104 / 184
生まれ変わる教会
しおりを挟む
説法会の数日後、国王の呼び出しに応じてオルフェウスとフェルナンドが王宮に向かった。
ティナも同行を求められたが、アーレントの授乳を言い訳に断った。
その日も三人の聖人が同行し、王族にマスクと消毒液を配った。
その間もマスクと消毒液の製作は進められ、国民一人に最低で二枚のマスクがいきわたった。
誰が言い始めたのか、配られたマスクは「カミノマスク」と呼ばれている。
貴族たちによる多大な寄付によりマスク縫製から販売までの一貫した事業化と、国王による大々的な推進によりベルツ王国におけるマスク使用率は実に90%を上回った。
消毒液の常用も浸透し、うがいと手洗いの習慣も違和感なく日常に組み込まれていった。
それでも罹患するものは出てしまう。
しかし、例年に比べ死亡者数が格段に減少するという現実がティナたちの作戦の成功を物語っていた。
「さあ、次は薬を作りましょう!」
ティナは精力的に動いた。
王宮の医者たちを集め、ティナの持ってきたレポートにより製薬が進められる。
はじめは高価な薬しか作れなかったが、研究が進むにつれ安価なものもできるようになると、市井にも広まっていった。
ティナは寝る間も惜しんで広報活動に勤しんだ。
ナサーリアもティナと行動を共にし、病人のために聖女の力を使った。
そして二人の傍には常に神が寄り添っていた。
『そろそろ一度帰ろうかしら』
ティナが神に肩を抱かれながらぼそっと言う。
『もう第一段階は大丈夫だろう。軌道に乗ったんじゃないか?あっちの様子も気になるし・・・行ってみるか?』
『アーレントは心配だけど・・・連れてはいけないものね』
『それはできない相談だ。生命体は時空の門を通過できないからな。アーレントも歩き始めたし、やわらかいものなら普通に食べるだろ?』
『そうね、離乳も上手く進んでるし、シスターたちに任せても大丈夫かな』
『じゃあ一週間くらい旅行しようか』
『一週間ってことは・・・こっちでは二日位かな?それなら大丈夫ね』
『楽しみだな。あの教会どうなったかな。思い立ったが吉日だ、すぐに行こう』
『宝石を持って行かなくちゃ。建設費払わなきゃだしね』
『ああ、あれほどこき使ってるんだものな・・・本当にケヴィンを選んだ俺は偉い!』
『ほんとね~じゃあちょっくら過労で倒れてくるわ』
『ああ、上で待ってるから』
神が軽いノリで人差し指で天井を指した。
ティナは鞄から大きめのエメラルドのブローチを取り出しポケットに忍ばせた。
アーレントを抱きしめてキスをした後、オルフェウスの執務室に向かう。
執務室にはオルフェウスと二人の神官がいた。
相談があると言ってからふらついた演技をする。
そしてティナは神官たちの前で盛大に頭から床に突っ込んだ。
それはもう清々しいほど潔く。
『ああ、素早いな。コケ慣れたって感じ?』
『まあね、一瞬痛いのよね・・・』
『帰るまでに引いてるといいな・・・たんこぶ』
『傷になったら嫌だわ・・・もうちょっと効率的な方法ないかしら』
『考えてみよう・・・さあ、行くぞ』
ティナと神は手をつないで時空の門を超えた。
自宅に戻ったティナは素早く着替えてアルフレッドと出かけた。
今回も教会の前でゼロアと子供たちに見送られ、手を振り返す。
「ねえ、ゼロアに言った方が良いと思う?」
「俺なら・・・言わない」
「なぜ?」
「別に血縁関係があるから親しくしなくてはいけないというわけでもないだろう」
「そりゃそうだけど・・・ジュリアは会いたがっていたわ」
「ジュリアの兄弟はゼロアだけではないだろう?」
「ああ・・・そうね。私も家族なのね」
「そうだ。そして神の義弟だ!」
「ジュリアを挟むとゼロアと私も家族?なんかヤヤコシイわねぇ」
上機嫌で車を操るアルフレッドと苦笑いでその横顔を見るティナ。
途中でファーストフード店で子供たちにたっぷりのお土産を準備した。
建設中の教会に到着すると、子供たちとジュリアが駆け寄って来る。
「姉さん!そして義兄さんも。来てくださったのですね」
「ジュリア、元気そうでよかったわ。顔色もよくなって・・・安心した」
「全て姉さんと義兄さんのお陰ですよ。子供たちも粗末な食事ではありますが欠食させてしまうことも無くなりました」
「それはよかったわ」
「それに・・・これは秘密にするように言われたけど、そういうわけにはいかないから・・・。ケヴィンさんが援助してくださったのです」
「まあ!ケヴィンさんが?」
「ええ、ベッドや布団、着替えや教科書まで。本当に助かっています」
「私からもお礼を言っておくわね」
「お願いします。さあ!早く中を見てください。外観は塗装を残すだけですし、内装も仕上がっているのです。素晴らしいですよ」
「楽しみね」
ティナとアルフレッドは手をつないで新しい教会に入っていった。
ジュリアが誇らしげに一部屋ずつ案内して回る。
ティナとアルフレッドは質素ながらも清潔感溢れるデザインに感嘆した。
ティナも同行を求められたが、アーレントの授乳を言い訳に断った。
その日も三人の聖人が同行し、王族にマスクと消毒液を配った。
その間もマスクと消毒液の製作は進められ、国民一人に最低で二枚のマスクがいきわたった。
誰が言い始めたのか、配られたマスクは「カミノマスク」と呼ばれている。
貴族たちによる多大な寄付によりマスク縫製から販売までの一貫した事業化と、国王による大々的な推進によりベルツ王国におけるマスク使用率は実に90%を上回った。
消毒液の常用も浸透し、うがいと手洗いの習慣も違和感なく日常に組み込まれていった。
それでも罹患するものは出てしまう。
しかし、例年に比べ死亡者数が格段に減少するという現実がティナたちの作戦の成功を物語っていた。
「さあ、次は薬を作りましょう!」
ティナは精力的に動いた。
王宮の医者たちを集め、ティナの持ってきたレポートにより製薬が進められる。
はじめは高価な薬しか作れなかったが、研究が進むにつれ安価なものもできるようになると、市井にも広まっていった。
ティナは寝る間も惜しんで広報活動に勤しんだ。
ナサーリアもティナと行動を共にし、病人のために聖女の力を使った。
そして二人の傍には常に神が寄り添っていた。
『そろそろ一度帰ろうかしら』
ティナが神に肩を抱かれながらぼそっと言う。
『もう第一段階は大丈夫だろう。軌道に乗ったんじゃないか?あっちの様子も気になるし・・・行ってみるか?』
『アーレントは心配だけど・・・連れてはいけないものね』
『それはできない相談だ。生命体は時空の門を通過できないからな。アーレントも歩き始めたし、やわらかいものなら普通に食べるだろ?』
『そうね、離乳も上手く進んでるし、シスターたちに任せても大丈夫かな』
『じゃあ一週間くらい旅行しようか』
『一週間ってことは・・・こっちでは二日位かな?それなら大丈夫ね』
『楽しみだな。あの教会どうなったかな。思い立ったが吉日だ、すぐに行こう』
『宝石を持って行かなくちゃ。建設費払わなきゃだしね』
『ああ、あれほどこき使ってるんだものな・・・本当にケヴィンを選んだ俺は偉い!』
『ほんとね~じゃあちょっくら過労で倒れてくるわ』
『ああ、上で待ってるから』
神が軽いノリで人差し指で天井を指した。
ティナは鞄から大きめのエメラルドのブローチを取り出しポケットに忍ばせた。
アーレントを抱きしめてキスをした後、オルフェウスの執務室に向かう。
執務室にはオルフェウスと二人の神官がいた。
相談があると言ってからふらついた演技をする。
そしてティナは神官たちの前で盛大に頭から床に突っ込んだ。
それはもう清々しいほど潔く。
『ああ、素早いな。コケ慣れたって感じ?』
『まあね、一瞬痛いのよね・・・』
『帰るまでに引いてるといいな・・・たんこぶ』
『傷になったら嫌だわ・・・もうちょっと効率的な方法ないかしら』
『考えてみよう・・・さあ、行くぞ』
ティナと神は手をつないで時空の門を超えた。
自宅に戻ったティナは素早く着替えてアルフレッドと出かけた。
今回も教会の前でゼロアと子供たちに見送られ、手を振り返す。
「ねえ、ゼロアに言った方が良いと思う?」
「俺なら・・・言わない」
「なぜ?」
「別に血縁関係があるから親しくしなくてはいけないというわけでもないだろう」
「そりゃそうだけど・・・ジュリアは会いたがっていたわ」
「ジュリアの兄弟はゼロアだけではないだろう?」
「ああ・・・そうね。私も家族なのね」
「そうだ。そして神の義弟だ!」
「ジュリアを挟むとゼロアと私も家族?なんかヤヤコシイわねぇ」
上機嫌で車を操るアルフレッドと苦笑いでその横顔を見るティナ。
途中でファーストフード店で子供たちにたっぷりのお土産を準備した。
建設中の教会に到着すると、子供たちとジュリアが駆け寄って来る。
「姉さん!そして義兄さんも。来てくださったのですね」
「ジュリア、元気そうでよかったわ。顔色もよくなって・・・安心した」
「全て姉さんと義兄さんのお陰ですよ。子供たちも粗末な食事ではありますが欠食させてしまうことも無くなりました」
「それはよかったわ」
「それに・・・これは秘密にするように言われたけど、そういうわけにはいかないから・・・。ケヴィンさんが援助してくださったのです」
「まあ!ケヴィンさんが?」
「ええ、ベッドや布団、着替えや教科書まで。本当に助かっています」
「私からもお礼を言っておくわね」
「お願いします。さあ!早く中を見てください。外観は塗装を残すだけですし、内装も仕上がっているのです。素晴らしいですよ」
「楽しみね」
ティナとアルフレッドは手をつないで新しい教会に入っていった。
ジュリアが誇らしげに一部屋ずつ案内して回る。
ティナとアルフレッドは質素ながらも清潔感溢れるデザインに感嘆した。
12
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる