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ハーベストとの一夜

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「へぇ~王子様でもそんな悪戯をすることがあるんですね」

ワインのせいで頬を赤く染めたテラがほわほわと笑いながら言う。

「今のなんて可愛いですよ?ハーベスト殿下の悪戯はかなり渋かったですからねぇ」

上機嫌でそう言うキリウスを苦々しい顔でハーベストが睨んだ。

「お前だって共犯だっただろう?」

「私は共犯というより脅されて手伝わされた被害者ですからね?」

「一緒に並んで王宮の広間で正座した仲じゃないか。つれない奴だな」

「あの時は結局ハーベン殿下が摑まってバレたのでしたよね?」

「ああ、ハーベンはノロマな奴だからな」

「執務が面倒で騎士たちと戦場にばかり行きたがる兄をフォローしている健気な弟ですよ?」

「健気?お前の持つ辞書には健気とは女に手が早いという意味で記載されているのか?」

「ははは・・・まあそこは否定しません」

男たちが心から楽しそうに笑う姿を見詰めながらティナは前世の自分を思っていた。

(友達ってこんな感じなのかしら・・・私には本当の意味での友達はいなかったのかもしれないわね)

「どうしました?ティナ」

「いいえ・・・お二人は本当に良いお友達なんだなって・・・」

「ははは良いかどうかはわかりませんが。この世の中で一番信用している男ではありますね」

先ほどまでの重苦しい空気を替えようとしているのか、ハーベストもキリウスもテラの明るく楽しそうに振舞っている。
そんな三人の顔を見ながらティナは有難くも申し訳なさで一杯になっていた。

「ロアさん・・・ロアさん?」

テラが呼んでいる。

「ああ・・・ごめんなさい。少し酔ったのかしら・・・」
「私はもう十分いただいたので先に休みますね?」

テラが立ち上がった。
酔っているのだろう、少し足元がおぼつかない。

「ティナロア嬢、お部屋までおくりますよ」

キリウスが立ち上がってテラの手をとった。
テラが貴族令嬢らしくエスコートに応じるお辞儀をして二人は笑い合っている。

(テラ・・・ありがとう)

二人を見送るティナの横顔をハーベストが見詰めていた。

「ティナ・・・私たちも休みましょうか?」

「そう・・・ですね。ハーベスト様もお疲れでしょう。私を励ますためにお付き合いくださって・・・本当にありがとうございました」

「いいえ、私はティナと一緒に過ごせるだけでとても幸せな気持ちでしたよ」

「そういっていただけると・・・助かります・・・」

「ティナ、今後はどうするのですか?いつ頃出発する予定ですか?」

「ええ、できるだけ早く発つ予定です」

「ひとりで?」

「はい。でも行きはマダムラッテの甥御さんが王都に向かうのに便乗させていただく予定です」

「いくらマダムの甥御さんとはいえ・・・男と二人で何日も旅をするのですか?」

「女ひとりより安全だと思います。それに乗合馬車を使うので・・・どちらにしても絶対安全という方法はありませんし」

「‥‥‥‥心配です、ティナ。私たちも今月末には王都に向かう予定なのです。良ければ一緒に行きませんか?」

「有難いお話しですが・・・(あなたたちは明後日には急遽帰国するのよ)」

「私があなたをお守りしたいのです」

「ハーベスト様・・・」

「あなたを守る許可をいただけませんか?ティナ」

「私には・・・守られるほどの価値が・・・ありません」

「価値がない?ティナに?あなたは自己評価が低すぎますね」

「ハーベスト様?」

「ティナ、あなたは美しいご令嬢です。少し細すぎるような気もしますがそれも庇護欲を煽りますしね。ティナ・・・私はあなたの全てが愛おしいと思っています」

ティナは真っ赤な顔をして俯いた。

(この時代の王子様って・・・こんな歯の浮くようなセリフを真顔で言うの???)

「どうしました?ティナ。私は正直に気持ちをお伝えしているだけです」

「私・・・自分の事をそんな風に言ってもらえるなんて・・・信じられません・・・」

「信じてください。ティナ・・・」

ハーベストがティナの手を引いて胸に抱き寄せた。
ティナはハーベストに抱きしめられたまま動けずにいる。

(やっぱ・・・やっちゃう?もうお別れだし・・・ああ、どうしよう・・・う~ん・・・)

良心と理性と本能がせめぎ合い頭の中がぐるぐるしているティナをハーベストが抱き上げた。

「もう我慢できそうにありません。ティナ・・・今宵あなたを抱きます」

「ハ・・・ハーベスト・・・さま?」

「言い訳は聞きません」

ハーベストはティナの唇を自らの唇で塞ぎ黙らせた。
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