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エピローグ
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それから私たちは毎日が本当に忙しく、飛ぶように日が過ぎていった。
卒業式には母が出席してくれたし、葛城のところは静香さんが来ていた。
いっくんは父親と深雪ちゃんがみているらしい。
そんなことなら父親が来たら良かったじゃないかと言う私に、葛城が満面の笑みで言った。
「私が嫌だって言ったの。あなたなら来なくていいって。そしたら静香さんが、じゃあ私が行くって言って、お父さんに仕事を休んでいっくんの面倒をみろって。まあ面倒をみるって言ってもいっくんは寝てるだけだから」
「そうかぁ、言ったか。すっきりした?」
「うん、ちょっとすっきりした。お父さんったらすごくびっくりした顔をしてたよ。それとね、入学金を払いそびれたことも謝ってくれた。来年頑張れってさ。勉強するのはこっちなのに、他人事だよねぇ」
「うんうん、そうか。謝ったか。よしよし」
順番に名前を呼ばれ、クラス代表が壇上に上がって卒業証書を受け取る。
決まりきった手順が毎年繰り返されるだけの『卒業式』というただの儀式なのに、何がこれほど泣かせるのだろう。
高校生として過ごした3年間など、人生の4%にも満たないほどの時間だというのに、なぜ心がこれほどまでに痛いのだろうか。
この涙は悲しみの涙ではない。
でも嬉し涙でもないのだ。
なんと表現すればいいのか分からないが、敢えて言うなら『万感の思い』だろうか。
卒業生や在校生が入り交じり、思い思いの場所で記念写真を撮っている。
私や葛城も誘われていくつかのカメラにおさまった。
車で来ている母が静香さんを送るというので、私と葛城はもう少し残ると答えた。
あの桜の木の下に行く。
ベンチに並んで座り、スノウホワイトの話や、グレートブラザーの思い出を語り合う。
クラスメイト達が駆けてきて、一緒に写真を撮った。
思えばこの子たちが葛城に文句を言ったのがきっかけのようなものだったな……
人生って不思議だね。
私たちを見守り続けていた桜の枝先は、まだ固い蕾しかつけていない。
でも私たちの目には満開の桜が見えている。
私たちの人生は始まったばかりだ。
きっと想像もつかない苦労もあるのだろう。
でもこの三年間の努力を思い出せば、乗り切れるような気がする。
泣きはらした目のままで、私達はこれからも頑張ることを誓いあった。
サクラ舞い散るヤヨイの空に
手を振って去ってゆくクラスメイトを見送りながら、私は葛城に言った。
「なあ葛城、お前の名前の『沙』っていう字は、川辺の砂を指すんだけど、悪いものをより分けるという意味があるんだよ『悪いものを退け、良いものだけを選び残す者なり』それがお前だ。そしてお前はそれを見事に成し遂げた。お前は名前負けしてないよ」
葛城は驚いた顔をしたが、何も言わずに良い顔で笑った。
西の空が茜色に染まり始め、私たちは並んで校門を出る。
「ありがとうございました」
いきなり葛城が振り返ってお辞儀をする。
「ありがとうございました」
一緒に校門を出たクラスメイト達がそれに倣う。
うん、良い高校生活だったよ。
まさに万里一空。
週が明けたら私は京都へと旅立つ。
さようなら、みんな。
元気でね。
*
「じゃあ葛城、もう行くよ。元気でね」
東京駅に向かう私を、葛城が地下鉄駅まで送りに来てくれた。
「うん、洋子ちゃんも元気で頑張って。私、絶対に追いついてみせるから」
葛城は家事を手伝いながら自力で来年の受験を目指すことにしたらしい。
「待ってるよ。手紙も書くし、電話もする」
「ありがとう。待ってるから」
私はどうしても気になっていることを口にしてみた。
「あの家から出ないの?」
「……もう少し頑張ってみようと思うんだ。今のまま出て行ったら家族がバラバラになりそうな気がする。私は大丈夫だから」
「そうか。葛城がそう決めたのなら、私は応援するだけだね。でも無理はしないで、ダメなら逃げてこい。匿ってやる」
「心強い! さすが洋子ちゃん」
もうすでに何本かの電車に乗りそびれている事を思い出す。
「やばっ! マジでもう本当に行くね」
地下鉄の駅に金属と金属が擦れ合う音が響く。
大きなトランクを引き摺って改札を抜けた私に、葛城沙也が手を差し出した。
「今までありがとう、洋子ちゃん」
「こちらこそ」
私たちは再会を約束して固く握手を交わし、互いに為すべきことを為すと誓いあった。
おしまい
卒業式には母が出席してくれたし、葛城のところは静香さんが来ていた。
いっくんは父親と深雪ちゃんがみているらしい。
そんなことなら父親が来たら良かったじゃないかと言う私に、葛城が満面の笑みで言った。
「私が嫌だって言ったの。あなたなら来なくていいって。そしたら静香さんが、じゃあ私が行くって言って、お父さんに仕事を休んでいっくんの面倒をみろって。まあ面倒をみるって言ってもいっくんは寝てるだけだから」
「そうかぁ、言ったか。すっきりした?」
「うん、ちょっとすっきりした。お父さんったらすごくびっくりした顔をしてたよ。それとね、入学金を払いそびれたことも謝ってくれた。来年頑張れってさ。勉強するのはこっちなのに、他人事だよねぇ」
「うんうん、そうか。謝ったか。よしよし」
順番に名前を呼ばれ、クラス代表が壇上に上がって卒業証書を受け取る。
決まりきった手順が毎年繰り返されるだけの『卒業式』というただの儀式なのに、何がこれほど泣かせるのだろう。
高校生として過ごした3年間など、人生の4%にも満たないほどの時間だというのに、なぜ心がこれほどまでに痛いのだろうか。
この涙は悲しみの涙ではない。
でも嬉し涙でもないのだ。
なんと表現すればいいのか分からないが、敢えて言うなら『万感の思い』だろうか。
卒業生や在校生が入り交じり、思い思いの場所で記念写真を撮っている。
私や葛城も誘われていくつかのカメラにおさまった。
車で来ている母が静香さんを送るというので、私と葛城はもう少し残ると答えた。
あの桜の木の下に行く。
ベンチに並んで座り、スノウホワイトの話や、グレートブラザーの思い出を語り合う。
クラスメイト達が駆けてきて、一緒に写真を撮った。
思えばこの子たちが葛城に文句を言ったのがきっかけのようなものだったな……
人生って不思議だね。
私たちを見守り続けていた桜の枝先は、まだ固い蕾しかつけていない。
でも私たちの目には満開の桜が見えている。
私たちの人生は始まったばかりだ。
きっと想像もつかない苦労もあるのだろう。
でもこの三年間の努力を思い出せば、乗り切れるような気がする。
泣きはらした目のままで、私達はこれからも頑張ることを誓いあった。
サクラ舞い散るヤヨイの空に
手を振って去ってゆくクラスメイトを見送りながら、私は葛城に言った。
「なあ葛城、お前の名前の『沙』っていう字は、川辺の砂を指すんだけど、悪いものをより分けるという意味があるんだよ『悪いものを退け、良いものだけを選び残す者なり』それがお前だ。そしてお前はそれを見事に成し遂げた。お前は名前負けしてないよ」
葛城は驚いた顔をしたが、何も言わずに良い顔で笑った。
西の空が茜色に染まり始め、私たちは並んで校門を出る。
「ありがとうございました」
いきなり葛城が振り返ってお辞儀をする。
「ありがとうございました」
一緒に校門を出たクラスメイト達がそれに倣う。
うん、良い高校生活だったよ。
まさに万里一空。
週が明けたら私は京都へと旅立つ。
さようなら、みんな。
元気でね。
*
「じゃあ葛城、もう行くよ。元気でね」
東京駅に向かう私を、葛城が地下鉄駅まで送りに来てくれた。
「うん、洋子ちゃんも元気で頑張って。私、絶対に追いついてみせるから」
葛城は家事を手伝いながら自力で来年の受験を目指すことにしたらしい。
「待ってるよ。手紙も書くし、電話もする」
「ありがとう。待ってるから」
私はどうしても気になっていることを口にしてみた。
「あの家から出ないの?」
「……もう少し頑張ってみようと思うんだ。今のまま出て行ったら家族がバラバラになりそうな気がする。私は大丈夫だから」
「そうか。葛城がそう決めたのなら、私は応援するだけだね。でも無理はしないで、ダメなら逃げてこい。匿ってやる」
「心強い! さすが洋子ちゃん」
もうすでに何本かの電車に乗りそびれている事を思い出す。
「やばっ! マジでもう本当に行くね」
地下鉄の駅に金属と金属が擦れ合う音が響く。
大きなトランクを引き摺って改札を抜けた私に、葛城沙也が手を差し出した。
「今までありがとう、洋子ちゃん」
「こちらこそ」
私たちは再会を約束して固く握手を交わし、互いに為すべきことを為すと誓いあった。
おしまい
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これからもよろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
私としてもかなり思い入れのあるものだったので、そう言っていただけると本当にうれしいです。
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初コメ(もしかしたら唯一)が嬉し過ぎて、何度も読み返しては感激しております。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。