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黒髪のご令嬢とマダムの笑えないジョーク
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ステージの隙間から指定されたテーブルの令嬢を確認し、渡されたプレゼントを開く。
プレゼントの箱は既にスタッフにより開けられていたが、添えられたカードはそのまま担っている。
大きなサファイアがあしらわれたブローチに添えられたカードには美しい文字で愛の言葉が掛かれていた。
『愛しいロア様 私の心をあなたに捧げます』
これは3番テーブルのご令嬢からのものだった。
自分の瞳の色と同じ宝石を贈るという事は、自分を独占してほしいという気持ちと捉えるしかない。
「重たい・・・」
これを付けるという事はその想いを受け止めるという事になる。
今まではお金のためと割り切っていたが、今夜は少し後ろめたさを感じてしまう。
(辞めるって決めたからかしら・・・)
ティナはじっとブローチを見詰めていたが、思い切るようにタイの結びめに着けて立ち上がった。
店内は薄暗くピアニストロアの登場を待つばかりだった。
ティナは大きく息を吐きステージに向かった。
ピアノの前まで行く間もずっと3番テーブルの黒髪の令嬢を見詰める。
これはいつものルーティーンだ。
しかし今日はいつもと少し違う心境になっているせいか、令嬢を見詰める目線が憂いを含んでいた。
フロア内に小さな溜め息が幾つも生まれては消えて行った。
黒髪の令嬢から目を離し、会場をぐるっと一回り見渡してから静かにピアノに向かう。
今日のロアの衣装は市井の青年風の白いシャツと濃紺のトラウザーズだ。
貴族のご令嬢が平民の美しい青年と恋をするというシチュエーションを演出したいというマダムラッテの提案によるものだった。
(ホント商売人よね・・・乙女心をよく理解しておられるわ・・・)
ティナは再び3番テーブルに視線を送ってから弾き語りを始めた。
彼女に捧げる曲に選んだのは『Honesty』だ。
(私ほど不誠実な人間はいないかもしれないけどね・・・)
心の叫びのようなサビの部分で黒髪のご令嬢を見詰める。
ティナは少なからず良心の呵責を覚えた。
その後数曲弾いて1回目のステージを終えたティナは控室に向かわず、バーカウンターに座った。
「珍しいじゃないですか。何か飲まれますか?」
「なんだか今日は心が痛いというか・・・重たいというか・・・あまりお酒は強くないので優しいものをお願いできますか?」
「畏まりました・・・ロア殿は黒髪がお好きなんですね?ご自分と同じだからでしょうか?」
「いや・・・そういうわけでは無いのですが・・・なんとなくです」
「ロア殿もそうですが黒髪ってなんというか・・・そそりますよね」
「そそりますか」
「ええ、あのまっすぐな黒髪に強い意志のようなものを感じます。エキゾチックですしね。この地方じゃ珍しいでしょう?」
「そうかもしれませんね。あまり見かけないですよね。私は母の黒髪を受け継いだのですが、母は東方の出身だという事です。まあ、生まれてすぐに生き別れたので顔も知らないのですが・・・」
「あっ・・・言いにくい事聞いちゃいましたね。すみません」
「いいえ、別に大丈夫です。それにこの黒髪は結構気に入っているので」
「それなら良かった・・・これはオレンジジュースをベースにしたお酒です。飲みやすいので気を付けてくださいね」
「ありがとう。いただきます」
カウンターに寄りかかりながらバーテンダーと会話を楽しんでいたティナの横にマダムラッテが座った。
「ロア・・・今夜も素敵だったわね。それにしても自分の瞳の色の宝石を贈るなんて・・・彼女も大胆よね?どう?一晩くらい相手をして差し上げる?」
「マ・・・マダム・・・私には無理ですよ?」
「あら、自分は脱がなければいいのよ。指と口だけで十分よ?」
「いや・・・勘弁してください・・・」
「ほほほ!冗談よ」
赤くなったり青くなったりするティナの顔色を楽しむかのようにマダムラッテが笑った。
プレゼントの箱は既にスタッフにより開けられていたが、添えられたカードはそのまま担っている。
大きなサファイアがあしらわれたブローチに添えられたカードには美しい文字で愛の言葉が掛かれていた。
『愛しいロア様 私の心をあなたに捧げます』
これは3番テーブルのご令嬢からのものだった。
自分の瞳の色と同じ宝石を贈るという事は、自分を独占してほしいという気持ちと捉えるしかない。
「重たい・・・」
これを付けるという事はその想いを受け止めるという事になる。
今まではお金のためと割り切っていたが、今夜は少し後ろめたさを感じてしまう。
(辞めるって決めたからかしら・・・)
ティナはじっとブローチを見詰めていたが、思い切るようにタイの結びめに着けて立ち上がった。
店内は薄暗くピアニストロアの登場を待つばかりだった。
ティナは大きく息を吐きステージに向かった。
ピアノの前まで行く間もずっと3番テーブルの黒髪の令嬢を見詰める。
これはいつものルーティーンだ。
しかし今日はいつもと少し違う心境になっているせいか、令嬢を見詰める目線が憂いを含んでいた。
フロア内に小さな溜め息が幾つも生まれては消えて行った。
黒髪の令嬢から目を離し、会場をぐるっと一回り見渡してから静かにピアノに向かう。
今日のロアの衣装は市井の青年風の白いシャツと濃紺のトラウザーズだ。
貴族のご令嬢が平民の美しい青年と恋をするというシチュエーションを演出したいというマダムラッテの提案によるものだった。
(ホント商売人よね・・・乙女心をよく理解しておられるわ・・・)
ティナは再び3番テーブルに視線を送ってから弾き語りを始めた。
彼女に捧げる曲に選んだのは『Honesty』だ。
(私ほど不誠実な人間はいないかもしれないけどね・・・)
心の叫びのようなサビの部分で黒髪のご令嬢を見詰める。
ティナは少なからず良心の呵責を覚えた。
その後数曲弾いて1回目のステージを終えたティナは控室に向かわず、バーカウンターに座った。
「珍しいじゃないですか。何か飲まれますか?」
「なんだか今日は心が痛いというか・・・重たいというか・・・あまりお酒は強くないので優しいものをお願いできますか?」
「畏まりました・・・ロア殿は黒髪がお好きなんですね?ご自分と同じだからでしょうか?」
「いや・・・そういうわけでは無いのですが・・・なんとなくです」
「ロア殿もそうですが黒髪ってなんというか・・・そそりますよね」
「そそりますか」
「ええ、あのまっすぐな黒髪に強い意志のようなものを感じます。エキゾチックですしね。この地方じゃ珍しいでしょう?」
「そうかもしれませんね。あまり見かけないですよね。私は母の黒髪を受け継いだのですが、母は東方の出身だという事です。まあ、生まれてすぐに生き別れたので顔も知らないのですが・・・」
「あっ・・・言いにくい事聞いちゃいましたね。すみません」
「いいえ、別に大丈夫です。それにこの黒髪は結構気に入っているので」
「それなら良かった・・・これはオレンジジュースをベースにしたお酒です。飲みやすいので気を付けてくださいね」
「ありがとう。いただきます」
カウンターに寄りかかりながらバーテンダーと会話を楽しんでいたティナの横にマダムラッテが座った。
「ロア・・・今夜も素敵だったわね。それにしても自分の瞳の色の宝石を贈るなんて・・・彼女も大胆よね?どう?一晩くらい相手をして差し上げる?」
「マ・・・マダム・・・私には無理ですよ?」
「あら、自分は脱がなければいいのよ。指と口だけで十分よ?」
「いや・・・勘弁してください・・・」
「ほほほ!冗談よ」
赤くなったり青くなったりするティナの顔色を楽しむかのようにマダムラッテが笑った。
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