17 / 184
出兵することになりました
しおりを挟む
さすがにまだ起きていないだろうと思ったが騎士たちの朝は予想以上に早かった。
4時過ぎに通用口を出たのに数人がすでに前庭で剣を振っている。
朝食前にあれほど体を動かすのなら、もう少しボリュームのある朝食を用意したほうが良さそうだなどと考えながら馬を駆った。
出掛けるところを気付かれると面倒だと思ったが、誰も気にする様子は無いので安心する。
「おはようございます。お休みをいただいて申し訳ありませんでした」
「ああ、おはようロア。冬場だからそんなに忙しくは無いけど、やっぱりあんたが居なくちゃお客が心配していたよ」
「ははは、揶揄える相手が居なくて寂しかったのでしょうね」
「そうだろうね。じゃあ早速だけど野菜を洗ってきてくれるかい?」
「はい」
ティナはジャガイモがたくさん入った籠を抱えて裏の井戸に向かった。
ジャガイモの次は人参と玉葱だ。
ティナは次々に手際よくこなしていった。
木箱に座ってジャガイモの皮を剥く。
ずっと同じ姿勢で作業をしているせいか、何度やっても体がこわばる。
やっと作業を終えて立ち上がり背伸びをした時、つい声に出てしまった。
「いてててって・・・あ~しんどい」
市場で一仕事終えた人達が食事にやってきて、ティナはホールで踊るようにクルクルと接客をしていた。
「ああ・・・聞いたよ。護岸工事が終わったばかりだってのになぁ」
「そうだよな。隣国の奴ら・・・あれじゃ盗賊だよ」
「国境地帯の農民はみんな逃げてきてるだろ?」
なかなか不穏な話がティナの耳に入ってきた。
どうやら国境地帯で強奪事件が多発しているようだ。
まあ国境警備隊という組織が動くはずだし・・・と考えたとき別の客の声が聞こえた。
「なんでも警備隊の奴ら逃げ帰ったらしいじゃねぇか」
「ああ、そんなもんだろうよ」
「相手も相当強いって話だぜ?」
「なんでも傭兵崩れが多いとか聞いたな」
「そんな奴らがこっちまで来たらヤバいんじゃねぇか?」
ふとティナはハーベストの顔を思い浮かべた。
そもそも友好国とはいえ盗賊まがいの傭兵崩れの集団に第一王子が出張るというのも不自然だ。
(という事は、ハーベストたちは傭兵崩れの集団の情報を持っていたという事ね)
この一点だけでもベルツ王国の深刻な弱体化が知れるというものだ。
(このほころびから一気に戦争突入っていうシナリオも描けるわね)
国境地帯での小競り合いが大きな戦争へのトリガーになることくらいティナにも分かる。
(なんとしても戦争になるのは避けないと)
そんな事を考えながらも体を動かし続けていたら女将さんから声が掛かった。
「ロア、お疲れさん。そろそろ上がっていいよ。賄いは鍋に入れておいたから持ってお帰り」
「女将さん。いつもありがとうございます」
ティナはエプロンを壁に掛けて鍋を袋に入れながら礼を言って帰途についた。
こっそり裏口から厨房に入りビスタに鍋を渡して風呂に向かう。
部屋に戻る時ロビーの様子を伺ったが、さほどの緊迫感は感じられなかった。
(そこまで深刻じゃないのかしら?)
忙しいばかりで特に変わったことも無く何日か過ぎた頃、ハーベストたちに動きがあった。
ロビーに集められた騎士たちが出陣の準備をしている。
テキパキとレーベン卿が指示を出し、ハーベストは地図を広げて作戦を練っている。
(出兵かしら・・・)
ちらちらとロビーの様子を伺うティナの姿をハーベストがみつけた。
「レディティナ?良いところに。少しお時間をいただけますか?」
「はい大丈夫です。そちらに伺いますわ」
「レディ、実は国境地帯に向かうことになりました。本格的な戦闘というわけではありませんが、交代で行くことになりそうです」
「そうですか・・・危険なお仕事なのですよね?心配ですわ」
「そうでもないと思います。なんでも隣国から盗賊まがいの奴らが入り込むようで・・・訓練された軍隊というわけでは無いですからすぐに片付きますよ」
「それなら良いのですが・・・」
ティナは胸の前で手を握り少し不安そうな表情を浮かべた。
それから数日後、ハーベストはこの安易な予想を後悔することになった。
4時過ぎに通用口を出たのに数人がすでに前庭で剣を振っている。
朝食前にあれほど体を動かすのなら、もう少しボリュームのある朝食を用意したほうが良さそうだなどと考えながら馬を駆った。
出掛けるところを気付かれると面倒だと思ったが、誰も気にする様子は無いので安心する。
「おはようございます。お休みをいただいて申し訳ありませんでした」
「ああ、おはようロア。冬場だからそんなに忙しくは無いけど、やっぱりあんたが居なくちゃお客が心配していたよ」
「ははは、揶揄える相手が居なくて寂しかったのでしょうね」
「そうだろうね。じゃあ早速だけど野菜を洗ってきてくれるかい?」
「はい」
ティナはジャガイモがたくさん入った籠を抱えて裏の井戸に向かった。
ジャガイモの次は人参と玉葱だ。
ティナは次々に手際よくこなしていった。
木箱に座ってジャガイモの皮を剥く。
ずっと同じ姿勢で作業をしているせいか、何度やっても体がこわばる。
やっと作業を終えて立ち上がり背伸びをした時、つい声に出てしまった。
「いてててって・・・あ~しんどい」
市場で一仕事終えた人達が食事にやってきて、ティナはホールで踊るようにクルクルと接客をしていた。
「ああ・・・聞いたよ。護岸工事が終わったばかりだってのになぁ」
「そうだよな。隣国の奴ら・・・あれじゃ盗賊だよ」
「国境地帯の農民はみんな逃げてきてるだろ?」
なかなか不穏な話がティナの耳に入ってきた。
どうやら国境地帯で強奪事件が多発しているようだ。
まあ国境警備隊という組織が動くはずだし・・・と考えたとき別の客の声が聞こえた。
「なんでも警備隊の奴ら逃げ帰ったらしいじゃねぇか」
「ああ、そんなもんだろうよ」
「相手も相当強いって話だぜ?」
「なんでも傭兵崩れが多いとか聞いたな」
「そんな奴らがこっちまで来たらヤバいんじゃねぇか?」
ふとティナはハーベストの顔を思い浮かべた。
そもそも友好国とはいえ盗賊まがいの傭兵崩れの集団に第一王子が出張るというのも不自然だ。
(という事は、ハーベストたちは傭兵崩れの集団の情報を持っていたという事ね)
この一点だけでもベルツ王国の深刻な弱体化が知れるというものだ。
(このほころびから一気に戦争突入っていうシナリオも描けるわね)
国境地帯での小競り合いが大きな戦争へのトリガーになることくらいティナにも分かる。
(なんとしても戦争になるのは避けないと)
そんな事を考えながらも体を動かし続けていたら女将さんから声が掛かった。
「ロア、お疲れさん。そろそろ上がっていいよ。賄いは鍋に入れておいたから持ってお帰り」
「女将さん。いつもありがとうございます」
ティナはエプロンを壁に掛けて鍋を袋に入れながら礼を言って帰途についた。
こっそり裏口から厨房に入りビスタに鍋を渡して風呂に向かう。
部屋に戻る時ロビーの様子を伺ったが、さほどの緊迫感は感じられなかった。
(そこまで深刻じゃないのかしら?)
忙しいばかりで特に変わったことも無く何日か過ぎた頃、ハーベストたちに動きがあった。
ロビーに集められた騎士たちが出陣の準備をしている。
テキパキとレーベン卿が指示を出し、ハーベストは地図を広げて作戦を練っている。
(出兵かしら・・・)
ちらちらとロビーの様子を伺うティナの姿をハーベストがみつけた。
「レディティナ?良いところに。少しお時間をいただけますか?」
「はい大丈夫です。そちらに伺いますわ」
「レディ、実は国境地帯に向かうことになりました。本格的な戦闘というわけではありませんが、交代で行くことになりそうです」
「そうですか・・・危険なお仕事なのですよね?心配ですわ」
「そうでもないと思います。なんでも隣国から盗賊まがいの奴らが入り込むようで・・・訓練された軍隊というわけでは無いですからすぐに片付きますよ」
「それなら良いのですが・・・」
ティナは胸の前で手を握り少し不安そうな表情を浮かべた。
それから数日後、ハーベストはこの安易な予想を後悔することになった。
23
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー
夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。
成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。
そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。
虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。
ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。
大人描写のある回には★をつけます。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される
雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。
スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。
※誤字報告、感想などありがとうございます!
書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました!
電子書籍も出ました。
文庫版が2024年7月5日に発売されました!
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる