【完結】歴史が変わりますが神の願いなのでどうぞご了承ください

志波 連

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聖女は見ていた

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久しく姿を見せなかった第一王子と聖女ナサーリアの行幸は大成功だった。
聖人たちが率先して動き、神の威光を示したのも大きい。
各地で予定されていた領主によるパーティーは全て中止され、用意されていた食材を持って王子たちは農地や病院、孤児院を廻った。
近衛師団長率いる精鋭たちが安全を確保した一団の存在感と、貴族たちの寄付金による車いす寄贈で民心は一気に高まった。

「なんだか順調過ぎて怖いわ」

アーレントを抱き上げながらティナがふっと呟いた。
ティナの横には神が寄り添っている。
アーレントは神に向かって手を伸ばしていた。

『なあ、ティナ。アーレントは俺が見えるようだな』

『そうかもね・・・そういえばなんでアルはこっちの世界で姿を現さないの?』

『ああ、こっちの世界の人間たちは信心深いからな。気づかれる可能性が高いんだ。もしかしたら神だと気づく奴もいるかもしれない。っていうか、あっちの世界の人間たちは信心が薄すぎるんだ!』

『なるほど・・・じゃあオルフェウス大神官とかフェルナンド神官は今も見えているのかしら』

『いやぁ~あのレベルじゃ姿までは無理だろう。大司教あたりはヤバいかもな』

『大司教って?』

『ああ、この国にはいないよ。神官だけで成り立っている国があるんだ。そこのトップだよ』

『へぇ~・・・私が知っているバチカンの教皇みたいな立ち位置かしら』

『そうそう、立場的にはそれ』

『なるほどね。それで私にしか見えないんだ』

『ナサーリアには見えてるぞ?』

『えっ!じゃあアルが私の肩に手をかけてるのとか、抱き寄せてるのとか見てるの?』

『ああ、ニコニコして見てる』

『それってどうなのよ』

『いいんじゃね?』

『はぁぁ・・・』

ティナが盛大なため息をついたとき、ノックの音がして扉が開いた。

「ただいま戻りました」

ナサーリアがハロッズ侯爵と一緒に入ってくる。
ティナは恥ずかしさでナサーリアの顔をまともに見れなかった。
そんなティナを見てナサーリアは小首をかしげている。

「お・・・お疲れさまでしたサーリ様。ハロッズ侯爵様もご心配だったでしょう」

ハロッズ侯爵が黙ったまま肩を竦めて見せた。

「サーリはとても楽しかったです。ユリア殿下ともたくさんお話ができました。今日も殿下がご褒美をくださいました」

「まあ、それは良かったですね。何を下さったのですか?」

「これです」

ナサーリアはキラキラした笑顔で袋を差し出した。
袋の中を見たティナは驚いた。

「これは・・・乾パン?」

今度はナサーリアが驚いた。

「まあ!ティナ様はご存じだったのですね。そうです!パンを固く乾燥させたものです。スープで煮るとやわらかくなりますし、そのままでも食せる保存食だそうです。ずっと前に東の国の王族から贈られたものだそうで、きっと役に立つからと下さいました」

「原材料としてでなく加工品として保存するという考えは画期的ですね・・・それならパスタなんかもいいかも」

「パスタって・・・保存できるのですか?」

「ああ・・・乾パンと同じ考え方です。えっと・・・神が・・・以前独り言のように?」

「そうですか。パスタって乾燥できるのですか・・・それなら可能ですね」

ニコニコと笑うナサーリア。
ティナは冷や汗をかいている。

(そうよね・・・この世界はパスタっていえば生麵だものね・・・はぁ~危ない)

「そうです。乾燥できるんです・・・って神が言ってました。早速挑戦してみましょう。乾パンも一緒に試作しましょうね」

ティナは慌ててパン職人の手配に行った。
試行錯誤の結果、約ひと月ほどで乾パンと乾燥パスタは成功し、現在保有している小麦を使って保存食の備蓄を実行していった。

「これで概ね当初の予定分の保存食の確保はできましたね。後は収穫分がどのくらい上乗せできるかです」

ワンド伯爵が嬉しそうに言う。

「そうですね。しかし飲み水の確保を視野に入れるべきだと思いませんか?」

ティナが言うと会議のメンバーは一様に疑問を呈した。

「水を保存するなど・・・可能でしょうか」

「一度煮沸して真空状態にする事ができれば可能だと思いますが・・・例えばワインなどは長期保存が可能ですよね?そのノウハウを活かせないでしょうか」

「なるほど・・・確かにワインは何年も寝かせますね・・・調査する価値はありますね」

すると黙って聞いていたキアヌが発言した。

「それは私の方で調べてみよう。少し心当たりがあるから」

水の件はキアヌ殿下に一任となり、その日の会議は散会した。
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