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ティナ家を決める
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紳士然とした微笑みで戻ってきたイーサンがティナの前に座る。
情報をファックスさせたのだろう、数枚の紙をテーブルに置きながらイーサンが言った。
「ありましたよ。間違いなくこの物件だと思います。確かにご希望通りの立地ですね。所有者は元領主から教会に寄付された形になっていますので、値段交渉の余地は存分にあるでしょう」
書類を見ながらティナが尋ねた。
「家の状態はどうでしょうか。まあ購入すればいろいろと手を入れることにはなると思いますが」
「すぐに現地調査に向かわせますが、築年数としては一桁ですから大きな問題はないでしょう。もともとこの土地を寄付した領主が住む予定だったようですから、あまりヘタな建物ではないと思いますよ」
「その領主という方は?」
書類をめくりながらイーサンが応える。
「結局一度も住まずに亡くなったようですね。もともと余生を過ごすための家だったのでしょう。平屋でバリアフリー設計ですね。遺族によって土地と一緒に教会に寄付されています」
「なかなか好条件ですね。ここで話を進めてみていただけませんか?」
「承知しました。それではケヴィン副社長、私はこれで」
名を呼ばれてケヴィンが書類から目を上げる。
「ああ、ご苦労だったね。交渉の方はよろしく頼むよ。でも相手は神の家だからね、無茶な値切りはしないでおこうね?」
笑顔で言ったケヴィンに真顔で頷き、イーサンは部屋を出た。
「それにしてもティナさん。即断即決で素晴らしいですね。わが社に欲しい人材だ」
「いえいえケヴィンさん・・・友人から話を聞いていたからですよ。教会に少しでも役立てば嬉しいですし、孤児院の助けになるなら・・・」
「ティナさんは優しい方ですね」
「いえ・・・そんなのでは無いのです。少々事情もありまして・・・」
「そうですか。私がお話しを伺っても?」
「はい・・・むしろいろいろとご助力を賜りたいので・・・聞いていただけますか?」
そう言うとティナはかいつまんで幼い頃の話をした。勿論その教会の神官がゼロアであり、孤児院を運営しているのがその母親だという事も全て。
「なるほど・・・それでティナさんは援助はするが表には出たくないという事ですね」
「そうです。私だと分かれば・・・不快な記憶が蘇るでしょう」
「私はそうは思いませんが・・・ティナさんのご希望通りに致しますよ。それでは購入は私の名義にして、ティナさんに貸与しているという形が望ましいかもしれませんね。勿論代金はお支払いいただきますから安心してください」
「助かりますケヴィンさん」
「一生住むほど気に入ったなら名義変更しましょう。もし仕事に復帰するのであれば都心のマンションを購入するのも良いですしね。その時に売っても良いし、私が気に入れば別荘にしてもいい」
「なるほど・・・」
「他にも条件がありますか?」
「そうですね・・・療養中に行きたかったところ全てに旅行しようと思っていますので、周りの土地の手入れと、留守の間の定期的な室内清掃をお願いできればと思います」
「ああ、それは簡単な事です。そうですね・・・土地の管理となると花壇の手入れや草刈というところですね。孤児院に委託して収入につなげてあげるのもいいかもしれません」
「素晴らしいわ!ケヴィンさん。室内清掃もその方向で行きましょう」
二人はこの物件で決め、話を進めることに合意した。
「それではティナさん。明日もリハビリ頑張ってくださいね。今度は美味しいお菓子でも持ってきますね」
明るく手を振ってケヴィンは帰っていった。
『もう決めちゃったのか?良かったのか悪かったのか・・・』
神の声が頭の中で聞こえた。
『良かったんだと思うよ・・・それにルビーも売れそうだしね』
『家の中に他の奴を入れるのか?掃除とかなんとか言ってたが』
『うん。少しでもお金に繋がるようにしてあげたいし。一部屋だけ絶対に入れない部屋を作れば問題ないでしょう。体の保存は大魔神がしてくれるんでしょう?』
『ああ、そこは心配しなくていい。見つからない工夫だけしておけば・・・まあ問題ないかもな』
『うん、考えてみる。それよりさぁ・・・まだ見つからないの?あんたの番』
『・・・面目ない』
『まあ焦っても仕方ないか・・・で?あっちの私の体は無事なの?』
『ああ大丈夫だ。シスターたちが体を拭いたり聖水を口に含ませたり、まあ甲斐甲斐しいものだ。まるで聖女を扱うがごとくだぜ?』
『聖女って・・・まあ助かるけど・・・ロージーはどう?』
『アランと毎日話をしてる。車いすなら出掛けられるほどだ』
『あの親子にはいい思い出をたくさん作ってほしいわ』
『ああ、それならお前の思惑通りに進んでいると思うよ。ってか・・・お前って案外お人よしだよな』
『ははは・・・まあそういう事にしておいて』
じゃあな・・・と手を振って神はスッと姿を消した。
ティナは限られた時間を有効に使うべく、タイムスケジュール作りに取り組んだ。
情報をファックスさせたのだろう、数枚の紙をテーブルに置きながらイーサンが言った。
「ありましたよ。間違いなくこの物件だと思います。確かにご希望通りの立地ですね。所有者は元領主から教会に寄付された形になっていますので、値段交渉の余地は存分にあるでしょう」
書類を見ながらティナが尋ねた。
「家の状態はどうでしょうか。まあ購入すればいろいろと手を入れることにはなると思いますが」
「すぐに現地調査に向かわせますが、築年数としては一桁ですから大きな問題はないでしょう。もともとこの土地を寄付した領主が住む予定だったようですから、あまりヘタな建物ではないと思いますよ」
「その領主という方は?」
書類をめくりながらイーサンが応える。
「結局一度も住まずに亡くなったようですね。もともと余生を過ごすための家だったのでしょう。平屋でバリアフリー設計ですね。遺族によって土地と一緒に教会に寄付されています」
「なかなか好条件ですね。ここで話を進めてみていただけませんか?」
「承知しました。それではケヴィン副社長、私はこれで」
名を呼ばれてケヴィンが書類から目を上げる。
「ああ、ご苦労だったね。交渉の方はよろしく頼むよ。でも相手は神の家だからね、無茶な値切りはしないでおこうね?」
笑顔で言ったケヴィンに真顔で頷き、イーサンは部屋を出た。
「それにしてもティナさん。即断即決で素晴らしいですね。わが社に欲しい人材だ」
「いえいえケヴィンさん・・・友人から話を聞いていたからですよ。教会に少しでも役立てば嬉しいですし、孤児院の助けになるなら・・・」
「ティナさんは優しい方ですね」
「いえ・・・そんなのでは無いのです。少々事情もありまして・・・」
「そうですか。私がお話しを伺っても?」
「はい・・・むしろいろいろとご助力を賜りたいので・・・聞いていただけますか?」
そう言うとティナはかいつまんで幼い頃の話をした。勿論その教会の神官がゼロアであり、孤児院を運営しているのがその母親だという事も全て。
「なるほど・・・それでティナさんは援助はするが表には出たくないという事ですね」
「そうです。私だと分かれば・・・不快な記憶が蘇るでしょう」
「私はそうは思いませんが・・・ティナさんのご希望通りに致しますよ。それでは購入は私の名義にして、ティナさんに貸与しているという形が望ましいかもしれませんね。勿論代金はお支払いいただきますから安心してください」
「助かりますケヴィンさん」
「一生住むほど気に入ったなら名義変更しましょう。もし仕事に復帰するのであれば都心のマンションを購入するのも良いですしね。その時に売っても良いし、私が気に入れば別荘にしてもいい」
「なるほど・・・」
「他にも条件がありますか?」
「そうですね・・・療養中に行きたかったところ全てに旅行しようと思っていますので、周りの土地の手入れと、留守の間の定期的な室内清掃をお願いできればと思います」
「ああ、それは簡単な事です。そうですね・・・土地の管理となると花壇の手入れや草刈というところですね。孤児院に委託して収入につなげてあげるのもいいかもしれません」
「素晴らしいわ!ケヴィンさん。室内清掃もその方向で行きましょう」
二人はこの物件で決め、話を進めることに合意した。
「それではティナさん。明日もリハビリ頑張ってくださいね。今度は美味しいお菓子でも持ってきますね」
明るく手を振ってケヴィンは帰っていった。
『もう決めちゃったのか?良かったのか悪かったのか・・・』
神の声が頭の中で聞こえた。
『良かったんだと思うよ・・・それにルビーも売れそうだしね』
『家の中に他の奴を入れるのか?掃除とかなんとか言ってたが』
『うん。少しでもお金に繋がるようにしてあげたいし。一部屋だけ絶対に入れない部屋を作れば問題ないでしょう。体の保存は大魔神がしてくれるんでしょう?』
『ああ、そこは心配しなくていい。見つからない工夫だけしておけば・・・まあ問題ないかもな』
『うん、考えてみる。それよりさぁ・・・まだ見つからないの?あんたの番』
『・・・面目ない』
『まあ焦っても仕方ないか・・・で?あっちの私の体は無事なの?』
『ああ大丈夫だ。シスターたちが体を拭いたり聖水を口に含ませたり、まあ甲斐甲斐しいものだ。まるで聖女を扱うがごとくだぜ?』
『聖女って・・・まあ助かるけど・・・ロージーはどう?』
『アランと毎日話をしてる。車いすなら出掛けられるほどだ』
『あの親子にはいい思い出をたくさん作ってほしいわ』
『ああ、それならお前の思惑通りに進んでいると思うよ。ってか・・・お前って案外お人よしだよな』
『ははは・・・まあそういう事にしておいて』
じゃあな・・・と手を振って神はスッと姿を消した。
ティナは限られた時間を有効に使うべく、タイムスケジュール作りに取り組んだ。
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