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加害者はできる男
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「意識が戻られてから驚くほど順調ですね。これなら歩行器を使って歩いても大丈夫ですよ。但し必ず介護士は同行してください」
「良かったです。少し喋りづらいのは仕方がないのでしょうね」
「おいおい改善しますよ。焦らないことです」
「分かりました」
意識が戻って二日目で歩行の許可が降りた。
事故の加害者であるケヴィンは相変わらず毎日やってきて、相変わらず謝罪の言葉と一緒に花束を渡す。
医者と入れ違いに病室に入ったケヴィンにティナの方から話しかけた。
「ケヴィンさん。今日も来てくださったのですね。毎日ありがとうございます」
「いいえ、とんでもありませんティナさん。本当に名と言ってお詫びを・・・」
「その件はもう終わりにしましょう。十分な慰謝料だと聞いていますし、ここで最先端医療を受けられたことも全てあなたのお陰なのでしょう?弁護士から聞いています」
「そんな事は当たり前です。しかしあなたのような若くて美しい方の人生に傷をつけたことは償いようがありません。足の傷も背中の傷も・・・お顔の傷が残らなかったのがせめてもの幸いです」
「若くて美しいだなんて・・・私もう32歳ですし傷など何でもありません」
「お強いのですね・・・ありがとうございます。あなたが支障なく暮らせるようになるまでどのような事でもいたします」
「本当ですか?」
「神に誓って」
「神・・・そうですね。神は常に身近におられますものね・・・ところでお願いがあるのですが」
「なんでしょう。命を賭けて願いを叶えます」
「・・・少々面倒なお願いかもしれませんが・・・実は眠っている間に不思議な夢をずっと見ていたのです」
「ほう?どんな夢でしょうか?」
「現代では国名も変わっているのですが、ずっと昔に存在していたアルベッシュ帝国とベルツ王国について歴史を知りたいのです。今はなんという国名なのかも分かりません」
「なるほど・・・その国に関する夢を見たという事ですね?なかなかファンタジーなお話しで興味が湧きますね・・・分かりました。うちの会社に歴史オタクがいるので大至急調べさせましょう。それで何を用意すれば良いですか?」
「できればその二国に関する建国からの歴史を全て知りたいのです。本にでもなっていれば良いのですが・・・」
「大至急ご用意します。あなたから何かを願われるのがこんなに嬉しいとは思いませんでしたよ、ティナさん」
「ありがとうございます。退屈で仕方がないので大至急でお願いしますね」
ティナがコテンと小首をかしげてニコっと笑った。
ケヴィンは少し頬を赤らめて携帯電話を握りしめて席を立った。
(う~ん・・・騙しているような気がするわ・・・さすがの私もちょっと良心の呵責があるわね)
『気にしなくて良くね?加害者なんだし、喜んでるし』
ティナがベッドの上でビクッと跳ねた。
『突然話しかけないでよ!びっくりして心臓が止まるかと思ったわ』
『そんな玉じゃないだろう?それより歴史書を持ち帰るつもりなのか?』
『未来が判った方が動きやすいでしょう?いろいろと』
『まあそうだけど・・・何巻かに分かれていたら厄介だな』
『ああそうか・・・まあ大丈夫よ。必要なとこだけ切り取って一冊にすれば良いでしょう?』
『まあな・・・でもあまり歴史に介入するなよ?面倒な事は起こさない方がいい』
『そうね。いくらあんたの番を助けるためとはいえ歴史を変えちゃ拙いわよね』
『いや!彼女を救うためなら問題ない!どう変わっても良いからとにかく彼女は救ってくれ!』
神々しい姿のまま、とんでもなく自己中心的発言を残し神の姿が消えた。
(らしいっちゃらしいけど・・・まあそんなあんただからなんとかしようと思うわけだし)
神の姿が浮かんでいた空間に向かってティナは笑いかけた。
ティナの目には既に映っていない神が、その微笑みに顔を赤らめながら微笑み返していた。
遅くても明後日にはあちらの世界に帰ろうと思っていたティナは、ケヴィンが用意してくれる歴史書が間に合わない事を想定して計画を立てた。
(歴史書は次回にして、今回持ち帰るなら何が良いかしら)
ロージーはもう長くないと神が言っていた。
そうなるとアランはマダムラッテのいる街に帰るだろう。
「ロージーがいなくなっても教会に居続けたほうが聖女に出会う確率は高いよね?」
闇雲に動き回って聖女を探すより、聖女となるべき女性が訪れる確率が高い場所に留まる方がより確率は上がるはずだと考えたティナは、教会に居続ける方法を考えた。
「私にできることといえば・・・やっぱり弾き語り?」
あの教会にピアノがあったかしらと考えていた時、病室にケヴィンが入ってきた。
「ティナさん。見つかりましたよ、お探しのものが」
「えっ!ケヴィンさん?早いですねぇ・・・凄いです」
「あれからすぐに探させたのですが、お話しした歴史オタクがすぐに手配してくれましたよ。でも持ち出し禁止なのでご相談に来たのです」
「持ち出し禁止?」
「ええ、随分前に廃版になった本でした。個人所蔵家を探せば購入できるかもしれませんが時間が必要です」
「先ほど言われた持ち出し禁止というのは?」
「国立図書館の蔵書です」
「なるほど・・・その本は部分的なコピーもダメな本ですか?」
「コピーなら大丈夫だと思いますが・・・まあ大丈夫にしますよ。しかしかなりの両になりそうですね」
「必要なのは一部だけなので・・・アルベッシュ帝国の皇帝がハーベストの時代の前後で、同時代のベルツ王国の物だけで良いのです」
「なるほど・・・そこまで具体的ならかなり簡単です。すぐ手配しますね」
慌ただしくケヴィンは病室を出て行った。
「良かったです。少し喋りづらいのは仕方がないのでしょうね」
「おいおい改善しますよ。焦らないことです」
「分かりました」
意識が戻って二日目で歩行の許可が降りた。
事故の加害者であるケヴィンは相変わらず毎日やってきて、相変わらず謝罪の言葉と一緒に花束を渡す。
医者と入れ違いに病室に入ったケヴィンにティナの方から話しかけた。
「ケヴィンさん。今日も来てくださったのですね。毎日ありがとうございます」
「いいえ、とんでもありませんティナさん。本当に名と言ってお詫びを・・・」
「その件はもう終わりにしましょう。十分な慰謝料だと聞いていますし、ここで最先端医療を受けられたことも全てあなたのお陰なのでしょう?弁護士から聞いています」
「そんな事は当たり前です。しかしあなたのような若くて美しい方の人生に傷をつけたことは償いようがありません。足の傷も背中の傷も・・・お顔の傷が残らなかったのがせめてもの幸いです」
「若くて美しいだなんて・・・私もう32歳ですし傷など何でもありません」
「お強いのですね・・・ありがとうございます。あなたが支障なく暮らせるようになるまでどのような事でもいたします」
「本当ですか?」
「神に誓って」
「神・・・そうですね。神は常に身近におられますものね・・・ところでお願いがあるのですが」
「なんでしょう。命を賭けて願いを叶えます」
「・・・少々面倒なお願いかもしれませんが・・・実は眠っている間に不思議な夢をずっと見ていたのです」
「ほう?どんな夢でしょうか?」
「現代では国名も変わっているのですが、ずっと昔に存在していたアルベッシュ帝国とベルツ王国について歴史を知りたいのです。今はなんという国名なのかも分かりません」
「なるほど・・・その国に関する夢を見たという事ですね?なかなかファンタジーなお話しで興味が湧きますね・・・分かりました。うちの会社に歴史オタクがいるので大至急調べさせましょう。それで何を用意すれば良いですか?」
「できればその二国に関する建国からの歴史を全て知りたいのです。本にでもなっていれば良いのですが・・・」
「大至急ご用意します。あなたから何かを願われるのがこんなに嬉しいとは思いませんでしたよ、ティナさん」
「ありがとうございます。退屈で仕方がないので大至急でお願いしますね」
ティナがコテンと小首をかしげてニコっと笑った。
ケヴィンは少し頬を赤らめて携帯電話を握りしめて席を立った。
(う~ん・・・騙しているような気がするわ・・・さすがの私もちょっと良心の呵責があるわね)
『気にしなくて良くね?加害者なんだし、喜んでるし』
ティナがベッドの上でビクッと跳ねた。
『突然話しかけないでよ!びっくりして心臓が止まるかと思ったわ』
『そんな玉じゃないだろう?それより歴史書を持ち帰るつもりなのか?』
『未来が判った方が動きやすいでしょう?いろいろと』
『まあそうだけど・・・何巻かに分かれていたら厄介だな』
『ああそうか・・・まあ大丈夫よ。必要なとこだけ切り取って一冊にすれば良いでしょう?』
『まあな・・・でもあまり歴史に介入するなよ?面倒な事は起こさない方がいい』
『そうね。いくらあんたの番を助けるためとはいえ歴史を変えちゃ拙いわよね』
『いや!彼女を救うためなら問題ない!どう変わっても良いからとにかく彼女は救ってくれ!』
神々しい姿のまま、とんでもなく自己中心的発言を残し神の姿が消えた。
(らしいっちゃらしいけど・・・まあそんなあんただからなんとかしようと思うわけだし)
神の姿が浮かんでいた空間に向かってティナは笑いかけた。
ティナの目には既に映っていない神が、その微笑みに顔を赤らめながら微笑み返していた。
遅くても明後日にはあちらの世界に帰ろうと思っていたティナは、ケヴィンが用意してくれる歴史書が間に合わない事を想定して計画を立てた。
(歴史書は次回にして、今回持ち帰るなら何が良いかしら)
ロージーはもう長くないと神が言っていた。
そうなるとアランはマダムラッテのいる街に帰るだろう。
「ロージーがいなくなっても教会に居続けたほうが聖女に出会う確率は高いよね?」
闇雲に動き回って聖女を探すより、聖女となるべき女性が訪れる確率が高い場所に留まる方がより確率は上がるはずだと考えたティナは、教会に居続ける方法を考えた。
「私にできることといえば・・・やっぱり弾き語り?」
あの教会にピアノがあったかしらと考えていた時、病室にケヴィンが入ってきた。
「ティナさん。見つかりましたよ、お探しのものが」
「えっ!ケヴィンさん?早いですねぇ・・・凄いです」
「あれからすぐに探させたのですが、お話しした歴史オタクがすぐに手配してくれましたよ。でも持ち出し禁止なのでご相談に来たのです」
「持ち出し禁止?」
「ええ、随分前に廃版になった本でした。個人所蔵家を探せば購入できるかもしれませんが時間が必要です」
「先ほど言われた持ち出し禁止というのは?」
「国立図書館の蔵書です」
「なるほど・・・その本は部分的なコピーもダメな本ですか?」
「コピーなら大丈夫だと思いますが・・・まあ大丈夫にしますよ。しかしかなりの両になりそうですね」
「必要なのは一部だけなので・・・アルベッシュ帝国の皇帝がハーベストの時代の前後で、同時代のベルツ王国の物だけで良いのです」
「なるほど・・・そこまで具体的ならかなり簡単です。すぐ手配しますね」
慌ただしくケヴィンは病室を出て行った。
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