上 下
106 / 184

ジェラシー

しおりを挟む
静かな室内ではページをめくる音だけがしていた。

「アルベッシュ帝国が希少鉱物目当てに攻めてくるのよね・・・ハーベストの国かぁ」

「現状はどうなってるんだ?」

二人は再び頭を突き合わせて本を開いた。

「あれ?戦争って・・・載ってない。どういうこと?」

「調べてみる必要があるな」

「そうね・・・でもまあ回避できたのならもう良いんじゃない?」

「番のことか?確かに当初は戦争で死ぬ運命だったからなぁ・・・でも不安だ。絶対に死なせるわけにはいかない。必ず俺のもとに来てくれないと・・・」

「番の意味を知らなかったら・・・複雑な心境になってたかもしれない発言ね」

「ジェラシー?・・・ティナ、もう一度キスしていいか?」

少し頬を赤らめながら嬉しそうに顔を近づけようとする神を無視してティナは続けた。

「帰ったらアルベッシュ帝国の内情を調べるとして・・・三年後には大雨による飢饉が発生するみたいね。まあよくも次から次に・・・」

「地域はどこだ?」

「東側の地域ね。あら、アルベッシュ帝国に隣接してる地域だわ」

「なるほど・・・ハーベストに会う必要があるな」

「でも会っちゃうとアーレントが取り上げられちゃうわ」

「俺はいつでも会えるから問題ないが・・・」

「私は会えないもん」

「何ならアーレントと一緒にハーベストの王宮に住むとか?」

「えっ!でもそうなると・・・あなたは平気なの?私がハーベストと・・・」

「うん、少しはチクッとするが天界に来る前は前世だと言っただろ?それにアーレントとずっと一緒に居たいなら、あの世界の人間として一生を終える必要がある」

「ああ・・・そうね。こちらには連れては来れないのよね・・・でもそうなると聖人扱いされて教会で一生清く正しく生きるのかぁ。帝国の王子様になった方が楽しい人生かしら」

「そうかもしれないな。我が子同然に可愛がってきたアーレントが童貞のまま修行に明け暮れるのは不憫でならない」

「引っかかるの、そこ?」

「他にあるか?」

「神世界の性事情って・・・」

「ああ、伴侶がいない神はかなり奔放だな。人間と違って妊娠の心配も無いしそもそも浮気という概念が無いから、気が合えば手当たり次第にやりたい放題だ。でも伴侶がいる場合は絶対に手は出さない。そこが人間との違いだな」

「不倫は無いのね・・・じゃあアルも私が天界に行くまではそういう生活をおくるの?」

「いや、俺は伴侶を見つけたからしない・・・はず?」

「はず!」

「うん、しない・・・多分?」

「多分!」

「まあそこはさぁ~・・・お互い結婚する前の事だし?前世だし?」

「なるほど・・・」

「お前だって同じような生活送ってただろ?」

「アル・・・話を変えましょう」

「ああ、そうだな・・・」

少し気まずい雰囲気が流れ、二人は真顔で歴史書に目を移した。

静かな図書館にはシュッというページをめくる音だけがする。
ティナは密着して座るアルフレッドの方に顔を向けて小声で言った。

「ハーベストのことは一旦後回しにして、飢饉に備える方がいいと思うの」

「うん。現時点で戦争が回避できているからなぁ。しかし奴の国と接している地域の災害と飢饉問題は単独では解決できないのではないか?」

「そうね・・・実際に災害が発生するのはベルツ王国だとしても、アルベッシュ帝国も何らかの被害はあるでしょうし、被災者が流出する事も考慮すべきね」

「災害が発生する現地を確認して対策を立てないといけないな。それと同時に飢饉に備えて被災しない地域の農作物の生産性を上げることだな」

「ここは神様に活躍していただきましょうか」

「俺?まあ愛する伴侶と大切な番のバックアップならいくらでもするぞ?その代わりナサーリアは絶対に守ってくれよ」

「もちろんよ。そこは絶対だわ」

「さあ、お前の作戦を教えてくれ」

「その前に・・・お腹空いた」

「またあの手がベチャベチャするのが食べたいのか?」

「いいえ、今日はジャパニーズレストランに行きましょう!」

二人は資料の必要部分をコピーして図書館を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...