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可愛そうなティナロアお嬢様
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「たった一歳で置き去りにされたティナロア様は当時の侍女長と私で貰い乳をしてお育て致しました。二年ほどして戻って来られたベルーシュ奥様は、ティナロア様が生きていることに大変なご立腹で・・・育てた侍女長を解雇されてました。私が残っているのは彼女が全て自分ひとりでやったと言ったからです。卑怯な男だと思われるでしょうが、私だけでも残らないとティナロアお嬢様は殺されてしまうという侍女長の言葉に従ったのです」
「ああ・・・今のティナがあるのはお二人のお陰なのだな・・・」
「しかし私だけでお守りできるわけもありません。ティナロアお嬢様はずっと倉庫のような部屋で・・・食事も・・・酷く粗末な物で・・・逆らったと言いがかりをつけられ体罰も・・・」
「伯爵は・・・ランバーツは庇わなかったのか?父親だろうに・・・」
ハーベストが真っ青な顔で拳を握り、キリウスは唇を噛みしめている。
ビスタは涙で声にならなくなった。
そんなビスタの背を摩りながらリアが話を引き取った。
「伯爵さまは奥様に大変弱いのです。なので私を雇われました。私はティナロアお嬢様が10歳の時から御付の下女をしております」
「そうだったのか・・・あなたのようなしっかりした人が侍女なら彼女も助かっただろうな」
「いいえ、皇子殿下。私は下女なのです。お掃除や洗濯などはできるのですが、お身の回りのお世話は許されておりませんでした」
「それもベルーシュ殿の指図か?」
「はい。私が出過ぎたことをするとティナロアお嬢様に体罰が与えられるので・・・」
「なんとも酷い話だな・・・しかしティナロア嬢は伯爵令嬢として申し分ない教育を受けておられるようだが?」
「はい。それは長女のベラお嬢様がまったくお出来にならないためです。ベラお嬢様が嫁がれる時にティナロアお嬢様は侍女として従い、フォローをするために教育を一緒にお受けになりました。これも奥様の指示です」
ハーベストは開いた口が塞がらないといった顔をしている。
「三女のベニスお嬢様は気の小さな方なのですが、奥様やベラお嬢様と一緒になってティナロアお嬢様を虐待していました。ずっと・・・ずっとティナロアお嬢様は耐えておられたのです」
「なぜそこまで耐える必要があったのだ?俺なら・・・皆殺しにしている!」
キリウスが剣の柄を握った。
「それは・・・リリア様を人質にとられていたからです。従わないとリリア様を殺すと・・・」
「そんなバカな!リリアン妃はアルベッシュでかなり自由に暮らしておられたぞ?」
「えっっっっ!それでは・・・奥様の嘘?・・・そんな・・・」
リアは青ざめてふらふらと後ずさった。
今度はビスタが口を開く。
まるで練習したかのようなコンビネーションだがハーベストとキリウスには不自然に見えていないようだ。
「あれはティナロアお嬢様が15歳になられデビュタントを迎える年でした。奥様とお二人のお嬢様の浪費と度重なる隣国からの脅威に農民が領地を離れ始めた頃、伯爵さまは一発逆転とばかりに鉱山事業に投資されたのです。しかしこれが詐欺で・・・」
「なんと短慮な!」
「貯えは底をつき収入も激減しました。結局ティナロアお嬢様のデビュタントは見送られましたが、奥様達の浪費は続き伯爵さまは倒れておしまいになったのです」
「まあ・・・自業自得というところか」
「まったくその通りでございます。使用人はどんどん減らされましたが私達二人は給与を半分にされても残ったのです。ティナロアお嬢様をお守りするために」
「それは本当に・・・心から礼を言う」
「いえ・・・それほどまでにティナロアお嬢様はお可哀そうだったのです。なのに・・・奥様は家財全てと屋敷を売って実家に戻ると宣言されて・・・」
「なんという事だ!」
「代金の半額は既に支払われており、ティナロアお嬢様にはほんの数枚の金貨しかお渡しになりませんでした。それは本当に惨いことで、平民の家族がひと月も暮らせないほどでございます」
「それは・・・しかし私たちは十分なもてなしをいただいて・・・その金は?」
「‥‥‥‥」
ビスタもリアも口をつぐんだ。
「教えてくれ!例えどんな内容だったとしてもレディティナを悪く思う感情は持たないと誓う。もちろん口外もしない」
ビスタとリアは顔を見合わせ、再び小さく頷いた。
リアが恐る恐る口を開く。
「ティナロアお嬢様が・・・市場の食堂に働きに出て支えておられます・・・そして夜は社交クラブでピアノを弾いて・・・一日中働いてお金を稼いでおられるのです・・・」
「なんと・・・」
ハーベストとキリウスは愕然とした。
「ああ・・・今のティナがあるのはお二人のお陰なのだな・・・」
「しかし私だけでお守りできるわけもありません。ティナロアお嬢様はずっと倉庫のような部屋で・・・食事も・・・酷く粗末な物で・・・逆らったと言いがかりをつけられ体罰も・・・」
「伯爵は・・・ランバーツは庇わなかったのか?父親だろうに・・・」
ハーベストが真っ青な顔で拳を握り、キリウスは唇を噛みしめている。
ビスタは涙で声にならなくなった。
そんなビスタの背を摩りながらリアが話を引き取った。
「伯爵さまは奥様に大変弱いのです。なので私を雇われました。私はティナロアお嬢様が10歳の時から御付の下女をしております」
「そうだったのか・・・あなたのようなしっかりした人が侍女なら彼女も助かっただろうな」
「いいえ、皇子殿下。私は下女なのです。お掃除や洗濯などはできるのですが、お身の回りのお世話は許されておりませんでした」
「それもベルーシュ殿の指図か?」
「はい。私が出過ぎたことをするとティナロアお嬢様に体罰が与えられるので・・・」
「なんとも酷い話だな・・・しかしティナロア嬢は伯爵令嬢として申し分ない教育を受けておられるようだが?」
「はい。それは長女のベラお嬢様がまったくお出来にならないためです。ベラお嬢様が嫁がれる時にティナロアお嬢様は侍女として従い、フォローをするために教育を一緒にお受けになりました。これも奥様の指示です」
ハーベストは開いた口が塞がらないといった顔をしている。
「三女のベニスお嬢様は気の小さな方なのですが、奥様やベラお嬢様と一緒になってティナロアお嬢様を虐待していました。ずっと・・・ずっとティナロアお嬢様は耐えておられたのです」
「なぜそこまで耐える必要があったのだ?俺なら・・・皆殺しにしている!」
キリウスが剣の柄を握った。
「それは・・・リリア様を人質にとられていたからです。従わないとリリア様を殺すと・・・」
「そんなバカな!リリアン妃はアルベッシュでかなり自由に暮らしておられたぞ?」
「えっっっっ!それでは・・・奥様の嘘?・・・そんな・・・」
リアは青ざめてふらふらと後ずさった。
今度はビスタが口を開く。
まるで練習したかのようなコンビネーションだがハーベストとキリウスには不自然に見えていないようだ。
「あれはティナロアお嬢様が15歳になられデビュタントを迎える年でした。奥様とお二人のお嬢様の浪費と度重なる隣国からの脅威に農民が領地を離れ始めた頃、伯爵さまは一発逆転とばかりに鉱山事業に投資されたのです。しかしこれが詐欺で・・・」
「なんと短慮な!」
「貯えは底をつき収入も激減しました。結局ティナロアお嬢様のデビュタントは見送られましたが、奥様達の浪費は続き伯爵さまは倒れておしまいになったのです」
「まあ・・・自業自得というところか」
「まったくその通りでございます。使用人はどんどん減らされましたが私達二人は給与を半分にされても残ったのです。ティナロアお嬢様をお守りするために」
「それは本当に・・・心から礼を言う」
「いえ・・・それほどまでにティナロアお嬢様はお可哀そうだったのです。なのに・・・奥様は家財全てと屋敷を売って実家に戻ると宣言されて・・・」
「なんという事だ!」
「代金の半額は既に支払われており、ティナロアお嬢様にはほんの数枚の金貨しかお渡しになりませんでした。それは本当に惨いことで、平民の家族がひと月も暮らせないほどでございます」
「それは・・・しかし私たちは十分なもてなしをいただいて・・・その金は?」
「‥‥‥‥」
ビスタもリアも口をつぐんだ。
「教えてくれ!例えどんな内容だったとしてもレディティナを悪く思う感情は持たないと誓う。もちろん口外もしない」
ビスタとリアは顔を見合わせ、再び小さく頷いた。
リアが恐る恐る口を開く。
「ティナロアお嬢様が・・・市場の食堂に働きに出て支えておられます・・・そして夜は社交クラブでピアノを弾いて・・・一日中働いてお金を稼いでおられるのです・・・」
「なんと・・・」
ハーベストとキリウスは愕然とした。
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