【完結】歴史が変わりますが神の願いなのでどうぞご了承ください

志波 連

文字の大きさ
上 下
64 / 184

若い神官と神の啓示

しおりを挟む
「大変です!ロージー様が!早く・・・こちらに!」

アランが駆け出す。
ティナも後を追った。

「急に倒れられて・・・今神官様とお医者様をお呼びしています」

アランがシスターに支えられて苦しそうに顔をゆがめるロージーに駆け寄った。
どうすることもできずオロオロするティナの耳元で神の声が聞こえた。

『ティナ。この声は他には聞こえないから。お前も返事は頭の中でするんだ』

『ひえっ!驚いた!大魔神ってこんな事もできるの』

『教会の中だからね。いろいろ融通が利くんだ』

『なるほど・・・で?ロージーの容態は?』

『あと三か月は大丈夫だけど、もう動けるような状態には戻らない。息子を引き留めておいた方が良いだろう』

『そうなの・・・』

『息子が来るまではって思っていたのだろう。かなり無理してるから』

『母は強しってとこね』

『それでティナ。お前が看病してやれよ。教会にいる方が何かと都合が良いだろう。俺もこうやって話すことができるし』

『それは都合がいいけど・・・居ていいの?』

『今から来る神官に看病を申し出るんだ。俺からもかるく啓示を与えておくから』

『あんた・・・ホントに・・・神の力を何だと思ってるのよ!』

『お前にだけは・・・言われたくない』

頭の中で神と口喧嘩していた時、慌ただしい足音と共に美しい銀髪の神官が走り寄った。

「ロージー!ああ、こんなに顔色が・・・すぐに治療を・・・」

深い緑色の目が美しい若い神官だ。
ロージーを心から心配しているのが感じられる。
抱き起こそうとする神官を助手の神官が止めた。

「フェルナンド様。今は動かすべきではありません。医官の到着を待ちましょう」

「そうですか?まあ、あなたがそういうなら・・・うっ!あ・・・頭が・・・」

「どうされました?フェルナンド様?」

「‥‥‥‥いえ・・・あっ・・・」

「フェルナンド様?」

「いえ、大丈夫です。私は少し大神官様の所に行ってきます・・・」

ちらちらとティナを見ながら高揚した顔でフェルナンド神官が立ち去った。

(ああ、神の啓示って奴を受けちゃったのね?あんまり信用しない方が・・・)

大神官の部屋に向かうフェルナンドの背を見ながらティナは小さく十字を切った。
フェルナンドとすれ違うように医官が到着し、その場でロージーを診察した。
アランが心配そうに見詰めている。
医官が指示を出し、ロージーを部屋まで運んで寝かせた。
薬を投与されたロージーは静かに眠っている。
心配そうに見守る人達に向かって医官が言った。

「脳の病気だと思われます。大きな影を感じます。ここまで大きいと薬でどうこうなるものではありません。ご親族の方を呼ばれる事をお勧めします」

アランの方がビクッと跳ねた。
ティナが後からそっと支える。

「私は息子です。親子二人だけの家庭でした。それで医官様、母はどのくらい持つでしょうか。意識は戻るのでしょうか」

「そうですね・・・意識は戻るかもしれませんが混濁する可能性が高いです。どのくらい持つか・・・難しいところですが・・・早ければひと月だと思ってください。会わせたい人がいれば早急に呼んだ方が良いでしょう」

医官の言葉にアランの目から涙が溢れる。
付添ってきたシスターたちは跪いて祈りを捧げている。
ティナはアランの背を撫でることしかできなかった。
ロージーが眠るベッドに跪き、手を握るアランに横でティナはどうすることもできず佇む。
小さなノックの後、静かにドアが開きフェルナンド神官が入ってきた。
先ほど一緒に居た助手の神官の他に年配の神官も一緒にいる。

「シスターロージーの容態は如何ですか?」

アランが涙を手の甲で拭いながら立ち上がった。

「神官様、ご心配をおかけして申し訳ございません。母は今落ち着いていますが、ひと月位の命だろうと・・・医官様が・・・」

「そうですか・・・ロージー・・・どうか最後の瞬間まで神に祈ってください。私たちも祈ります・・・」

ティナが遠慮がちに言った。

「あの・・・もし良ければ私とアラン様で看病をしたいのですが・・・教会に滞在することをお許しいただけないでしょうか」

フェルナンドと年配の神官がハッとした顔で向き合った。
年配の方の神官が口を開く。

「私はこの神殿で大神官をしておりますオルフェウスと申します」

「これは・・・大変失礼しました。私はティナロア・ランバーツと申します。幼い頃ロージー様に命を救われた者でございます」

ティナは美しいカーテシーを披露した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...