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王杖の行方

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ハーベストの執務室の扉がノックも無く乱暴に開かれた。

「殿下!動きました!」

ソファに体を沈めていたハーベストが勢いよく立ち上がった。

「良し!計画通りだな」

そう言うと側に立っていたキリウスに目配せをする。
何も言わず小さく頷いたキリウスが報告に来た騎士と一緒に部屋を出た。

「やっと動いたか・・・皇太后にしては鈍いな・・・何か奥の手でもあるのか?」

ハーベストはそう呟きながら机に戻った。
飾り棚に立てかけてあった剣を装着しながら窓の外を見る。
ハーベストの部屋から噴水と庭園を挟んで見える宮殿が宝物殿だ。
広い堀に囲まれた宝物殿に入るには小さな石橋を渡るしかない。
その石橋をぐるりと囲み守っているのはハーベストを支持している騎士たちだ。
王宮で保持している騎士団は全てハーベストの手中にあった。

「正面突破か?」

慌ただしい動きを見せる噴水の周りを眺めながらハーベストはにやりと笑った。
キリウスが騎士たちの所に到着した。
責任者である騎士団長と話しをしている様子を見てハーベストは机に戻る。
王位継承権の保有を意味する王杖が納められている宝物殿はハーベスト派が、宝物殿の鍵は皇太后が推す第二王子のハーベン派が所有している現在、どちらの派閥につくのが得策か迷っている貴族が多い。

「さあさあ、ハッキリ態度を示せよ?」

王宮の広間に続々と集まってくる貴族たちも生存を賭けて必死の形相だ。
そろそろ全ての貴族が大広間に集まった頃かと思っていた時、キリウスが執務室に入ってきた。

「そろそろ皇太后が部屋を出ますよ。皇太后の手駒は我々騎士団の倍というところでしょう。宝物殿に向かうはずです。見物に行かれますか?」

「ああ、それも良いな」

「あなたという人は・・・本当に皇帝になりたくないのですねぇ・・・困った人だ」

「面倒だろ?俺は戦場にいる方が生きている気がするんだ。しかし戦争はもうやめるからなぁ・・・暇も嫌だし・・・参ったな・・・」

「だったら大人しく皇帝やっていれば良いでしょう?国を安定させるにはそれしかないです。だって考えてもみてください。ハーベン王子が皇帝になったら・・・三年持ちますかね」

「ああ、あいつが実権を握ったら無理だろうな・・・しかし傀儡で満足するならもっと行けるんじゃないか?」

「皇太后の思い通りになる国ですか?それこそ一年も持ちませんよ」

「う~ん・・・縁故採用と賄賂まみれの腐ったアルベッシュ国かぁ・・・それも困るな」

「だから!」

「はいはい!わかったよ!なりますなります。で?そろそろ大広間か?」

「いえ、まだ早いでしょう。あまりにあっさり引き上げると怪しまれるので、適度に抵抗するよう団長には言いました」

「なかなか芸が細かいな・・・では俺は正装に着替えるとするか」

「またお迎えに上がりますのでよろしくお願いします」

ハーベストはニヤニヤしながら立ち上がりクローゼットに向かった。
ハーベストは白い衣装が良く似合う。
金髪碧眼のハーベストが正装すると正しく王子様という神々しさが滲み出る。
金色の縁取りも豪華な衣装を身にまとい、髪をしっかりと撫でつけた。

「殿下!そろそろ行きましょう」

「わかった。王杖は誰が持っている?」

「皇太后です」

「ハーベンは?」

「側近と共に大広間に向かわれました」

「リリベルは?」

「ハーベン殿下と一緒に向かわれましたよ」

「もう隠す気も無いのか・・・舐められたものだ」

ハーベストが片眉をあげてキリウスを見た。
キリウスは肩を竦めながら溜め息を吐いた。

「リリベル嬢はハーベスト殿下の婚約者なのに・・・困った人ですね」

「それはハーベンも悪いだろう?俺が留守の間に手を出したのだから」

「出されて受け入れる方もどうかと思いますよ?」

「まあなぁ~。俺は彼女の手しか触れたことが無いがあいつは体の隅々まで知っているというわけか・・・ハハハ・・・なんか笑えるな」

「ハーベン殿下に乗り換えたのはリリベル嬢の実家であるアンダンテ侯爵家の差し金でしょうか?」

「どうかな・・・リリベルがハーベンとデキたのが先かもしれんな」

「まあどちらでも良いですけど」

「ああ、本当にどうでもいいな。さあ!決着をつけるか!」

「はい」

二人は大広間に向かってゆっくりと歩を進めた。
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