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思い切りダイブ
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神の声を微かに聞いたオルフェウス大神官が少し困惑している。
「オルフェウス大神官様。聞き間違いではありません。ロージーさまにお授けになる十日の間、私がロージーさまの代わりに神の御許に行きお仕えする必要がございます」
「詐欺とかなんとか聞こえたような・・・まさかな」
オルフェウス大神官が顎に手を当てて考え込んでいる。
慌ててティナが頭の中で神を怒鳴った。
『ちょっと!あんた!言葉遣いに気を付けてよ!』
『汝、我が声を受け止めよ・・・』
取り澄ましたような神の声が頭の中に聞こえる。
(ぷっ!笑える!)
ティナは吹き出しそうになるのを堪えて神妙な顔を繕った。
アランが取り乱すように口を開く。
「それは・・・それではティナ嬢に申し訳無さすぎます」
「いいえ、アラン様。私がロージーさまの代わりを勤めます。いえ、むしろ私にしかできません。そんなに難しい事では無いとのことですのでご安心ください。その代わり十日間しっかりとお母さまとの時間を楽しんでくださいね」
アランが蹲って泣き出した。
今まで黙って聞いていたロージーがティナに話しかける。
「ティナロアお嬢様。なんと立派におなりになって。ロージーは嬉しゅうございますよ。あの小さくて弱弱しかったティナロアお嬢様が神の御声を聞くほどのお方になられるとは・・・しかしティナロアお嬢様、私は神の御許に行くことは嬉しいのですよ。ティナロアお嬢様にご迷惑をお掛けするくらいなら今すぐにでも・・・」
「母さん!」
アランがロージーの手を握りしゃくり上げるように泣いた。
ティナがロージーの手を握りながら優しく言う。
「ロージーさま。お願いですから私を守って下さったロージーさまに感謝を捧げる機会を下さいませんか?神のご意志ですので、何卒・・・お願い致します」
「ティナロアお嬢様。本当によろしいのですか?あなた様に危険は無いのですか?もうこちらに戻って来られないなど・・・ああ・・・どうすれば・・・」
オルフェウス大神官とフェルナンド神官がいきなり跪いた。
二人は神の声を聞いている。
その声はティナにも聞こえていた。
『その者に危険はない。ロージーよ褒美を遣わそう。心置きなく従うように』
『・・・・・・・・・』
(たぶん難しい言葉で言うのに疲れたのね・・・分かりやすい奴)
ティナは跪いて祈るふりをしながら自分の鞄からルビーのブローチを取り出しポケットに忍ばせた。
(良し!誰も気づいてないわね。このブローチどのくらいの値が付くかしら)
オルフェウス大神官が立ち上がった。
「フェルナンド・・・聞こえたか?」
フェルナンド神官もゆっくりと立ち上がる。
「はい確かに。神の御意志を承りました」
「うむ・・・ロージーよ。ありがたくお受けしなさい。これまでのあなたの業績を神は褒めて下さっている。まさに奇跡のような事だ。素晴らしい」
「そうですよ、ロージー。ティナロア嬢のお陰です。ありがたくお受けする方が神の御心に沿いますよ」
オルフェウスもフェルナンドも涙を流して何度も十字を切っている。
ティナは今がチャンスだとばかり、思い切り頭から床に飛び込んだ。
ティナの目の中で火花が弾け強烈な頭の痛みを感じた。
フッと意識が遠のく感覚が襲いそのまま暗闇へと落ちて行った。
『上手くいったじゃないかティナ。なかなか急ぎよいダイブだったな・・・しかし凄いたんこぶだ』
『痛い・・・痛い?あれ?痛くないわ。凄いね』
『そりゃそうだろ?痛いのはこっちにある体だけだ。今のお前は魂だけだからな』
『ああ、それで透けてんのね。なかなか分かりやすい設定になってるのね神界って』
『お前・・・あっちに戻ったらリハビリも兼ねて「神は偉大」って百回書取りしろ!』
『ははは~じゃあ行ってくるわ。それとあんた!神官たちの前では言葉遣い気をつけなよ?』
『ああ・・・頑張る』
ティナは軽く手を振って反対側の扉に向かって進んだ。
「ティナさん。大丈夫ですか?予定より麻酔から覚めるのに時間がかかったので心配しました。痛いところはありませんか?」
「は・・・はい・・・なんだか・・・疲れてるみたいです」
「そうですか。検査はこれで終わりです。お部屋に戻りましょう」
ピンク色のナース服が全く似合ってない年配のナースが車いすに座らせてくれた。
エレベーターを降りて病室に向かうとケヴィンが待っていた。
「ティナさん。検査中だと聞いたので待っていました。大丈夫でしたか?」
「ああケヴィンさん。いつもありがとうございます。検査結果次第ですがあとひと月ほどで退院出来そうです」
「それは・・・良かった・・・良かった・・・本当に・・・」
ケヴィンが涙を流している。
ティナは少し心が温かくなったような気がした。
「ケヴィンさん。それで・・・私はリハビリの毎日になるのですが、退院後に住むところを探さないといけないので・・・お手伝いしていただけませんか?」
「もちろん喜んでお手伝いいたします。すぐに不動産屋を寄こしましょう」
ケヴィンはティナに頼られるのが嬉しいのか喜々として病室を出て行った。
「オルフェウス大神官様。聞き間違いではありません。ロージーさまにお授けになる十日の間、私がロージーさまの代わりに神の御許に行きお仕えする必要がございます」
「詐欺とかなんとか聞こえたような・・・まさかな」
オルフェウス大神官が顎に手を当てて考え込んでいる。
慌ててティナが頭の中で神を怒鳴った。
『ちょっと!あんた!言葉遣いに気を付けてよ!』
『汝、我が声を受け止めよ・・・』
取り澄ましたような神の声が頭の中に聞こえる。
(ぷっ!笑える!)
ティナは吹き出しそうになるのを堪えて神妙な顔を繕った。
アランが取り乱すように口を開く。
「それは・・・それではティナ嬢に申し訳無さすぎます」
「いいえ、アラン様。私がロージーさまの代わりを勤めます。いえ、むしろ私にしかできません。そんなに難しい事では無いとのことですのでご安心ください。その代わり十日間しっかりとお母さまとの時間を楽しんでくださいね」
アランが蹲って泣き出した。
今まで黙って聞いていたロージーがティナに話しかける。
「ティナロアお嬢様。なんと立派におなりになって。ロージーは嬉しゅうございますよ。あの小さくて弱弱しかったティナロアお嬢様が神の御声を聞くほどのお方になられるとは・・・しかしティナロアお嬢様、私は神の御許に行くことは嬉しいのですよ。ティナロアお嬢様にご迷惑をお掛けするくらいなら今すぐにでも・・・」
「母さん!」
アランがロージーの手を握りしゃくり上げるように泣いた。
ティナがロージーの手を握りながら優しく言う。
「ロージーさま。お願いですから私を守って下さったロージーさまに感謝を捧げる機会を下さいませんか?神のご意志ですので、何卒・・・お願い致します」
「ティナロアお嬢様。本当によろしいのですか?あなた様に危険は無いのですか?もうこちらに戻って来られないなど・・・ああ・・・どうすれば・・・」
オルフェウス大神官とフェルナンド神官がいきなり跪いた。
二人は神の声を聞いている。
その声はティナにも聞こえていた。
『その者に危険はない。ロージーよ褒美を遣わそう。心置きなく従うように』
『・・・・・・・・・』
(たぶん難しい言葉で言うのに疲れたのね・・・分かりやすい奴)
ティナは跪いて祈るふりをしながら自分の鞄からルビーのブローチを取り出しポケットに忍ばせた。
(良し!誰も気づいてないわね。このブローチどのくらいの値が付くかしら)
オルフェウス大神官が立ち上がった。
「フェルナンド・・・聞こえたか?」
フェルナンド神官もゆっくりと立ち上がる。
「はい確かに。神の御意志を承りました」
「うむ・・・ロージーよ。ありがたくお受けしなさい。これまでのあなたの業績を神は褒めて下さっている。まさに奇跡のような事だ。素晴らしい」
「そうですよ、ロージー。ティナロア嬢のお陰です。ありがたくお受けする方が神の御心に沿いますよ」
オルフェウスもフェルナンドも涙を流して何度も十字を切っている。
ティナは今がチャンスだとばかり、思い切り頭から床に飛び込んだ。
ティナの目の中で火花が弾け強烈な頭の痛みを感じた。
フッと意識が遠のく感覚が襲いそのまま暗闇へと落ちて行った。
『上手くいったじゃないかティナ。なかなか急ぎよいダイブだったな・・・しかし凄いたんこぶだ』
『痛い・・・痛い?あれ?痛くないわ。凄いね』
『そりゃそうだろ?痛いのはこっちにある体だけだ。今のお前は魂だけだからな』
『ああ、それで透けてんのね。なかなか分かりやすい設定になってるのね神界って』
『お前・・・あっちに戻ったらリハビリも兼ねて「神は偉大」って百回書取りしろ!』
『ははは~じゃあ行ってくるわ。それとあんた!神官たちの前では言葉遣い気をつけなよ?』
『ああ・・・頑張る』
ティナは軽く手を振って反対側の扉に向かって進んだ。
「ティナさん。大丈夫ですか?予定より麻酔から覚めるのに時間がかかったので心配しました。痛いところはありませんか?」
「は・・・はい・・・なんだか・・・疲れてるみたいです」
「そうですか。検査はこれで終わりです。お部屋に戻りましょう」
ピンク色のナース服が全く似合ってない年配のナースが車いすに座らせてくれた。
エレベーターを降りて病室に向かうとケヴィンが待っていた。
「ティナさん。検査中だと聞いたので待っていました。大丈夫でしたか?」
「ああケヴィンさん。いつもありがとうございます。検査結果次第ですがあとひと月ほどで退院出来そうです」
「それは・・・良かった・・・良かった・・・本当に・・・」
ケヴィンが涙を流している。
ティナは少し心が温かくなったような気がした。
「ケヴィンさん。それで・・・私はリハビリの毎日になるのですが、退院後に住むところを探さないといけないので・・・お手伝いしていただけませんか?」
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