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ハーベストの懐中時計
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「ただいまぁ~」
ティナが呑気な声で厨房を覗く。
ビスタとテラ、呼び出されたリアとリアの夫になったジャンが顔を揃えていた。
「ん?何事?」
「お嬢様・・・殿下たちがご出立になりました」
「そ・・・そうなの・・・思ってたより早いわね」
「ご存知だったのですか?そういえば先日も・・・」
「いいえ、でもお店で少し噂を聞いて・・・ってまあそのことは良いわ。これからのことを話しましょう」
四人が真剣な顔でティナを見た。
「明日からの事を話すわね。おそらく彼らが出たことは既にジャルジュの耳に入っていると思うわ。今にも乗り込んでくるかもしれない状態だと思って頂戴」
四人は息を呑んだ。
「テラ・・・悪いけど・・・覚悟を決めて欲しいの・・・」
「勿論です。お嬢様、私は大丈夫」
「ああ・・・テラ・・本当に・・・申し訳ないわ・・・」
また泣きそうになるティナに向かってリアが強い口調で言った。
「お嬢様!しっかりなさいませ!それで?私達はどのようにすれば良いのですか?」
「ええ・・・そうね。ごめんなさい。リアとジャンはクラブDに行ってマダムラッテにこの状況を知らせてから家に戻りなさい。ここにいてはいけないわ」
「はい」
「ビスタは・・・申し訳ないけどここに残って・・・もし奴らが着たら抵抗などしないで入れてしまいなさい」
「はい」
「テラも・・・お願いね」
「お任せください」
「お嬢様はどうされるのですか?」
ビスタが不安そうな顔で尋ねた・
「私は今から準備をしてすぐに出るわ。見張っている奴らが怪しむといけないから男装して馬を使います。もし何か言われたら殿下の小姓だけが後始末で残っていたけれど、すぐに後を追って出立したと言って頂戴」
「わかりました。それでどちらに向かわれるのですか?」
「明日の昼の駅馬車で王都に向かうから・・・今夜はリアの所に泊めてもらいたいの」
「勿論です。ビスタ叔父さんのための部屋を準備しましょう。良いわよね?叔父さん」
「ああ、もちろんだとも」
「悪いわね・・・みんな・・・本当にありがとう。それとこれなんだけど・・・」
ティナはマダムラッテから渡された宝石箱をバッグから取り出した。
「この宝石は価値が高いらしいからお金になると思うわ。退職金だと思って受け取って」
テラにはペンダントを、ビスタにはブローチを渡す。
リアとジャンにはそれぞれ指輪を渡した。
それでもティナの手元にはまだ数点の宝石が残っている。
一番高価だと言われたサファイアは手元に残した。
「お嬢さま!これ以上はいただけません!もう十分にしていただいておりますから」
全員が遠慮したがティナは譲らなかった。
「お願い。受け取って欲しいの。この先で困ったら売ればいいわ。何があるかわからないから現金より宝石の方が隠しやすいでしょう?」
「お嬢様・・・」
「本当にありがとう。一度死んで生まれ変わったような私を信じてくれたことを感謝します。もう会えないかもしれないけど健康には気を付けて・・・楽しい人生をおくってね」
「お嬢様こそ・・・お体を大切に。無茶なことはしないでくださいね」
リアとテラが抱きついて泣いている。
ビスタもジャンも泣いていた。
「お嬢さま。ハーベスト殿下からご伝言と預かり物があります」
「ハーベストさまから?」
「はい。この懐中時計はハーベスト殿下の関係者だという事を証明するものだそうです。殿下の紋章が刻まれている大切なものだそうです」
「殿下の紋章が・・・そんな大事なものを・・・」
「はい。必ず迎えに来るから・・・1年待ってほしいと仰いました。そして居場所を私に把握しておくよう命じられました」
「そうね・・・王都に行って落ち着いたら手紙を書くわ」
「必ずお願いします」
「ええ、リアの所に送ればいいわね?少し時間が掛かるかもしれないけど・・・必ず知らせるわね」
「お待ちしています」
「ビスタは明日の昼頃までは屋敷にいてね。その後はマダムラッテが人を寄越してくれることになっているから」
テラがニコっと笑って言った。
「ああ、姐さんたちが来るんですね?予定通り」
「ええ、そうよ。全て予定通り。ではこれで解散しましょう。みんな・・・元気でね。幸せになりましょうね」
「「「「はい」」」」
リアとジャンはクラブDに向かい、ビスタはロビーの片付けを始めた。
ティナが呑気な声で厨房を覗く。
ビスタとテラ、呼び出されたリアとリアの夫になったジャンが顔を揃えていた。
「ん?何事?」
「お嬢様・・・殿下たちがご出立になりました」
「そ・・・そうなの・・・思ってたより早いわね」
「ご存知だったのですか?そういえば先日も・・・」
「いいえ、でもお店で少し噂を聞いて・・・ってまあそのことは良いわ。これからのことを話しましょう」
四人が真剣な顔でティナを見た。
「明日からの事を話すわね。おそらく彼らが出たことは既にジャルジュの耳に入っていると思うわ。今にも乗り込んでくるかもしれない状態だと思って頂戴」
四人は息を呑んだ。
「テラ・・・悪いけど・・・覚悟を決めて欲しいの・・・」
「勿論です。お嬢様、私は大丈夫」
「ああ・・・テラ・・本当に・・・申し訳ないわ・・・」
また泣きそうになるティナに向かってリアが強い口調で言った。
「お嬢様!しっかりなさいませ!それで?私達はどのようにすれば良いのですか?」
「ええ・・・そうね。ごめんなさい。リアとジャンはクラブDに行ってマダムラッテにこの状況を知らせてから家に戻りなさい。ここにいてはいけないわ」
「はい」
「ビスタは・・・申し訳ないけどここに残って・・・もし奴らが着たら抵抗などしないで入れてしまいなさい」
「はい」
「テラも・・・お願いね」
「お任せください」
「お嬢様はどうされるのですか?」
ビスタが不安そうな顔で尋ねた・
「私は今から準備をしてすぐに出るわ。見張っている奴らが怪しむといけないから男装して馬を使います。もし何か言われたら殿下の小姓だけが後始末で残っていたけれど、すぐに後を追って出立したと言って頂戴」
「わかりました。それでどちらに向かわれるのですか?」
「明日の昼の駅馬車で王都に向かうから・・・今夜はリアの所に泊めてもらいたいの」
「勿論です。ビスタ叔父さんのための部屋を準備しましょう。良いわよね?叔父さん」
「ああ、もちろんだとも」
「悪いわね・・・みんな・・・本当にありがとう。それとこれなんだけど・・・」
ティナはマダムラッテから渡された宝石箱をバッグから取り出した。
「この宝石は価値が高いらしいからお金になると思うわ。退職金だと思って受け取って」
テラにはペンダントを、ビスタにはブローチを渡す。
リアとジャンにはそれぞれ指輪を渡した。
それでもティナの手元にはまだ数点の宝石が残っている。
一番高価だと言われたサファイアは手元に残した。
「お嬢さま!これ以上はいただけません!もう十分にしていただいておりますから」
全員が遠慮したがティナは譲らなかった。
「お願い。受け取って欲しいの。この先で困ったら売ればいいわ。何があるかわからないから現金より宝石の方が隠しやすいでしょう?」
「お嬢様・・・」
「本当にありがとう。一度死んで生まれ変わったような私を信じてくれたことを感謝します。もう会えないかもしれないけど健康には気を付けて・・・楽しい人生をおくってね」
「お嬢様こそ・・・お体を大切に。無茶なことはしないでくださいね」
リアとテラが抱きついて泣いている。
ビスタもジャンも泣いていた。
「お嬢さま。ハーベスト殿下からご伝言と預かり物があります」
「ハーベストさまから?」
「はい。この懐中時計はハーベスト殿下の関係者だという事を証明するものだそうです。殿下の紋章が刻まれている大切なものだそうです」
「殿下の紋章が・・・そんな大事なものを・・・」
「はい。必ず迎えに来るから・・・1年待ってほしいと仰いました。そして居場所を私に把握しておくよう命じられました」
「そうね・・・王都に行って落ち着いたら手紙を書くわ」
「必ずお願いします」
「ええ、リアの所に送ればいいわね?少し時間が掛かるかもしれないけど・・・必ず知らせるわね」
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テラがニコっと笑って言った。
「ああ、姐さんたちが来るんですね?予定通り」
「ええ、そうよ。全て予定通り。ではこれで解散しましょう。みんな・・・元気でね。幸せになりましょうね」
「「「「はい」」」」
リアとジャンはクラブDに向かい、ビスタはロビーの片付けを始めた。
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