上 下
74 / 184

ティナ家を探す

しおりを挟む
「ティナさん、専門家を連れてきましたよ。きっとご希望の物件がみつかると思います」

リハビリの痛みに顔をゆがめているティナに向かってケヴィンがにこやかに近づいてきた。

「あ・・・うぅぅぅ・・・ケ・・・ケヴィンさん・・・ちょっと・・・あ~~~~痛いです。限界!」

「大丈夫ですか?ティナさん」

「大丈夫に見えますか?」

「いえ・・・とてもお辛そうです。私のせいで・・・申し訳ありません」

理学療法士がやっとティナの足を開放してくれた。
大きく息を吐きティナがマットの上で体を起こした。

「ケヴィンさん。もうそういうの止めましょう。確かにあなたは加害者で私は被害者だけど、そこに故意は存在しなかったのですから。あなたも私も運が悪かった・・・それだけです」

「そう言っていただけると・・・でも私は痛くないのにあなたはずっと痛い目に遭ってるわけで・・・」

「もう止しましょうよ。で?そちらの方は?専門家と仰いましたが」

「わが社の不動産部門の責任者です。イーサン・ブレイドといいます」

ケヴィンの横で中年の男性がにこやかにお辞儀をした。

(あらナイスミドルね・・・ふふふ・・・眼福だわ)

「早々に動いて下さったのですね。いつも本当に素早い対応で、感謝していますケヴィンさん」

「リハビリが一段落したら物件情報をご覧になりませんか?」

「ええ、もちろん。もう今日は終わりですから部屋でお話しを伺っても良いですか?」

ケヴィンは宝物を扱うような丁寧さでティナを車いすに乗せるとゆっくりと押し始めた。
ティナの個室は今日も花がたくさん飾られている。
少し開けた窓からは爽やかな風が吹き込み、薄いブルーのカーテンを優しく揺らしていた。

「それでは拝見しますね」

ソファーに移動させてもらったティナの前にケヴィンとイーサンが並んで座った。

(・・・・・・ババ専・・・)

ティナは笑いをかみ殺しながらまっすぐ前を向いた。

「ティナさん。この度はいろいろと大変でしたね。早速ですがティナさんのご希望を聞かせていただけますか?」

イーサンはテキパキとビジネスライクに話し始めた。

「そうですね・・・一番は安全が確保できる所が良いです。空気がきれいで周りに建物があまりなく、庭が広くて見晴らしが良いのが理想ですね」

「なるほど・・・そうなるとかなり都心から離れることになりますが問題無いですか?」

「ええ、その方が良いですね。でもまあ・・・仕事のことを考えると都心の方が良いのかもしれませんが・・・まだ当分復帰はできないと思うので」

「そうですね。仕事に復帰される時に都心のマンションを検討されても良いですね。ですが今は療養を第一に考えるという事ですね?」

「はい。そう考えています」

「失礼ですがご予算は?」

ケヴィンが慌てて口を挿む。

「イーサン、お金のことは置いといてくれていい」

イーサンがケヴィンの顔を見て数秒黙ったあと小さく頷いた。

「そういう事でしたらお勧めの物件がございますよ。敷地がかなり広く少々お値段的に問題かと思ったのですが」

ティナが慌てて口を開いた。

「いいえ、ケヴィンさん。ケヴィンさんからはきちんと慰謝料をお支払いいただいていますし、私も少し当てがあるのでこれ以上ご負担を掛けるわけにはいきませんから」

ケヴィンが優しい笑顔でティナに言った。

「まあまあティナさん。お金の話は物件が決まってからにしましょう」

ティナは困った顔をして黙った。
イーサンが素早く話を進める。
ティナの希望に沿ったものがいくつか紹介されたが、神の言うヘインズのゼロアの教会のものは無かった。

「あの・・・友人から聞いたのですが、ヘインズに教会が所有する丘に素敵な一軒家があるらしいのですが・・・その情報は無いですか?」

「ヘインズですか。国境沿いですから移民が多いところですね・・・少々お待ちください。すぐに調べます」

そう言うとイーサンは部屋を出て行った。
イーサンを見送り少し冷めたコーヒーをひと口飲んでティナがケヴィンに話しかける。

「ケヴィンさん、ベッドサイドの棚に小さい箱があるのですが取っていただけませんか?」

頷いてケヴィンが立ち上がる。

「これですか?」

「はい、それです」

ケヴィンが小箱をティナに渡した。
お礼を言って受け取ったティナが小箱の中から大きなルビーのついたブローチを取り出した。

「ケヴィンさん。これは私の家系で保存してきた古いものです。これ・・・売れないでしょうか」

ケヴィンがブローチを受け取り鑑定するように光に透かして見た。

「これは・・・素晴らしいルビーですね。これほどの物は今では手に入りませんよ?手放されるのですか?」

「ええ、このほかにもっとあるのですが・・・売れそうですか?」

「かなりの高値が期待できると思いますよ?というか・・・博物館にあってもおかしくないほどの逸品だと思います。本当に手放されるのでしたら明日にでも鑑定士を連れて来ましょう」

「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします」

ケヴィンはうっとりした眼差しでルビーを見ている。

(良かった・・・生活費も確保出来そうだわ)

ティナがほっと胸を撫でおろしたいるとイーサンが戻ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

処理中です...