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ティナの後悔
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切ない目をして黙ったティナを見てジュリアは緊張した。
ゆっくりとティナが口を開く。
「ええ・・・私たちの母親はね・・・とても罪深い女だったの。でもね、彼女も生きるために必死だった。それに何より私たちを生んでくれた。堕胎することもできただろうにしなかった。単に堕胎費用が無かったのかもしれないし、怖かっただけかもしれないけど」
「そうですね、確かに良い母親ではなかったけど・・・生んでくれましたね」
「そう。母親の適性はなかったけどね・・・」
「それで・・・兄弟というのは?」
「あなたには辛い話になるけど・・・あなたの父親は間違いなく神官よ。この教会はあなたの父親が管理していたの。それは聞いているのでしょう?」
「ええ、母はそういっていました。半分疑っていましたが本当だったのですね」
「そう。そしてこの教会にはその神官の妻と息子も暮らしていたわ」
「っつ・・・妻と子供が?・・・既婚者?・・・そんな・・・」
ジュリアは悲痛な声を出し、目に涙を浮かべた。
そんなジュリアを見て悲しそうな顔をしたティナだったが、あえて淡々と続けた。
「私たちの母親は娼婦だった。その娼婦をこの教会の神官が買った。そしてそのことは町中の噂になった。家族はその事実に深く傷ついた。それからすぐに神官は戦争に同行することを志願し戦死した。妻と子供は夫の出征と同時に遠い町に引っ越した・・・これが事実よ。そして私があの時・・・叫ばなければ・・・ゼロアは・・・あの家族は・・・」
纏わりついていた子供をそっと弾きはがし、アルフレッドがティナを抱き寄せる。
「もういい。ティナ・・・そこから先は言うな。お前は悪くない」
「でも!」
「良いんだ。俺がそれで良いと言っている。ティナ俺を見ろ」
ティナが顔を上げてアルフレッドを見上げた。
「ティナ・・・」
優しい笑顔でアルフレッドがティナを見下ろしている。
ティナはすべての苦しみから解放されたような気持ちになった。
「うん。そうねアル・・・ありがとう」
「ああ、大丈夫だティナ。お前はよく頑張った。俺は知っているぞ」
「・・・ありがとうアル」
二人は暫しの間きつく抱き合った。
ジュリアはそれ以上追求せず、そっとその場を離れて子供たちのそばに行った。
ハンバーガーはまだたくさん残っている。
「さあ、お前たち。今日はもう眠ろう。残りのハンバーガーは明日いただこうな」
「はぁ~い」
「ちゃんと歯を磨いておいで。シェリー頼むよ」
シェリーは小さく頷いて子供たちを連れて水場に向かった。
アルフレッドとティナはその様子を微笑みながら見ていた。
子供たちとシェリーを見送ったジュリアが真剣な顔で振り向いた。
「姉さん、私の兄弟の話を聞かせてくれてありがとうございました。深く傷つけたお二人に・・・私は会わない方が良いのでしょうね・・・」
「会ってみたい?」
「それはもちろん。でも古い傷を思い出させてしまうかもしれない」
「そうね・・・少し時間を置きましょう。お二人の居場所は知っているから」
「そうですか。お元気なのですね?だったら良かった。それを知れただけで十分です」
「・・・あなたは本当に・・・ゼロアに似ているわ」
「ゼロア?その方はゼロアというのですか」
「ええ、あなたのお兄様はとても立派な神官よ。昔からずっと孤児たちの面倒を見ているの。今のあなたとそっくりね」
「そうですか・・・兄さんも子供たちを・・・なんだかうれしいです。元気が出てきました。私も頑張れそうな気がします」
「ええ、今日を頑張っていれば明日は必ず来るわ。私も応援するからね」
「ありがとう姉さん。そしてアルフレッドさん・・・義兄さんとお呼びしても?」
ティナが返事をする前にアルフレッドが大きな声で答えた。
「もちろんだ!義弟よ!」
アルフレッドは再びティナに足を踏まれた。
その瞬間、アルフレッドの周りの光が笑うようにさざめいた。
ティナは天使たちと分かり合えたような気分になった。
ゆっくりとティナが口を開く。
「ええ・・・私たちの母親はね・・・とても罪深い女だったの。でもね、彼女も生きるために必死だった。それに何より私たちを生んでくれた。堕胎することもできただろうにしなかった。単に堕胎費用が無かったのかもしれないし、怖かっただけかもしれないけど」
「そうですね、確かに良い母親ではなかったけど・・・生んでくれましたね」
「そう。母親の適性はなかったけどね・・・」
「それで・・・兄弟というのは?」
「あなたには辛い話になるけど・・・あなたの父親は間違いなく神官よ。この教会はあなたの父親が管理していたの。それは聞いているのでしょう?」
「ええ、母はそういっていました。半分疑っていましたが本当だったのですね」
「そう。そしてこの教会にはその神官の妻と息子も暮らしていたわ」
「っつ・・・妻と子供が?・・・既婚者?・・・そんな・・・」
ジュリアは悲痛な声を出し、目に涙を浮かべた。
そんなジュリアを見て悲しそうな顔をしたティナだったが、あえて淡々と続けた。
「私たちの母親は娼婦だった。その娼婦をこの教会の神官が買った。そしてそのことは町中の噂になった。家族はその事実に深く傷ついた。それからすぐに神官は戦争に同行することを志願し戦死した。妻と子供は夫の出征と同時に遠い町に引っ越した・・・これが事実よ。そして私があの時・・・叫ばなければ・・・ゼロアは・・・あの家族は・・・」
纏わりついていた子供をそっと弾きはがし、アルフレッドがティナを抱き寄せる。
「もういい。ティナ・・・そこから先は言うな。お前は悪くない」
「でも!」
「良いんだ。俺がそれで良いと言っている。ティナ俺を見ろ」
ティナが顔を上げてアルフレッドを見上げた。
「ティナ・・・」
優しい笑顔でアルフレッドがティナを見下ろしている。
ティナはすべての苦しみから解放されたような気持ちになった。
「うん。そうねアル・・・ありがとう」
「ああ、大丈夫だティナ。お前はよく頑張った。俺は知っているぞ」
「・・・ありがとうアル」
二人は暫しの間きつく抱き合った。
ジュリアはそれ以上追求せず、そっとその場を離れて子供たちのそばに行った。
ハンバーガーはまだたくさん残っている。
「さあ、お前たち。今日はもう眠ろう。残りのハンバーガーは明日いただこうな」
「はぁ~い」
「ちゃんと歯を磨いておいで。シェリー頼むよ」
シェリーは小さく頷いて子供たちを連れて水場に向かった。
アルフレッドとティナはその様子を微笑みながら見ていた。
子供たちとシェリーを見送ったジュリアが真剣な顔で振り向いた。
「姉さん、私の兄弟の話を聞かせてくれてありがとうございました。深く傷つけたお二人に・・・私は会わない方が良いのでしょうね・・・」
「会ってみたい?」
「それはもちろん。でも古い傷を思い出させてしまうかもしれない」
「そうね・・・少し時間を置きましょう。お二人の居場所は知っているから」
「そうですか。お元気なのですね?だったら良かった。それを知れただけで十分です」
「・・・あなたは本当に・・・ゼロアに似ているわ」
「ゼロア?その方はゼロアというのですか」
「ええ、あなたのお兄様はとても立派な神官よ。昔からずっと孤児たちの面倒を見ているの。今のあなたとそっくりね」
「そうですか・・・兄さんも子供たちを・・・なんだかうれしいです。元気が出てきました。私も頑張れそうな気がします」
「ええ、今日を頑張っていれば明日は必ず来るわ。私も応援するからね」
「ありがとう姉さん。そしてアルフレッドさん・・・義兄さんとお呼びしても?」
ティナが返事をする前にアルフレッドが大きな声で答えた。
「もちろんだ!義弟よ!」
アルフレッドは再びティナに足を踏まれた。
その瞬間、アルフレッドの周りの光が笑うようにさざめいた。
ティナは天使たちと分かり合えたような気分になった。
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