76 / 184
準備は完了
しおりを挟む
早急にゼロアが神官を務める教会の土地と家屋の購入を進めることに決めたティナには無駄な時間など全くなかった。
購入手続きと同時に改装工事の詳細を決める必要もある。
気持ちばかり焦るティナにとって事故の加害者であるケヴィンの存在はありがたい。
「おはようございます、ティナさん。今日は改装業者を連れてきましたよ」
いつもの明るい調子でケヴィンが病室を訪れた。
毎日のリハビリの効果も出てきており、病院内であれば歩行補助器を使って自由に移動できるようになっている。
ゆっくりと立ち上がって自分を迎えてくれたティナを見て、ケヴィンは涙を流して喜んでいた。
「ああ、ティナさん。ご自身だけで立てるようになったのですね。良かった・・・良かったです」
「ありがとう。ケヴィンさん・・・そんなに喜んでいただけるとなんだか照れ臭いわ」
「いいえティナさん。私はあなたの葬儀の心配までしていた時期があるのですよ?生きていてくれるだけでも嬉しいのに、確実に回復しているあなたを見ることがどんなに嬉しいか・・・神様、感謝します」
(いやいや・・・もともとは神の我が儘が原因だから。感謝するだけ無駄ですよ?ケヴィン)
心の中で神への冒涜の言葉を並べ立てていたティナは気を取り直してケヴィンに微笑んだ。
「ケヴィンさん、早速ですが改装の話をしても良いですか?」
「勿論です。こちらはうちの傘下の建築会社の者でヘラルドと言います。腕は確かですし的確なアドバイスもできるので信用していただいて大丈夫です」
「まあ頼もしい!ヘラルドさん。よろしくお願いしますね」
ティナが差し出した手を握りながらヘラルドが紳士の礼をとった。
「お話しは伺っていましたがお美しいレディですね。お力になれるよう全力で頑張ります。早速ですがなにか特殊なご要望があるとか」
「ええ、そうなのです。実は・・・」
ティナは自分の体を長期間保管できる部屋を確保する必要があったので、換気や防湿性、空調設備など様々な課題を抱えていた。
もちろん体を保存とは言えないので、珍しい鳥を飼っていることにしている。
「なるほど・・・エサの心配は無いのですね?」
「ええ、そこは大丈夫です。それはもう立派な給餌器がありますから。但し小さくてもいいので給水できる場所はは欲しいです」
無理難題ともいえるような条件を並べながらティナは少し不安になっていた。
しかしヘラルドは眉一つ動かさず問題点をクリアしていく。
(流石だわ・・・安心できそう)
「概ねのことは把握しました。ご期待に添えると思います。窓も扉も二重にして全てに内鍵もつけるのですね?」
「ええ、留守の間はその部屋に絶対に誰も入らない構造にしてください。その他の場所は管理者を雇って掃除をしてもらおうと思っています」
「よほど重要なものを保管されるようですね。金庫も備え付けますか?」
「そうですね。少し大き目の金庫もその部屋にお願いします」
工事日程や必要な経費は早急に持ってくると言い残してヘラルドは帰っていった。
残ったケヴィンがニコニコと笑いながらティナに言った。
「ティナさん、先日のルビーのブローチですがオークションに出してはどうかと思うのです」
「オークションですか」
「ええ、何人かの好事家に見せたのですが欲しいという方ばかりで、それならいっそオークションを利用すればもっと高値が付くのではないかと思いまして」
「なるほど。その辺りは詳しくないのでお任せしても良いですか?」
「勿論です。信頼には信頼で応えますので安心してくださいね」
「ええ。ケヴィンさんのことは信用しています」
「おそらくですが・・・今回の家や土地、改装費まで全て賄ってもかなり余る位にはなると思いますよ。というか・・・私が欲しい位なのですが」
「まあ、ケヴィンさんなら格安でお譲りしますよ?」
「いえいえ、譲っていただけるにしても正当な価格で購入しますよ。実は・・・私の恋人があのブローチに一目惚れしてしまって・・・」
「ああ、なるほど。(うん。ご年配には似合うシックなデザインかも)そういう事ですか(恋人っておいくつなのかしら)でもケヴィンさん、実はもっと良いモノを持っていますので・・・落ち着いたらお見せしますね(一度二人のデート姿を見てみたい)」
「本当ですか!あのブローチより価値のあるとは・・・楽しみです。お待ちしていますね」
「ええ、ケヴィンさんとは長いお付き合いをい願いしたいので」
「こちらこそです、ティナさん」
嬉しそうな顔のまま手を振るケヴィンを見送りながらティナはゼロアと顔を合わせない方法を考えた。
「うん・・・やっぱり変装かな・・・ご近所なのに挨拶も交わさないのは不自然だもんね」
そもそもゼロアがティナを覚えているかどうかだが、そこには考えが及ばないティナだった。
家関連のことは概ね決まったので、後はリハビリとあちらの世界に持ち込むアイテムの選定だけとなり、少し気持ちに余裕のできたティナは深い眠りに落ちて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
順調に全ての予定が進んでいき、ティナがあちらの世界に帰る予定日まであと十日となった。
今日は外出許可を得て家を見に行く事になっている。
例によってケヴィンが迎えに来た。
「さあ、行きましょうティナさん。快適な移動ができる車を用意しましたよ」
杖だけで歩けるようになったティナをエスコートするようにケヴィンが手を差し出す。
念のため同行する看護師と一緒にティナは病室を後にした。
購入手続きと同時に改装工事の詳細を決める必要もある。
気持ちばかり焦るティナにとって事故の加害者であるケヴィンの存在はありがたい。
「おはようございます、ティナさん。今日は改装業者を連れてきましたよ」
いつもの明るい調子でケヴィンが病室を訪れた。
毎日のリハビリの効果も出てきており、病院内であれば歩行補助器を使って自由に移動できるようになっている。
ゆっくりと立ち上がって自分を迎えてくれたティナを見て、ケヴィンは涙を流して喜んでいた。
「ああ、ティナさん。ご自身だけで立てるようになったのですね。良かった・・・良かったです」
「ありがとう。ケヴィンさん・・・そんなに喜んでいただけるとなんだか照れ臭いわ」
「いいえティナさん。私はあなたの葬儀の心配までしていた時期があるのですよ?生きていてくれるだけでも嬉しいのに、確実に回復しているあなたを見ることがどんなに嬉しいか・・・神様、感謝します」
(いやいや・・・もともとは神の我が儘が原因だから。感謝するだけ無駄ですよ?ケヴィン)
心の中で神への冒涜の言葉を並べ立てていたティナは気を取り直してケヴィンに微笑んだ。
「ケヴィンさん、早速ですが改装の話をしても良いですか?」
「勿論です。こちらはうちの傘下の建築会社の者でヘラルドと言います。腕は確かですし的確なアドバイスもできるので信用していただいて大丈夫です」
「まあ頼もしい!ヘラルドさん。よろしくお願いしますね」
ティナが差し出した手を握りながらヘラルドが紳士の礼をとった。
「お話しは伺っていましたがお美しいレディですね。お力になれるよう全力で頑張ります。早速ですがなにか特殊なご要望があるとか」
「ええ、そうなのです。実は・・・」
ティナは自分の体を長期間保管できる部屋を確保する必要があったので、換気や防湿性、空調設備など様々な課題を抱えていた。
もちろん体を保存とは言えないので、珍しい鳥を飼っていることにしている。
「なるほど・・・エサの心配は無いのですね?」
「ええ、そこは大丈夫です。それはもう立派な給餌器がありますから。但し小さくてもいいので給水できる場所はは欲しいです」
無理難題ともいえるような条件を並べながらティナは少し不安になっていた。
しかしヘラルドは眉一つ動かさず問題点をクリアしていく。
(流石だわ・・・安心できそう)
「概ねのことは把握しました。ご期待に添えると思います。窓も扉も二重にして全てに内鍵もつけるのですね?」
「ええ、留守の間はその部屋に絶対に誰も入らない構造にしてください。その他の場所は管理者を雇って掃除をしてもらおうと思っています」
「よほど重要なものを保管されるようですね。金庫も備え付けますか?」
「そうですね。少し大き目の金庫もその部屋にお願いします」
工事日程や必要な経費は早急に持ってくると言い残してヘラルドは帰っていった。
残ったケヴィンがニコニコと笑いながらティナに言った。
「ティナさん、先日のルビーのブローチですがオークションに出してはどうかと思うのです」
「オークションですか」
「ええ、何人かの好事家に見せたのですが欲しいという方ばかりで、それならいっそオークションを利用すればもっと高値が付くのではないかと思いまして」
「なるほど。その辺りは詳しくないのでお任せしても良いですか?」
「勿論です。信頼には信頼で応えますので安心してくださいね」
「ええ。ケヴィンさんのことは信用しています」
「おそらくですが・・・今回の家や土地、改装費まで全て賄ってもかなり余る位にはなると思いますよ。というか・・・私が欲しい位なのですが」
「まあ、ケヴィンさんなら格安でお譲りしますよ?」
「いえいえ、譲っていただけるにしても正当な価格で購入しますよ。実は・・・私の恋人があのブローチに一目惚れしてしまって・・・」
「ああ、なるほど。(うん。ご年配には似合うシックなデザインかも)そういう事ですか(恋人っておいくつなのかしら)でもケヴィンさん、実はもっと良いモノを持っていますので・・・落ち着いたらお見せしますね(一度二人のデート姿を見てみたい)」
「本当ですか!あのブローチより価値のあるとは・・・楽しみです。お待ちしていますね」
「ええ、ケヴィンさんとは長いお付き合いをい願いしたいので」
「こちらこそです、ティナさん」
嬉しそうな顔のまま手を振るケヴィンを見送りながらティナはゼロアと顔を合わせない方法を考えた。
「うん・・・やっぱり変装かな・・・ご近所なのに挨拶も交わさないのは不自然だもんね」
そもそもゼロアがティナを覚えているかどうかだが、そこには考えが及ばないティナだった。
家関連のことは概ね決まったので、後はリハビリとあちらの世界に持ち込むアイテムの選定だけとなり、少し気持ちに余裕のできたティナは深い眠りに落ちて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
順調に全ての予定が進んでいき、ティナがあちらの世界に帰る予定日まであと十日となった。
今日は外出許可を得て家を見に行く事になっている。
例によってケヴィンが迎えに来た。
「さあ、行きましょうティナさん。快適な移動ができる車を用意しましたよ」
杖だけで歩けるようになったティナをエスコートするようにケヴィンが手を差し出す。
念のため同行する看護師と一緒にティナは病室を後にした。
13
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる