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グッジョブ聖人
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気配が消えたあたりを見つめながら。むっとした顔をするティナのところにシスターがやってきた。
「ティナロア様、オルフェウス大神官様がお呼びです」
「はい、わかりました。アーレントの授乳に戻るところだったので、それが終わってから伺うとお伝えいただけますか?」
「かしこまりました」
ティナは急いで自室に戻った。
アーレントを抱き上げ胸のボタンを外す。
ふと前を見ると神の姿が目に入った。
『やっぱり来るのね』
『ああ、こればっかりは譲れない。まあ気にするな』
『・・・・・・』
ティナは無視してアーレントに集中した。
満足したアーレントはうとうとし始めたので、シスターに渡しオルフェウス大神官のもとに向かった。
「大神官様、遅くなりました」
オルフェウス大神官が満面の笑みで出迎えた。
「いえいえ、急におお呼び立てして申し訳ありません。御子様のご機嫌はいかがでしたか?」
「ええ、満腹してすやすやと。幸せそうな寝顔でしたわ」
オルフェウス大神官は十字を切りながら満足そうに大きく頷いた。
「それは良かった。来ていただいたのは説法会の事です」
オルフェウスは招待する貴族の名簿や、説法会で話す内容などをティナに説明していった。
ふと見るとオルフェウスの後ろで神が顎に手をやりながら真剣に聞いている。
ティナは吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「どう思われますか?」
「素晴らしいと存じますわ」
頭の中で神の声が響いた。
『なんなら天使を何人か派遣して奇跡っぽい光景でも見せてやるか?』
『そんなことできるの?』
『ああ、それほど難しいことでもないさ』
『上手くやってよ?』
『任せとけ』
ティナがオルフェウスに向かって言った。
「神からのお言葉です。当日数人の天使様をお遣いになるそうです」
「なんと!」
「天使さま手ずからマスクと消毒液を貴族の方々にお配りいただけば粗末にはされないのではないかとの事です」
「素晴らしいですね。それなら成功間違いないでしょう。なるほど・・・神はご自身の御子様と聖女様お二人を守るために動いておられるのですね。我々も恩恵にあずかれるのですから本当にありがたいことです」
「・・・神に感謝を」
ティナは気まずく俯いた。
マスクの量産は順調に進み、アルコール消毒液も大量に出来上がった。
説法会の朝、教会に三人の聖者が訪れ、オルフェウス大神官達によって迎え入れられた。
聖者たちは同じ容貌をしていり、体全体が微かに光っているように見える。
シスターの中には感激のあまり気を失う者さえいた。
聖者達は順番にアーレントを抱き上げ、祝福を与えるようにじっと祈りを捧げていた。
その姿を見た神官たちは一様に跪き感涙を流していた。
(まじで神の子にされそうだわ・・・)
ティナは一人で困惑していた。
聖人達は言葉を発しないまま大聖堂に向かい、祭壇の前に並んだ。
集まった貴族たちは聖人たちの神々しさに当てられた様に跪き、祈りを捧げる。
ティナの弾くピアノ曲が荘厳な空気を生み出し、オルフェウスの言葉に厚みを持たせた。
来るべき厄災への備えとして、消毒の大切さとマスクの重要性が貴族たちの心にしみ込んでいく。
絶妙なタイミングで聖人たちは動き、手ずからマスクと消毒液を配って歩いた。
神妙な面持ちで受け取った貴族たちは、まるで何かに憑かれた様に大金を寄付していく。
その様子をピアノを弾きながら眺めていたティナは思った。
(ちょろすぎる)
大聖堂の大戸が開かれ、外の光が差し込む。
神官たちに見送られながら引き上げる貴族たちの顔は恍惚としていた。
「大神官様、本当にありがとうございました。神の恵みを体感いたしました」
ハロッズ侯爵がオルフェウス大神官の前に跪いた。
いつの間にか聖人たちの姿は消え、祭壇にはキラキラとした光だけが残っていた。
「ハロッズ侯爵様にお声がけいただいたお陰で大変有意義な会となりました。心より感謝申し上げます」
オルフェウスが深々と頭を下げた。
跪いたままのハロッズ侯爵はぶんぶと音がするほどの勢いで首を振った。
「こちらこそなんとお礼を申し上げてよいか・・・今日のお話は私が責任をもって国王陛下にお伝えします。国を挙げて取り組んでまいりましょう」
「ありがとうございます」
侯爵はティナの方を見てにこやかに言った。
「ティナロア聖女様。あなたのような素晴らしい方にご指導いただける我が娘は幸せ者です」
「私の方こそ、まだ幼い身であらせられるのに、神のご意志を体現されたナサーリア聖女様に親しく接していただけること、心より感謝申し上げます」
「ありがとうございます。ところで御子様はお元気ですか?」
「・・・はい。アーレントは元気ですくすくと育ってくれています」
「ぜひ一度御子様のお姿を遠目にでも拝見する栄誉をお与えください」
「はい。いつでもどうぞ?何なら今からでも連れてきましょうか?」
ティナのあまりに軽い返答にハロッズ侯爵の方がドン引きしていた。
「それでは身を清めまして改めてお伺いいたしましょう」
「そうですか?別に良いのに・・・」
ハロッズ侯爵は引き攣ったような笑みを浮かべながらぎっしりと金貨が詰まった革袋をオルフェウスに手渡して帰っていった。
「ティナロア様、オルフェウス大神官様がお呼びです」
「はい、わかりました。アーレントの授乳に戻るところだったので、それが終わってから伺うとお伝えいただけますか?」
「かしこまりました」
ティナは急いで自室に戻った。
アーレントを抱き上げ胸のボタンを外す。
ふと前を見ると神の姿が目に入った。
『やっぱり来るのね』
『ああ、こればっかりは譲れない。まあ気にするな』
『・・・・・・』
ティナは無視してアーレントに集中した。
満足したアーレントはうとうとし始めたので、シスターに渡しオルフェウス大神官のもとに向かった。
「大神官様、遅くなりました」
オルフェウス大神官が満面の笑みで出迎えた。
「いえいえ、急におお呼び立てして申し訳ありません。御子様のご機嫌はいかがでしたか?」
「ええ、満腹してすやすやと。幸せそうな寝顔でしたわ」
オルフェウス大神官は十字を切りながら満足そうに大きく頷いた。
「それは良かった。来ていただいたのは説法会の事です」
オルフェウスは招待する貴族の名簿や、説法会で話す内容などをティナに説明していった。
ふと見るとオルフェウスの後ろで神が顎に手をやりながら真剣に聞いている。
ティナは吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「どう思われますか?」
「素晴らしいと存じますわ」
頭の中で神の声が響いた。
『なんなら天使を何人か派遣して奇跡っぽい光景でも見せてやるか?』
『そんなことできるの?』
『ああ、それほど難しいことでもないさ』
『上手くやってよ?』
『任せとけ』
ティナがオルフェウスに向かって言った。
「神からのお言葉です。当日数人の天使様をお遣いになるそうです」
「なんと!」
「天使さま手ずからマスクと消毒液を貴族の方々にお配りいただけば粗末にはされないのではないかとの事です」
「素晴らしいですね。それなら成功間違いないでしょう。なるほど・・・神はご自身の御子様と聖女様お二人を守るために動いておられるのですね。我々も恩恵にあずかれるのですから本当にありがたいことです」
「・・・神に感謝を」
ティナは気まずく俯いた。
マスクの量産は順調に進み、アルコール消毒液も大量に出来上がった。
説法会の朝、教会に三人の聖者が訪れ、オルフェウス大神官達によって迎え入れられた。
聖者たちは同じ容貌をしていり、体全体が微かに光っているように見える。
シスターの中には感激のあまり気を失う者さえいた。
聖者達は順番にアーレントを抱き上げ、祝福を与えるようにじっと祈りを捧げていた。
その姿を見た神官たちは一様に跪き感涙を流していた。
(まじで神の子にされそうだわ・・・)
ティナは一人で困惑していた。
聖人達は言葉を発しないまま大聖堂に向かい、祭壇の前に並んだ。
集まった貴族たちは聖人たちの神々しさに当てられた様に跪き、祈りを捧げる。
ティナの弾くピアノ曲が荘厳な空気を生み出し、オルフェウスの言葉に厚みを持たせた。
来るべき厄災への備えとして、消毒の大切さとマスクの重要性が貴族たちの心にしみ込んでいく。
絶妙なタイミングで聖人たちは動き、手ずからマスクと消毒液を配って歩いた。
神妙な面持ちで受け取った貴族たちは、まるで何かに憑かれた様に大金を寄付していく。
その様子をピアノを弾きながら眺めていたティナは思った。
(ちょろすぎる)
大聖堂の大戸が開かれ、外の光が差し込む。
神官たちに見送られながら引き上げる貴族たちの顔は恍惚としていた。
「大神官様、本当にありがとうございました。神の恵みを体感いたしました」
ハロッズ侯爵がオルフェウス大神官の前に跪いた。
いつの間にか聖人たちの姿は消え、祭壇にはキラキラとした光だけが残っていた。
「ハロッズ侯爵様にお声がけいただいたお陰で大変有意義な会となりました。心より感謝申し上げます」
オルフェウスが深々と頭を下げた。
跪いたままのハロッズ侯爵はぶんぶと音がするほどの勢いで首を振った。
「こちらこそなんとお礼を申し上げてよいか・・・今日のお話は私が責任をもって国王陛下にお伝えします。国を挙げて取り組んでまいりましょう」
「ありがとうございます」
侯爵はティナの方を見てにこやかに言った。
「ティナロア聖女様。あなたのような素晴らしい方にご指導いただける我が娘は幸せ者です」
「私の方こそ、まだ幼い身であらせられるのに、神のご意志を体現されたナサーリア聖女様に親しく接していただけること、心より感謝申し上げます」
「ありがとうございます。ところで御子様はお元気ですか?」
「・・・はい。アーレントは元気ですくすくと育ってくれています」
「ぜひ一度御子様のお姿を遠目にでも拝見する栄誉をお与えください」
「はい。いつでもどうぞ?何なら今からでも連れてきましょうか?」
ティナのあまりに軽い返答にハロッズ侯爵の方がドン引きしていた。
「それでは身を清めまして改めてお伺いいたしましょう」
「そうですか?別に良いのに・・・」
ハロッズ侯爵は引き攣ったような笑みを浮かべながらぎっしりと金貨が詰まった革袋をオルフェウスに手渡して帰っていった。
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