【完結】歴史が変わりますが神の願いなのでどうぞご了承ください

志波 連

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侍女頭との再会

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「ロア殿?ロア?そろそろ起きてください」

「えっ・・・ああ・・・もう到着したのですね?すみません熟睡してました・・・」

「いえ大丈夫ですよ。しかし本当に良く眠っていましたね・・・かなり揺れましたが全く起きる気配もなくて」

「あ・・・お恥ずかしい・・・このところ色々あって気を張っていたので・・・」

「それはそうでしょうね。でももう大丈夫です。もうすぐ母の家ですから」

「お母さまは・・・えっと・・・申し訳ないのですがお名前さえ知らなくて・・・幼い私を助けて下さったという事は承知しているのですが・・・」

「ロア殿、それはどうかお気になさらず。母はあなたを守って屋敷を追われた事を誇りに思っていましたから。今のあなたを見たら涙を流して喜ぶでしょう」

「喜んでいただけるような状況でも無いような気もしますが・・・とにかくお目に掛かってお礼を言わせてください」

「きっと喜びますよ」

「お母さまは・・・お元気なのでしょうか?」

「あまり連絡を取り合うことも無いのですが、近々行くことは手紙で知らせています。返事が来る前に慌ただしく出てしまいましたが」

「そうですか」

「ああ、もう停車場ですね。そろそろ準備をしましょう」

馬車が速度を落としゆっくりと停まった。
立ち上がろうとしたティナは長い時間座り続けたせいでよろけてしまった。
足に力が入らない。

(快適なクッションを発明すればバカ高く売れるわ・・・ジェルクッションってこの世界の材料だけで作れるかしら・・・それとも馬車用のサスペンションを考えたほうが良いかしらね)

馬車のドアが開き明るい日差しが差し込んだ。

「良い天気で何よりです。さあ行きましょうか、ロア殿」

マダムラッテの甥であり、ティナロアを守り抜いたランバーツ家侍女頭ロージーの息子であるアランが手を差し伸べる。

「ありがとうございます。アラン様」

ティナが差し出された手を取り馬車を降りた。

「ここは?」

「ああ、母は教会で住込みの仕事をしているのですよ。敬虔な信者である母にとって教会で働くことは喜びだと言っていました」

「そうですか。修道女をしておられるのですか?」

「はい。宿舎は教会の裏手です」

ロージーの部屋に向かう前に教会に立ち寄りお祈りを捧げた。
幾人もの信者たちが祈りを捧げに訪れている。
かなり規模の大きな教会で、ステンドグラスがとても美しい。

「あら、アラン様?アラン様ではないですか。お久しぶりですね」

「ああ、シスター・ララ。ご無沙汰しています」

「お母さまにお会いに来られたのですね?そちらは・・・婚約者の方かしら?」

「ハハハ・・・こちらは母に所縁のある方で、私ごときの婚約者などとは恐れ多い方です」

「まあ、それは大変失礼しました。お母さまはお部屋におられると思いますよ」

「ありがとうございます」

にこやかに会釈するシスターに見送られながら教会を出たアランとティナは宿舎に向かった。
シスターたちの住まいは質素な建屋ではあるが、きちんと手入れの行き届いた清潔な作りだった。

「母さん。来たよ。元気にしていたかい?」

ベッドに腰かけていたロージーがゆっくりと立ち上がる。

「ああ、アラン。来てくれたのね・・・あら?そちらは?」

「母さん。紹介するよ。きっと驚くよ・・・レディ・ティナロア様だ」

「‥‥‥レディ?・・・ティナロア・・・ま・・・まさか!」

「そうさ、そのまさかだよ。いつも母さんが話してくれたティナロアお嬢様だ」

ロージーは震える手をティナに向かって差し出しよろよろと歩み寄る。

(この方が・・・まあ私は初対面なんだけど・・・綺麗な方ね・・・)

「お久しぶりです。ロージー様。あなたに助けられたティナロア・ランバーツです。お会いしたかった・・・本当に・・・ありがとうございました・・・私が生きているのもあなたの・・・」

しどろもどろに挨拶をするティナをロージーは抱きしめた。

「本当に?本当にあなた様がティナロアお嬢様ですか?・・・ああ・・・神よ・・・感謝します。そうね、リリア様に良く似ていらっしゃる。目も髪も体つきも・・・ああ・・・神様・・・」

どこにそんな力があるのかと思うほどぎゅうぎゅうと抱きしめられティナは驚いた。

(これほどまでにティナロアの事を大切に思ってくれていたのね・・・ティナロアも喜んでいるに違いないわ)

泣き止まない母と抱きしめられ苦笑いするティナを見てアランが口を開いた。

「母さん。もう・・・それくらいにしないとティナロアお嬢様が窒息しちゃうよ。それより馬車の長旅でお疲れなんだ。お茶を淹れてくれないか?」

「あっ!そうね・・・そうだわ。お嬢様・・・大変失礼いたしました。どうぞこちらにお掛けになって。アランは私のベッドに座ってちょうだい。お湯を貰って来るわね」

ポットを持っていそいそと部屋を出るロージーの背を見ながら二人は顔を見合わせて笑った。

「あんなに嬉しそうな母は久しぶりです。ありがとうございます。ロア殿」

「いいえ・・・そんなこと・・・もっときちんとお礼を言わなくてはいけないのに・・・どうも実感が湧かなくて」

「それはそうでしょうとも。でもこれからは王都におられうのですから、時々見舞ってやってくださいね」

「勿論です。そういえば住むところを探さないと・・・仕事も・・・」

「それはお手伝いしますよ。こちらには友人もたくさんいますし。それまでは近くの宿を取りましょう」

ロージーの帰りを待ちながら取り留めのない話をしている時、勢いよくドアが開けられた。
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