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ハーベスト王子の負傷
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「どけ!道を開けろ」
緊張感が一気に高まる。
何事かとティナもロビーに向かった。
簡易な担架に乗せられ数人の騎士が運び込まれてくるところだった。
「まあ!大変だわ!ビスタ・・・ビスタ!お医者様を呼んできて!」
「はい、お嬢様!」
ビスタが慌てて裏口に向かった。
リアはその様子を確認し、湯を沸かすために駆けだした。
(さすが我が腹心たち。やるわね!さあ、私もがんばらなくちゃ)
ティナはハンカチを握りしめ階段を駆け下りた。
「ああ・・・お怪我を・・・どうしましょう・・・今お医者様を呼びに行かせましたわ・・・ああ・・・」
涙を浮かべ床に寝かされている騎士の手を握る。
(命に別条はなさそうだけど・・・刀傷ではなさそうね・・・)
「大丈夫ですか?しっかりなさいませ!」
オロオロとする振りをしながらティナはわざと自分のハンカチで血を拭ってやる。
「ティナロア嬢・・・大丈夫です。御召し物が汚れてしまいます。自分は大丈夫ですから・・・」
「いいえ、いけません。どうぞ今はお気を強くお持ちになって!今お医者様が来てくださいますから・・・どうか・・・」
「ありがとうございます」
騎士は顔を赤らめながらティナに礼を言った。
傷はそこまで深くなさそうだが泥にまみれて不衛生な状態だった。
「お嬢様!お湯をお持ちしました!」
リアが盥に適温の湯を持って来た。
清潔な布もたっぷり用意している。
(さすがリア!でかしたぞ!)
「失礼しますわね」
ティナはそういうと傷口付近の服を切るように近くにいた騎士に頼み、露出した傷口を丁寧にお湯で拭った。
数人の騎士に同じような手当を施していた時、医者がビスタに手を引かれて屋敷に駆け込んできた。
「先生!お願い致します!」
ゆっくりと頷いた医者は次々と患者の様子を確認していった。
消毒用のアルコールが無くなったという医者の声を受けビスタが街に走る。
リアは次々に湯を沸かし、血で汚れた布を回収していった。
(想定外の動きなのに凄いわね、二人とも)
外で馬の嘶きが響き、新たな怪我人が運び込まれた。
ティナは運び込まれた怪我人を見て息を呑んだ。
「ハーベスト様!」
ティナは右腕を血まみれにして青ざめた顔色のハーベストに駆け寄る。
さすがに皇子殿下を床に寝かせることはできないので、部屋へ担架のままハーベストの部屋に運び込まれた。
湯を部屋に運ぶようにリアに指示を出し、清潔な布を抱えてティナもハーベストの後を追った。
「ああ・・・ハーベスト様・・・ハーベスト様・・・」
「大丈夫ですよティナロア嬢。護岸が急に崩れて数人が巻き込まれただけです」
キリウスが冷静に説明する。
涙を浮かべハーベストの手を握りしめてティナはキリウスの顔を見詰めた。
「死者はいませんからどうぞ安心してください。瓦礫で怪我を負っただけですよ」
「でもハーベスト様までお怪我なさるなんて・・・」
そうだ。これは拙い。手抜き工事のために第一皇子が怪我を負ったと言えば開戦理由になりかねない。
なんとかしないと・・・
ティナは唇を噛みしめた。
溜まっていた涙が頬に流れる。
「ああ・・・ティナ・・・泣かないで。あなたに泣かれる方が傷の痛みよりよっぽど辛い」
「ハーベスト様!」
ハーベストはティナの頬に手を伸ばした。
うっすらと微笑みながらティナの目をまっすぐに見詰めてくる。
「ティナロア嬢・・・騙されてはいけません。大した傷じゃありませんから。ねえ、殿下?」
キリウスがしれっと言う。
「縫うほどではありませんが、感染症の心配もあるので数日安静にしておいてください」
そう言い残すと医者はさっさとロビーに向かった。
「お前・・・少し黙っとけ!」
ハーベストがキリウスを睨んだ。
「いえ!アルベッシュ王国第一皇子殿下がお怪我を負われるなど・・・あってはならないことですわ!ああ・・・しかも我がベルツ王国内でこのような・・・いえ、我が国の体面など関係ありません。ああ・・・ハーベスト様・・・お怪我をされるなんて・・・」
ティナがハーベストを心配する言葉を捲し立てる。
ハーベストの手を強く握り、震えながら涙を流した。
(ちょっとクサいかしら・・・)
そんなティナの様子をハーベストもキリウスも感動したような目で見ている。
ちらちらと二人の様子を伺ったティナは心の中でガッツポーズをした。
「あっ・・・私ったら・・・ゆっくりお休みになりたいですわね・・・気が利かないことで申し訳ございません」
ティナは立ち上がりベッドサイドを離れようとした。
「待って!待ってくださいティナ!ここにいて!あなたの泣き顔を他の奴らには勿体なくて見せたくありません。どうか・・・」
ハーベストがティナの腕を掴む。
ティナはハッと驚いた様子で立ち竦んだ。
緊張感が一気に高まる。
何事かとティナもロビーに向かった。
簡易な担架に乗せられ数人の騎士が運び込まれてくるところだった。
「まあ!大変だわ!ビスタ・・・ビスタ!お医者様を呼んできて!」
「はい、お嬢様!」
ビスタが慌てて裏口に向かった。
リアはその様子を確認し、湯を沸かすために駆けだした。
(さすが我が腹心たち。やるわね!さあ、私もがんばらなくちゃ)
ティナはハンカチを握りしめ階段を駆け下りた。
「ああ・・・お怪我を・・・どうしましょう・・・今お医者様を呼びに行かせましたわ・・・ああ・・・」
涙を浮かべ床に寝かされている騎士の手を握る。
(命に別条はなさそうだけど・・・刀傷ではなさそうね・・・)
「大丈夫ですか?しっかりなさいませ!」
オロオロとする振りをしながらティナはわざと自分のハンカチで血を拭ってやる。
「ティナロア嬢・・・大丈夫です。御召し物が汚れてしまいます。自分は大丈夫ですから・・・」
「いいえ、いけません。どうぞ今はお気を強くお持ちになって!今お医者様が来てくださいますから・・・どうか・・・」
「ありがとうございます」
騎士は顔を赤らめながらティナに礼を言った。
傷はそこまで深くなさそうだが泥にまみれて不衛生な状態だった。
「お嬢様!お湯をお持ちしました!」
リアが盥に適温の湯を持って来た。
清潔な布もたっぷり用意している。
(さすがリア!でかしたぞ!)
「失礼しますわね」
ティナはそういうと傷口付近の服を切るように近くにいた騎士に頼み、露出した傷口を丁寧にお湯で拭った。
数人の騎士に同じような手当を施していた時、医者がビスタに手を引かれて屋敷に駆け込んできた。
「先生!お願い致します!」
ゆっくりと頷いた医者は次々と患者の様子を確認していった。
消毒用のアルコールが無くなったという医者の声を受けビスタが街に走る。
リアは次々に湯を沸かし、血で汚れた布を回収していった。
(想定外の動きなのに凄いわね、二人とも)
外で馬の嘶きが響き、新たな怪我人が運び込まれた。
ティナは運び込まれた怪我人を見て息を呑んだ。
「ハーベスト様!」
ティナは右腕を血まみれにして青ざめた顔色のハーベストに駆け寄る。
さすがに皇子殿下を床に寝かせることはできないので、部屋へ担架のままハーベストの部屋に運び込まれた。
湯を部屋に運ぶようにリアに指示を出し、清潔な布を抱えてティナもハーベストの後を追った。
「ああ・・・ハーベスト様・・・ハーベスト様・・・」
「大丈夫ですよティナロア嬢。護岸が急に崩れて数人が巻き込まれただけです」
キリウスが冷静に説明する。
涙を浮かべハーベストの手を握りしめてティナはキリウスの顔を見詰めた。
「死者はいませんからどうぞ安心してください。瓦礫で怪我を負っただけですよ」
「でもハーベスト様までお怪我なさるなんて・・・」
そうだ。これは拙い。手抜き工事のために第一皇子が怪我を負ったと言えば開戦理由になりかねない。
なんとかしないと・・・
ティナは唇を噛みしめた。
溜まっていた涙が頬に流れる。
「ああ・・・ティナ・・・泣かないで。あなたに泣かれる方が傷の痛みよりよっぽど辛い」
「ハーベスト様!」
ハーベストはティナの頬に手を伸ばした。
うっすらと微笑みながらティナの目をまっすぐに見詰めてくる。
「ティナロア嬢・・・騙されてはいけません。大した傷じゃありませんから。ねえ、殿下?」
キリウスがしれっと言う。
「縫うほどではありませんが、感染症の心配もあるので数日安静にしておいてください」
そう言い残すと医者はさっさとロビーに向かった。
「お前・・・少し黙っとけ!」
ハーベストがキリウスを睨んだ。
「いえ!アルベッシュ王国第一皇子殿下がお怪我を負われるなど・・・あってはならないことですわ!ああ・・・しかも我がベルツ王国内でこのような・・・いえ、我が国の体面など関係ありません。ああ・・・ハーベスト様・・・お怪我をされるなんて・・・」
ティナがハーベストを心配する言葉を捲し立てる。
ハーベストの手を強く握り、震えながら涙を流した。
(ちょっとクサいかしら・・・)
そんなティナの様子をハーベストもキリウスも感動したような目で見ている。
ちらちらと二人の様子を伺ったティナは心の中でガッツポーズをした。
「あっ・・・私ったら・・・ゆっくりお休みになりたいですわね・・・気が利かないことで申し訳ございません」
ティナは立ち上がりベッドサイドを離れようとした。
「待って!待ってくださいティナ!ここにいて!あなたの泣き顔を他の奴らには勿体なくて見せたくありません。どうか・・・」
ハーベストがティナの腕を掴む。
ティナはハッと驚いた様子で立ち竦んだ。
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