティナの顔がパッと明るくなる。
「ああ、できましたか。すぐに行きます。殿下もご一緒しませんか?」
「何が出来たのかな?」
「ペダル式のトラクターです。けん引する部品を交換すれば耕うんから収穫まで可能になるはずです」
「トラクター?????私の勉強不足で理解ができないようだ・・・聖女ティナロア、無知な私にも分かるように説明してくれる?」
「殿下が無知などと・・・申し訳ございません。これもすべて神のお言葉を伝えただけですので、どうかお気を悪くなさらないでください」
「もちろん気を悪くすることなどないよ。では早速その試作品とやらを見学に行こうか。聖女様、エスコートさせていただけますか?」
「あ・・・はい、光栄です。殿下」
おずおずと差し出したティナの手を自分の腕にサッと回してキアヌは歩き出した。
(さすが本物の王子様!凄い破壊力だわ・・・)
試作されたトラクターはティナの予想をはるかに上回るものだった。
(凄いわねこの時代の職人って。ギアが何段階にもつながってるから効率がいいわ)
「素晴らしいです。座席が四つあるということは四人で漕ぐのですか?」
職人が嬉しそうに答える。
「はい、一人乗りから最大六人まで漕ぎ手が乗れるようにバリエーションを用意しました。広い場所なら後ろにつなぐ部品も幅広いほうが効率的でしょうから」
キアヌが質問した。
「後ろにつなぐ部品とは?」
「はい、広い農地を効率的に耕すための部品です。分かりやすく申しますと何本もの鋤や鍬が連なっているような構造です」
「う~ん・・・実際見てみないとイメージが難しいな。試運転はいつ?」
「裏の試験農場であれば今すぐにでも可能です」
三人は職人たちが集う製作所の裏手にある試験農場に向かった。
漕ぎ手がすでに集まっている。
協力してくれるのは手が不自由で職を失った元路上生活者たちだ。
六人が座ると、背中が背もたれに固定されるようシートベルトがかけられた。
リーダーの号令で一斉に息を合わせて漕ぎ始める。
草に覆われ固く締まっていた土地がみるみる耕されていく。
勢いが強すぎるのか跳ね飛ばされた泥が、後ろで見ていたティナとキアヌに盛大に掛かってしまった。
管理者が慌てて二人に駆け寄る。しかし二人は泥まみれになりながら楽しそうに声を上げて笑っていた。
「凄い!すごいな!これならあっという間に耕せる!画期的だ」
「本当にすごいですね。それにしても殿下・・・泥まみれですよ?」
「えっ?ああ、こんなもの何でもないよ。私より聖女様こそ泥だらけだ」
「ほんとですか?あらあら・・・またシスターに怒られてしまいます」
「「はははははは」」
二人はお互いの顔を指さして笑った。
青い顔をして固まっていた管理者がホッと肩の力を抜く。
トラクターは盛大に泥を跳ね上げながらすで農場の端まで耕していた。
「この泥跳ねは改良の余地がありそうですね。しかし農耕馬や牛を使うより早いし、何より障害を持つ彼らも仕事ができるということが嬉しいです」
ティナがそういうとキアヌも大きく頷いて同意した。
おもむろにキアヌがティナの手を取り跪く。
それに倣って周りにいた作業員も製作担当者たちもティナを囲んで跪いた。
「聖女ティナロア様、心からの感謝と尊敬を捧げます」
キアヌがティナの手にそっと唇を寄せた。
ティナの顔が真っ赤に染まるのを見て神がぼそっと呟いた。
『う~ん・・・キアヌ・・・侮れん』
人力トラクターは「ゴッドハンド」と名付けられ、各大規模農場に配置された。
漕ぎ手は王都から故郷に戻った若手が担当し、それでも人員が足りないところには人手が派遣される手筈も整った。
地図に赤く記入されていた「休眠農地」が消されていく。
農民たちの発案でペダル式の散水システムも開発され、麦秋のころには黄金色に輝く農地が国のあちこちで見られた。
ワンド伯爵の発案により、領地ごとに収穫高の一元管理と平等な分配が実施されるよう管理監督を行う国の組織が立ち上がった。
初代大臣はもちろんワンド伯爵だ。
同時進行で飢饉に備えた備蓄計画も順調に進んでいった。
12
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる