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悪女降臨はお約束

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「ティナ!ティナロア!いつまで具合が悪い振りをしてるのよ!早くしなさい!」

ぎしぎしと痛む額に手を当て乍ら目を開けると、真っ赤な瞳のケバケバしい女の顔が目に入った。

(誰だ?)

「やっと目を開けたわ!お母さま、ティナロアには少し躾が必要ではなくて?」

「そうね。でも今は早く厨房に行かせないとお客様をこれ以上お待たせできないわ」

「さあ、聞こえたでしょ?ティナ!早くお茶の準備をして応接間に持っていきなさい!」

(意味がわからん・・・あの後のケバイおばさんが神が言ってた正妻って人ね?)

のろのろと体を起こしベッドから起き上がったティナは自分の姿に驚いた。

(わ・・・若い!わたし何歳なの?)

ミッションにばかり気をとられていたせいか、大前提の部分をすっ飛ばしていたようだ。

(ティナロアって言うのね・・・わたし)

着ている物は少々傷んではいるが伯爵令嬢の普段着といったところだろうか。
目の前のケバイおばさんとケバケバ娘は歩くのも辛かろうというくらい着飾っているが。

「お茶・・・お茶ですね?どこに行けば良いのでしょうか?」

「あんた・・・さっき頭でも打ったの?厨房に行ってさっさとお茶を淹れて来なさい。応接間に持って行くのよ!お父様とお客様がいらっしゃるから!」

(厨房・・・どこよそれ・・・まあ行って探すか)

「畏まりましたわ。すぐにお持ちいたします」

「ふんっ!」

二人は行ってしまった。
その後をついてのろのろと歩く。

厨房は地下にあった。
明かりとりの窓が天井近くにあるので思ったより暗くない。
お湯は既に湧いているようだった。

「お嬢様・・・大丈夫ですか?」

中年の男がおろおろとしながら話しかけた。

「ええ、大丈夫かな・・・わたしどうなってた?」

「いつものようにベニス様の嫌がらせで階段から落ちて気を失われました」

「ベニス?で、ベニスはどこにいるの?」

「ご自分のお部屋だと思います」

「後で場所を教えてね。なんだか思い出せないの。それより早くお茶の用意を」

「こちらにできております」

「ああ、助かったわ。ありがとう。で、応接室ってどこ?」

「・・・‥‥‥お嬢様・・・本当に大丈夫でございますか?」

「うん。たぶん大丈夫・・・思い出せないのよ・・・教えてくれる?」

「お部屋の前までお持ちいたしますので・・・こちらです」

ティーセットがのったトレイを持ち、中年の男がティナを先導した。

「それではよろしくお願い致します」

「わかったわ。あなたは・・・ええっと・・・名前なんだっけ?」

「ビスタでございます!お嬢様」

「あ・・・ああ、ありがとうビスタ」

応接室のドアをノックし、応答を確認してから入室したティナは少々驚いてしまった。
伯爵家と聞いていたが、古びた応接セット以外ほとんど家具も装飾も無いのだ。
寒々とした部屋の真ん中に置かれたソファーには下卑た顔でこちらを見る中年男性と、眉を八の字に下げた初老の男性が座っている。

「お待たせいたしました」

「ああ、ティナロア。具合が悪いと聞いたが大丈夫か?」

(ああ、この人が伯爵・・・ってことはお父様ね)

「はい、お父様。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでしたわ」

優雅な所作でお茶を配り終えたティナはドアの前で美しいカーテシーを見せた。
そんなティナの姿を見た下卑た男が伯爵に向かって言った。

「これならかなり上積みできそうですな。へへへ」

伯爵は苦虫を噛み潰したような顔をしてティナから目を背けた。

「失礼いたしますわ」

部屋から出たティナは大きく息を吐いた。

(意味がわからん!この言葉遣いはなんじゃ?)

貴族令嬢然とした所作も言葉遣いも自然と湧いて出てくるのだ。

(もしや神のプレゼントってこのチート?)

少しずつではあるが転生したという実感が湧いてきたティナはぶんぶんと首を振って意識を集中させた。

(さあ、まずはベニスね・・・)

「ビスタ!ビスタいる?」

「はい、お嬢様。御用でしょうか」

「ええ、ベニスの部屋を教えてちょうだい。まだ頭が痛くて痛くて思い出せないの」

「はい・・・。この階段を上がった右手の部屋でございます・・・」

(何を怯えているのかしら?)

「ありがとうビスタ。ここにもお茶を持ってきてくれる?」

「は・・・はい。畏まりました」

階段を上がりベニスの部屋をノックした。

「ベニス?ベニスいるんでしょう?」

「誰よ!」

「わたしよ。ティナ。入るわよ」

ガチャリとドアを開けると大きなトランクが三つ積まれただけの何も無い空間が広がった。
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