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王都へ
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使用人というより最早同志の三人はそれぞれの役割を淡々と実行した。
それを見たテラは、決意を新たに部屋に戻り衣装を整えジャルジュの急襲に備える。
ティナも自室に戻りドレス以外の衣類を纏めてバッグに詰め込む。
怒涛のような月日を思い返し、少し感傷的な気分になった。
ネックレスを強く握り神に話しかける。
「出でよ!大魔神!」
「はいはい、あなたのアイドル大魔神でございますよ!お前なぁ~この状況で・・・ホント緊張感無いなぁ」
「あら、結構焦ってるわよ?」
「そうか?まあいいや。で?もう出るのか?」
「うん。だってジャルジュが来るかもしれないでしょう?」
「うん。たぶん来ないけれど備えあれば憂いなしだな」
「あら?来ないの?」
「ああいった奴らは予想外の動きをするからなぁ・・・でもさっき様子を見たらべろべろに酔っぱらってたぞ?」
「ああ・・・良かった・・・少し安心して行動できるわね」
「で?お前は明日発つのか?」
「ええ、とりあえず王都に向かって・・・マダムラッテのお姉さんのところに行くつもり」
「ああ、元侍女頭だったな・・・彼女もあまり長くは無いからなぁ・・・息子が同行するんだろ?親孝行しろって言ってやれよ」
「長くないの?死ぬってこと?」
「死ぬ・・・うん。まあ寿命だな」
「そう・・・ティナロアを育ててもらったらしいし、守ってもくれたらしいから・・・私からもお礼を言っておくわ」
「ああ、そうしてやれ。まあ気を付けて行けよ。道中は何事も無いように俺の加護を与えておくよ」
「ありがとう。案外優しいのね」
「俺はいつも優しいよ?」
「はいはい。じゃあまた呼ぶわ」
「ああ。頑張ってくれ・・・アッ!そうだ。聞こうと思ってたことがあった」
「何よ?」
「ハーベストっていう王子様・・・あいつ上手だった?」
「・・・教えない」
荷物を持ってティナは立ち上がった。
神が消えた空間を振返りふっと大きく息を吐いた。
何もない部屋を見渡しそっと小さな声で呟いた。
「ティナロアお嬢様。もうこの屋敷に未練はありませんか?あなたの体は私と一緒に王都に行きますよ。もうここに戻ることはありません」
勿論返事はない。
しかしティナには見えないティナロア嬢の魂がぽっと温かくなったような気がした。
「じゃあ行くよ?頑張ろうね!」
今度は少し大きな声を出した。
廊下で音がして振返るとテラが立っていた。
「ロア様。もう行かれるのですね。改めてお礼とお詫びを・・・」
「えっ!テラ、お詫びを言わなくてはいけないのはこちらだわ。本当にいろいろありがとう。そして身代わりを押し付けたこと・・・ごめんなさい」
「いいえ、押し付けられていません。自分から手をあげたことですし、目立って嫌いだった黒髪を好きになれましたよ。ロア様のお陰です」
「・・・テラ、お互い幸せになりましょうね!」
「はい。ロア様もお気をつけて・・・死ぬまでにもう一度会いましょうね」
「そうね。死ぬまでには会いたいわね」
二人は抱き合って別れを惜しんだ。
ビスタとテラに見送られティナは馬に跨った。
ジャルジュの手下が見ていることを考慮し、あくまでもハーベストの側近として振舞い、二人もそのように挨拶をした。
門を出るときに胸に迫るものがあったのはティナの気持ちなのかティナロア伯爵令嬢の魂の震えなのか。
ティナは一度振り返り馬を駆った。
それを見たテラは、決意を新たに部屋に戻り衣装を整えジャルジュの急襲に備える。
ティナも自室に戻りドレス以外の衣類を纏めてバッグに詰め込む。
怒涛のような月日を思い返し、少し感傷的な気分になった。
ネックレスを強く握り神に話しかける。
「出でよ!大魔神!」
「はいはい、あなたのアイドル大魔神でございますよ!お前なぁ~この状況で・・・ホント緊張感無いなぁ」
「あら、結構焦ってるわよ?」
「そうか?まあいいや。で?もう出るのか?」
「うん。だってジャルジュが来るかもしれないでしょう?」
「うん。たぶん来ないけれど備えあれば憂いなしだな」
「あら?来ないの?」
「ああいった奴らは予想外の動きをするからなぁ・・・でもさっき様子を見たらべろべろに酔っぱらってたぞ?」
「ああ・・・良かった・・・少し安心して行動できるわね」
「で?お前は明日発つのか?」
「ええ、とりあえず王都に向かって・・・マダムラッテのお姉さんのところに行くつもり」
「ああ、元侍女頭だったな・・・彼女もあまり長くは無いからなぁ・・・息子が同行するんだろ?親孝行しろって言ってやれよ」
「長くないの?死ぬってこと?」
「死ぬ・・・うん。まあ寿命だな」
「そう・・・ティナロアを育ててもらったらしいし、守ってもくれたらしいから・・・私からもお礼を言っておくわ」
「ああ、そうしてやれ。まあ気を付けて行けよ。道中は何事も無いように俺の加護を与えておくよ」
「ありがとう。案外優しいのね」
「俺はいつも優しいよ?」
「はいはい。じゃあまた呼ぶわ」
「ああ。頑張ってくれ・・・アッ!そうだ。聞こうと思ってたことがあった」
「何よ?」
「ハーベストっていう王子様・・・あいつ上手だった?」
「・・・教えない」
荷物を持ってティナは立ち上がった。
神が消えた空間を振返りふっと大きく息を吐いた。
何もない部屋を見渡しそっと小さな声で呟いた。
「ティナロアお嬢様。もうこの屋敷に未練はありませんか?あなたの体は私と一緒に王都に行きますよ。もうここに戻ることはありません」
勿論返事はない。
しかしティナには見えないティナロア嬢の魂がぽっと温かくなったような気がした。
「じゃあ行くよ?頑張ろうね!」
今度は少し大きな声を出した。
廊下で音がして振返るとテラが立っていた。
「ロア様。もう行かれるのですね。改めてお礼とお詫びを・・・」
「えっ!テラ、お詫びを言わなくてはいけないのはこちらだわ。本当にいろいろありがとう。そして身代わりを押し付けたこと・・・ごめんなさい」
「いいえ、押し付けられていません。自分から手をあげたことですし、目立って嫌いだった黒髪を好きになれましたよ。ロア様のお陰です」
「・・・テラ、お互い幸せになりましょうね!」
「はい。ロア様もお気をつけて・・・死ぬまでにもう一度会いましょうね」
「そうね。死ぬまでには会いたいわね」
二人は抱き合って別れを惜しんだ。
ビスタとテラに見送られティナは馬に跨った。
ジャルジュの手下が見ていることを考慮し、あくまでもハーベストの側近として振舞い、二人もそのように挨拶をした。
門を出るときに胸に迫るものがあったのはティナの気持ちなのかティナロア伯爵令嬢の魂の震えなのか。
ティナは一度振り返り馬を駆った。
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